S11 屋台市での談笑 in 双華祭
屋台市へと向った六名は、ポンキチに案内された屋台で卓を囲んでいた。
テーブル中央の台座に現れた星魚の唐揚げの大皿を見て一同を笑みを零す。
「すごい量だな」
「まずは乾杯といくか」
ケヴィンの言葉に皆は卓に並んだビールをそれぞれ手に取り、何故かポンキチとペルシアは律儀にラムネとオレンジジュースを手にしていたが、一同は杯を持って交わし始める。
「それじゃ、双華祭を祝って乾杯!」
ケヴィンの音頭に合わせて杯を鳴らす一同。
「何でポンキチ、お前ラムネなんだよ」
「だって僕未成年でし!」
妙なところに律儀な奴だな、とそう思ってエルツが笑い声を漏らしていると、隣でユミルとミサが私達いけないことしてるのかなと罰が悪そうな顔で苦笑していた。
「二人とも気にしなくて大丈夫。この世界じゃお酒は酔った擬似感覚を味わうだけだから、本当に酔っ払うわけじゃないしそんな気にする事ないよ。あくまでゲームの中での擬似体験だからさ」
「ってスニーピィさんに教わったんだろ」
ケヴィンの突っ込みにエルツが「うん」と猫目を返すと、ケヴィンが隣でビールを鼻から吹き出した。
「お前、ふざけんなよ。その顔なんか脱力すんだよ!」
「突っ込みにリアクション返しただけだろ」
そんな二人のやり取りに自然と場から笑いが零れる。
「アリエス達は残念だったな。コミュニティの方が忙しいのか」
「あ、さっきメールがあってもうすぐ来れるみたいですよ。ここの場所教えたのでそろそろ来るかも」
ユミルはサラダを皆に配りながらそう語る。
「そっか、それじゃここでゆっくり待ってればいいか」
「エルツ、悪ぃ。そこのレモン取って」
ケヴィンに促されて唐揚げの大皿に視線をやるエルツ。
「これ面倒だから全体的にレモン絞っちゃっていい? 誰か嫌な人居る?」
「わたし大丈夫です。お願いしまーす」と先陣を切ってユミルが返答。
ポンキチは口一杯に唐揚げを頬張りながら「$%O#!&%%!」と多分大丈夫という事だろうと認識するエルツ。
「おねがいします」とミサとペルシアの笑顔を確認したところで、大皿の左半分にレモンを絞り掛けるエルツ。
「一応左半分だけレモン絞ったよ」
「%&$!%&%&!」と口に唐揚げを頬張りながら拍手するポンキチ。
意味がわからないのでとりあえず放置する事にする。
「この唐揚げ美味いな」
ケヴィンが唐揚げを口にしながらそう呟いた。
「ほんと、美味しい」と続いてユミルが声を上げると、次々に皆が美味しいと声を上げ始める。それを聞いてエルツも皿に手を伸ばし唐揚げを口に運ぶ。口に入れた瞬間、まず香ばしい香りが口中に広がり、噛むと柔らかな白身から旨味が溢れ出す。
「ほんとだ、これは美味いわ」
ちょっとした感動を覚えて、箸で摘んでいた残りの唐揚げを一口に放り込むエルツ。
「胡麻油も掛かってるこれ。香りもすごくいい」
そう語るユミル。料亭の娘という話を聞いた後だと、何故だかこうしたユミルの何気ない一言がとても魅力的に感じられた。
「ポンキチお手柄だな」
「まぁ言うなれば、僕は存在そのものがお手柄みたいなもんですから」
意味がわからん。心の中でエルツがそう呟いたその時だった。
「こんばんは」
柔らかい響きを持ったこの声は、そう思ってエルツが振り向くとそこには予想通りアリエスとトマの姿があった。皆に温かな笑顔で迎え入れられる二人。
「待ってたよ二人共」
エルツの言葉に頭を下げる二人。
「すみません、待たせてしまったみたいで。あ、ここ入れてもらっていいですか?」
そう言ってエルツの隣に腰を下ろすアリエス。
「これで全員揃ったな。そうだ、アリエスに聞きたい事があったんだ。あ、ビールでいい?」
「あ、はい。ありがとうございます。で、聞きたい事って何です?」
アリエスにビールを手渡しながらふと尋ね掛けるエルツ。
「ときにさアリエス、港でオートマタ戦ってやった?」
エルツの質問にふと視線を返すアリエス。
「ええ、やりましたよ。あれは相当難易度高いですね。普段魔法の扱いには手馴れてる私でも勝てませんでしたから。もしかしてクリアしたんですか?」
「いや、全然。一回も攻撃すら出来ないまま終わったよ。あれってさ、向こう火球二個空中に滞空させて攻撃してきたけど、あれって向こう装備してたのファイアロッドだよね。って事はこっちも同じ事出来るの?というか、まず火球滞空させるのってどうやるの?」
エルツの質問に笑みを漏らすアリエス。
「ええと、質問を整理しましょうか。まず術の滞空、フロートについてですが。これはフロート可能な魔法であれば、魔法発動後、フロートと宣言する事でエネルギーを滞空する事が出来ます。また刻印を刻む時にファイアボールであれば通常は『FB』で発動しますが、末尾に『F』をつけて『FBF』とする事で、火球をフロートする事が出来ます」
アリエスの説明に聞き入る一同。
「なので、結論的に同じ事が出来るかという質問ですけど、これは可能です。ただおそらく敵が二つの火球をフロートしてきた事から敵のLvは10以上ですね。こちらのLvが10に制限されている事からおそらくLv10なのではないかと思いますが。ちなみに、私達はLv9なので、フロートできる火球の数は一個が限界です。火球を二個フロート出来る様になるのはLv10からなんですよ」
「なるほど、そうだったんだ。じゃLv9で挑むって事自体が結構無謀なのかな」
「そうですね、でも戦ってみた感じだとたとえ同Lvでも苦しい戦いになりそうですけど」
話し込むエルツ達の会話を聞いていたユミルが微笑してふと呟いた。
「なんか楽しそう。わたしもやれば良かったな」
「後でまた皆でやりに行こうか。もう一時間経ったからうちらもまた挑戦できるし」
そんな会話を一同が楽しんでいたその時だった。
遥か頭上でパーンと何かが弾けるような音ともに、辺り一面に光の粉が舞い落ちる。
「あ、見てみて花火!」
ペルシアの言葉に皆が頭上を仰ぐ。
星空を背景に、美しく咲いては散ってゆく華々。降り注ぐ光の中で、いつしか一同は箸を置き、その幻想的な光景に魅入っていた。純白と深紅の花々が夜空で咲き乱れるその様子は一つの完成された芸術だ。
仲間と共に眺めるその空間はこの上ない高揚と喜びを与えてくれる。
郷愁と懐古、そして未知の可能性を秘めたこの双華祭。
――いつまでもこんな時間が続けばいい――
それはそんな叶わぬ願いを抱いてしまう至福の一瞬だった。