S10 東門橋と星魚
港へと戻ったエルツとケヴィンはユミル達と合流し、再び繁華街を歩いていた。
項垂れたエルツとケヴィンを見て可笑しそうに微笑むユミルとミサ。
「そんなに強かったの?」
「強ぇなんてもんじゃねぇよ」
ユミルの質問にぶっきらぼうに答えるケヴィン。
確かに、あれは付け焼刃な立ち回りでは到底刃が立たない。お祭りイベントだしそんなに高難易度なイベントは持ってこないだろうと高を括ったのが大間違いだった。
「あれさ、あのオートマタがやってきた戦術ってうちらも実際に使えるのかな」
エルツの問いに首を傾げるケヴィン。
「さぁ、普段術使わねぇからな」
「確かに、そうだよなぁ。魔法って今まであんまり縁が無かったし」
そう言いながらふとエルツはある人物の事を思い浮かべた。
「そう言えば、新歓の時スニーピィさんが三つ火球同時に操ってたような」
「ああ、そういやそうだな。あの人に聞きゃ色々対策方法教えてくれるかもな」
今この街に居るのだろうか。後でコミュニティ掲示板に書き込んでみるか。
スニーピィさんなら色々そこで対策と傾向を指南してくれるかもしれない。合わせてシティBBSでもオートマタ戦の情報がないかチェックしておこう。
「そういや、アリエスとポンキチ達っていつ頃合流するの?」
エルツの質問に振り向くユミル。
「ちょうど今ポンキチ君から連絡があって東門へ渡る橋の中腹で待ってるって」
「東門橋<East Bridge>の中腹? 何やってんだろ」
首を傾げるエルツに一同も首を傾げて見せた。
冒険者溢れる広場の人込みを渡り東門橋へと向かうエルツ達。橋へと辿り着いたエルツ達はほっと一息ついて辺りを見渡す。橋を照らす淡い白光に浮かび上がるのは釣竿を持った無数の冒険者達の姿だった。
「何だかやけに今日は釣り人が多いな」
「ポンキチ達はどこだろ」
エルツ達がきょろきょろと辺りを見渡していたその時だった。橋の縁で竿を振り上げた一人の釣り人の横で青色花柄の浴衣を着た女の子が手を振っていた。
「あ、ペルシアちゃんだ」
走り寄って行くユミルの後ろ姿を視線で追いながらゆっくりと歩み寄るエルツ達。隣に居るのがペルシアという事はあの釣竿を振っている青年がポンキチだろうか。
「こんばんは、皆さん」
「やぁ、ペルシア。こんばんは」
笑顔で一同を迎え入れるペルシアにエルツ達は挨拶を交わす。
「お、その声はお兄様」
エルツの声に反応したポンキチが振りかぶった釣竿を下ろし振り向く。
「やぁ、ポンキチ。てか何釣ってるの。釣れるのここ?」
「いやぁ、暇だったもんで橋でも来て黄昏ようかと思ったら星魚とか言うのが釣れるっていうんで試しにやってみたら釣れる釣れる」
そう語るポンキチのバケツを覗いて見るとそこには溢れるように、魚が飛び跳ねていた。
星型の尾びれを持ったその星魚と呼ばれたその魚は、よく見ると鱗の一つ一つも全て星の形を象っていた。
「へぇ、面白い魚……でもこんなに釣ってどうすんの」
エルツの突っ込みを受けながら再び竿を橋の下の海に向かって振り下ろすポンキチ。
「いや、何でもここで釣ったこの星魚、屋台市で唐揚げにしてくれる店があるらしいんですよ。お兄様方、夕飯は?」
「いや、まだちゃんとは取ってないよ。あんず飴食べたくらいかな」
エルツの返答にニヤリと笑いながら釣竿を振り上げるポンキチ。
たったこれだけの会話の間にもかかわらず振り上げたその釣竿にはしっかりと星魚が食らいついていた。
「それじゃ、今から皆で屋台市行って夕飯と行きませんか?」
ポンキチの提案にエルツは皆に視線を振る。
「どう皆、お腹もう空いてる?」
エルツの問いに頷く一同。
「わたし空いてます」と手を挙げるユミル。
「私もそろそろ」とミサ。
そんな二人に重ねるように「そうだな、そろそろ腹の虫が」とケヴィン。
「そっか、それじゃ皆で屋台市行こうか」
「賛成です」
笑顔で賛成するユミルに皆が頷く。
「それじゃ、話は決まったでし。いざ、屋台市へレッツゴー!」
片手に大量の星魚の入ったバケツを抱えながら、腕を振り上げるポンキチ。
この人数に振舞ってくれるにしても、大量過ぎる釣果に一同は当惑しながらも、張り切って先陣を切るポンキチの姿に微笑みを浮かべてその後に従うのだった。