S8 魔法陣とオートマタ
広場を和とするならば、繁華街から南はどこか洋が感じられる雰囲気を持っていた。ユミルに聞いたところ、双華のコンセプトとして和と洋の対比という意味もどこかに含まれているのではないか、という事だった。確かに港に向うにつれて異国情緒はどこか溢れてくる。
そして赤灯と美しい花々でショーアップされた繁華街を歩き抜け、港へと向った一同の眼前には奇妙な光景が広がっていた。その光景に思わず足を止める四人。
オークションハウスの三棟の前に開かれたスペースに大きく描かれた円形の魔法陣。そこには無数の冒険者達が集まり、真白な光を放つ魔法陣の足場には目もくれずに中央に存在するその何かに視線を奪われているようだった。
「何だろこの人だかり……?」
「すごい人ですね」とミサが髪を撫でながら呟いた。
興味本位でその魔法陣に近寄っていくエルツ達。魔法陣に近づくにつれ、その中央に存在する何かが一同の視界で具現化して行く。
円形の魔法陣の中央には人影が立ち尽くしていた。真っ赤な鼻に十字に黒化粧を纏った瞳。だぶだぶの奇妙な衣装を纏ったその風体に思わず四人は言葉を失う。
「……ピエロ」
ピエロは周囲の人々に向かって定期的に礼をしてはその動きを止め、無言でその動作を繰り返していた。その機械的な動作からふとした事をエルツが口にした。
「あれ、人形じゃない?」
一同がその言葉に改めてピエロを見つめる。
「何だろこのピエロ、今までのお祭りでこんなの見た事ないよね?」
「うん、新しく追加された何かのイベントなのかな」
ユミルとミサの会話を聞いていたその時だった。
突然、エルツ達の隣でPBを開いていた冒険者が真白な光に包まれて消えた。
「え!?」
唖然とする四人、そんな一同に追い討ちを掛けるように不可思議な光景は続く。
突然、中央のピエロの身体が光り始め、そこから無数の発光体が飛び出してきたのだ。光は魔法陣内に降り立ち強い輝きを放つと、そこには地面に蹲った冒険者の姿が現れた。
何が起こっているのかわからずただ呆然と立ち尽くすエルツ達。蹲った冒険者は暫くするとその身体を起こし悔しそうに中央のピエロを睨み付けた。
「くそ……あと少しだったのに」
あと少し、それは一体どういう意味なのか。エルツがその言葉の意味を考えている間にも冒険者達は次々と光となってピエロの身体に吸い込まれては、また吐き出され魔法陣内に別の冒険者達の姿が降り立って行く。
必至に状況を把握しようとエルツはその場で努めながら、ふと冒険者達の多くが皆PBを開いている事に気づいた。慌ててPBを開いたエルツの目に飛び込んできたものは、予想通り見慣れないポップアップメニューだった。
「VS Automata<オートマタ>」
エルツがポップアップメニューをクリックすると画面にウィンドウが大きく広がった。
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■VS Automata-オートマタ戦について-
本フォームよりオートマタ戦への申し込みを行う事が出来ます。
オートマタとはARCADIAの世界において開発された機械仕掛けの自動人形の総称です。彼らは人工知能を有し、予めインプットされたプログラムデータから独自の戦闘スタイルを生み出します。オートマタは現在まだ開発段階ではありますが、普段は味わう事の出来ない一風変わったバトルイベントをお楽しみ下さい。
本バトルイベントにおけるクリア目的は以下の通りです。
§クリア目的§
制限時間5分以内に、Automataを倒す事
ここでオートマタ戦を行うにあたって冒険者の皆様に幾つか注意点があります。
▼バトルフィールドへの転送
本イベントではこちらのフォームから申し込み頂いた後、プレーヤーはバトルフィールドへと転送される事になります。イベント終了後、プレーヤーはスティアルーフ港の魔法陣エリアと帰還する事になりますので、予め御了承下さい。
▼Lv制限
オートマタ戦ではプレーヤーLvは10までに制限されます。
ステータスはイベント前の振り分けの比率が自動適用されます。バトルイベント終了後、ステータスはイベント前のデータへと戻されます。
▼装備制限
オートマタ戦ではプレーヤー装備はシステム側で自動設定となります。
現在装備されている武器・防具のデータは反映されませんのでご注意下さい。装備データはバトルイベント終了後、イベント前の装備データへと戻されます。
▼制限時間
制限時間5分を超えた場合、オートマタは動力が切れ停止します。この場合、停止した状態のオートマタへの攻撃は全て無効化されます。制限時間が終了次第、プレーヤーの自動転送が始まりますのでお待ち下さい。
▼イベント中の死亡
本イベント中にプレイヤーが死亡した場合において、経験値ロストはありません。
▼再挑戦の権利
イベントに再挑戦される場合については、本イベントには一度イベントを行ってから一時間の時間制限を設けています。イベント終了後に再挑戦される場合は一時間が経過しないと申し込みする事は出来ません。
以上の内容を踏まえた上で、問題が無ければ申し込みへとお進み下さい。
●Automataに挑戦する
●挑戦を辞退する
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「バトルイベントなんだこれ。道理で人が集まるわけだ」
エルツの呟きに三人もポップアップの内容に目を通し始める。
女性陣はその内容に少し当惑気味な様子だった。
「ちょっと怖いよね。あのピエロと戦うのかな?」
そう呟くユミルの前でケヴィンは「面白ぇじゃん」と言いながらエルツに視線を振ってきた。
「勿論、やるだろエルツ」
「うん、興味はあるね」
エルツの言葉にニヤリとするケヴィン。
「じゃ、二人はちょっとここで待ってろよ。俺らが先やって様子見てくるから」
ケヴィンの言葉に頷くユミルとミサ。
確かに内容が分からない以上、ここは先に様子を偵察してきた方が良さそうだ。さっきの蹲っていた冒険者を見る限り、かなり刺激的な内容の可能性もある。
周囲のプレイヤーが次々と光に包まれては消えて行く中、エルツは申し込み画面を開き用意をする。
「それじゃ、やってみるか。用意はいいかエルツ」
「こっちはオーケー」
その言葉に頷くと、エルツとケヴィンは同時にクリックマーカーを振った。
期待に高まる鼓動。オートマタとは一体どれ程の戦闘能力を持っているのか、バトルフィールドへの転送というのも非常に気になる。
申し込みをしてから、数秒のラグの後、淡い白光に包まれる二人の身体。
「あ、転送始まった。それじゃ行って来ます」
「気をつけてね、エルツさん」
ユミルの言葉にふっと微笑するケヴィン。
「おいおい、俺は無視かよ。まぁいいけどな」
その言葉に失笑するエルツ。
ユミルとミサが見守る中、今二人の身体は光の結晶となって、魔法陣のオートマタの身体へと吸い込まれて行く。
吸い込まれる瞬間、真白に染まった世界の先に潜むは邪か蛇か。
バトルフィールドは今二人の冒険者を迎え入れた。