S1 様変わりする街
B&Bから広場へと出たエルツはその様変わりした街の様子に暫し立ち尽くしていた。広場の中央に聳えるは高さ二十メートル程の大きな櫓が、その頂上からはギルド、コミュニティセンター、そしてこのB&Bに向かって吊り下げられた赤提灯が長く伸び、頭上を覆っていた。普段はエルツの憩いの場となっている広場の白ベンチも全て撤去され、櫓が聳える広場の中央を取り囲むようにたくさんの出店が立ち並んでいた。
そんな出店の一角に歩いていくエルツ。店はまだ営業していないようだった。店の前に置かれた看板には『コルク射的 一回SR祭貨一枚 営業時間PM6:00〜』と記されていた。
「コルク射的……?」
その内容にエルツはふと店の中に段々と置かれた丸板を見つめる。板にはまだ何も置かれていなかった。そんな店内の様子を流し見ながらエルツはゆっくりと一人広場の出店を見回って歩く。綿菓子、リンゴ飴にあんず飴、ベビーカステラにチョコバナナにソース煎餅、お面屋と思われる立て板、金魚すくいやヨーヨー釣りと思われるブルーシートの張られた水桶、型ぬきにスマートボールとざっと見渡しただけでかなりの様々な出店が並ぶようだった。いずれもまだ営業前で店周りはシンと静まり返っていた。
だがその内容は正直エルツには意外だった。イベントというからにはその内容もARCADIA独特の出し物が並ぶのかと思っていたのだが、その内容は縁日では定番のものだったからだ。
「昔はこういうのほんと楽しかったな」
ちょっとした懐古心に駆られながらエルツは潮風を大きく吸い込み深呼吸をする。
それからエルツは一人広場から繁華街の方へと向かって歩き始めた。繁華街もいつもとその様相を変えていた。店先は美しく色とりどりの花々で飾られ、頭上にはここも赤提灯が両サイドに伸びていた。
気のせいかすれ違う冒険者達もいつもとは違って心弾んでいるように見えた。そういうエルツ自身はというと、実際様変わりした街を見てみると、やはり気持ちは高揚しているのだろうか。すれ違う冒険者達の姿をよくよく見てみれば、その姿を浴衣に包んだ者も少なくなかった。
「へぇ、浴衣か」
どこかで販売されているのだろうか。こういう趣向も個人的には悪くない。朝食を済ませたらもう一度ゆっくり街を見回ってみるか。
そのまま、エルツはDIFOREへと入ると、一人朝食を済ませる。
そんな折、PBを開くとそこにはまた一通のメールが届いていた。
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差出人 Yumiru
宛先 Aries,Elz,Kevin,Misa,Pelsia,Ponkiti,Toma
題名 お祭り一緒に回りませんか♪
本文 みなさん、おはようございます♪
今月も祭りの季節がやってきましたね。
もしかしたら今回お祭り初めての人もいるのかな?
良かったら今日皆で一緒にお祭り回りませんか?
皆で回った方が絶対楽しいですよ♪
もし、OKな方いらっしゃったらYumiru宛てに
メッセージ返信して下さい。
今のところ、私とミサは確定です♪
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メールの内容を確認し、アイスカフェを一口含むエルツ。
初日は一人でゆっくり何があるのか見て回ろうかと思っていたが、特に用事があるわけでも無いし、断る理由があるわけでもない。
エルツはキーボードに指を走らせると、快く参加の旨を返信した。
「何人くらい集まるんだろうな。ケヴィンはあいつは面倒くさがり屋だし、来ないだろうな。無理やりでも召還するか。他のメンバーはなんとなく来てくれそうだけど」
エルツはそれから暫くDIFOREでのんびりと時間を過ごすと、店を出た後、港にあるオークションハウスへと向かい出品アイテムの落札状況を確認するのだった。大分、落ち目ではあるもののそれでもコカトリスのHQ装備は良い値段で売れる。
落札額を回収したエルツはまた新たに出品を行い、一人港で風に当たるのだった。
「今日はこれからどうするか。なんかLv上げって気分でもないしな。かと言って生産もする気も起きないし」
そんな事を呟きながら大きく伸びをするエルツ。
「たまにはぶらぶらするのも悪くないか」
夜になれば街もまた様変わりするのだろう。
そうしてエルツは再び広場を目指し繁華街を歩き始めた。