序幕
潮風にそよぐ真っ白なカーテン。自室に差し込む柔らかな陽光を瞼に受けて、ふとベッドから身を起こす。起き掛けにPBを開くのは日課となっている。開いたPB上でLv9となった自身のステータスとコカトリスのHQ生産によって300000ELKを超えた自らの所持金を確認しエルツは洗面台へと向かう。
ここ最近は仲間とワイルドファング狩りに明け暮れていた。非常に高い敏捷力と攻撃力を誇るワイルドファングの狩りは今までの戦闘と違って、決まった必勝戦略が存在せず一瞬一瞬のプレーヤーの判断力が求められる。経験値効率という意味でも、一回一回にかける集中力が非常に高いため、あまり思うような効率を上げる事は出来なかった。この世界ではLvが上がれば上がる程、モンスターとの戦闘が厳しいものとなり経験値を得る事が難しくなってくる。エルツ達のLv帯においては、超えられない壁と衝突する冒険者も少なくないのだ。
日課の確認作業を終えたエルツは、ふとPBのメールランプが点滅している事に気づきメールフォームを開く。システムサポートセンターから届いた一通のメール。
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差出人 ARCADIA SYSTEM SUPPORT CENTER
宛先 ALL PLAYER
題名 双華祭のお知らせ
§創世暦1年 双華 光刻 1§
いつもARCADIAをプレイ頂き誠にありがとうございます。
本日よりスティアルーフの街にて双華祭が開催されます。街を彩る装飾の数々、そのいつもとは面を変えた景色もさることながら、夜には様々な出店が広場にて冒険者の皆様をお待ちしています。今期の祭りから例年の催しに加えて新要素も追加しております。
■祭と功徳刻
ARCADIAの世界では一年を構成する六月、またその月を構成する十二刻のうち一度だけ功徳刻と呼ばれる周期があります。神仏の示現を表すと言われる功徳刻においてはプレーヤーの運気が自然上昇するとされており、モンスターを倒した際のアイテムドロップ率の上昇などプレーヤーの日常行動に上方変化が現れると言い伝えられています。そして、この功徳刻に創世元年より開催させて頂いています開催イベントがこの『祭』となります。功徳刻の夕方より開催されるこの『祭』には例年多くの冒険者の皆様にご参加頂いています。近在の冒険者の皆様の間ではこの祭刻期間の事を『光夜』とよび慣らされており、この期間における『祭』の事を『光夜祭』とそう呼ばれる冒険者の方々も少なくないようです。
『祭る』という文字から連想されます通り、この祭では日頃、狩られているモンスターの魂を鎮める誓願という意味も含まれております。この祭りを通して普段は何気なく行っている狩りにおいて、今一度感謝の気持ちを持って向かい合って頂ければ幸いです。
■開催期間
なお、今期双華祭の開催期間は以下の通りです。
▼開催期間
創世暦1年 双華 光刻 1〜24
(現実時間4月27日 土曜終日)
▼スティアルーフ祭貨幣の購入について
本祭を楽しんで頂くにあたってここで注意点があります。祭の様々な出し物を楽しん頂くにあたってプレイヤーの皆様は通常貨幣であるELKを使用して頂く事は出来ません。ここではスティアルーフ祭貨幣(SR祭貨)と呼ばれるコインを一枚10ELKで購入して頂く必要があります。スティアルーフ祭貨幣の購入については、祭刻期間中、スティアルーフの街上でPBを開いて頂きポップアップメニューである「祭貨の購入」を選択して頂く事で購入が可能となります。
ARCADIAの世界で初めてのお祭りを迎える方は勿論の事、例年参加されました冒険者の皆様にも楽しんで頂ける内容となっておりますので、是非奮ってご参加下さい。中には本イベントでしか入手する事の出来ない貴重なアイテムもあるかもしれません。
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その内容に目を通し、エルツはふと呟いた。
「双華祭……か」
メールを読んだエルツは窓辺で外を見つめながら暫し感慨に耽っていた。
祭りなんて何年ぶりだろうか。昔はよく地元の神社の縁日に参加して、出店を回って綿菓子にあんず飴、金魚すくいにコルク射的と本当に楽しかったものだが。
きっとこの世界でのお祭りっていうのは、そうした伝統的な古き良き文化とはまた別物なのだろうな。それはそれで楽しみかもしれない。
エルツはそんな事を考えながらふとPBを閉じた。