【エピソード】七人の先駆者
澄んだ青空の下、何の変哲もないはずの待ち合わせの風景の中で冒険者達の視線を集める三人の姿があった。待ち合わせる冒険者達は、一様の視線を以ってその光景の中に存在する異質の存在にその目を向けていた。
「見ろよ、あの装備……」
「なんだあれ、見た事ないけど、もしかしてコカのHQじゃないか」
「そういえば今日オークションに何点か出品されたって」
「それにしても三人揃ってHQづくめか。あいつら何モンだ……」
そんな周囲から漏れる囁き声に包まれながらその異質達は待ち合わせの相手をただ待つ。
「久しぶりだね。皆と会うの」
潮風にショートヘアをなびかせながらその異質の一人が口を開く。
「そうか、ユミルはそいつらともう会った事あるんだな」
周囲の視線を満足そうに受け止めながら、そう呟く若男。
「皆とってもいい人達だよ、ケヴィンさん」
「ふぅん、まぁ俺はこの前みたいな連中じゃなければ何でもいいや」
そのケヴィンの言葉に曇るユミルの表情。
――あんな人達と比べないでよ――
とユミルの表情はそう物語っていた。
「で、エルツ。まさか例のもの人数分用意してるのか」
その言葉に潮風に打たれていたエルツはそっと顔を上げた。
「一応ね」
「また友情価格で売るつもりか? 少しはお前利益ってもんを考えた方がいいぜ。まぁ、割引で買った俺が言うのもなんだけどな」
その言葉にふっと微笑するエルツ。
「エルツさんはケヴィンさんと違ってお金にがめつく無いから」
そう微笑み掛けるユミルの頭を軽くケヴィンが小突いた頃、一同の前には馴染み深い四人の冒険者が姿を現した。
「お久しぶりです」
「どうもです、お兄様。相変わらずお元気そうで」
その言葉にすっと手を翳して挨拶するエルツ。
「久し振りだね。アリエス、ポンキチ。それからトマさんにペルシア」
「やぁ、元気そうだね。それにしてもその装備は……?」とトマ。
エルツの言葉も余所に四人の視線はエルツらが纏うその装備に釘付けだった。自らが纏うコカトリス装備と見比べながらその違いを確かめる。
「その装備って……何ですか?」
ペルシアが羽飾りのついたエルツ達の装備品を見つめながら呟く。
「コカトリス装備のHQだよ。エルツさんに作ってもらったんだ」
「ええー、すごい! 羨ましいです!」
そんな会話を女子勢が始める中、軽く咳払いをするケヴィン。
そんなケヴィンの存在に気づいたアリエスがエルツに視線を振る。
「お隣りの方は?」
「ああ、ケヴィンって言うんだ。うちのコミュの仲間だよ」
エルツの紹介に向かい合って礼をするケヴィンとアリエス。
「どうも、はじめまして。アリエスです。エルツさんには色々とお世話になってます。今日はよろしくお願いします」
「まぁ、堅苦しいのは無しにしましょうよ。どうも俺敬語って苦手なんで。今日はよろしく! 多分、今日もこいつには一つ借りが出来ると思いますけど、まぁ気にしないでいいっすよ」
ケヴィンの言葉に一瞬当惑の顔色を浮かべるアリエス。その様子にエルツは苦笑いを浮かべた。そんなエルツに対してペルシアが横から駆け寄ってきた。
「エルツさん、お願いです。私にもコカトリスのHQ作ってくれませんか? お願いです。私何でもしますから!」
そんなペルシアの発言にポンキチが横から口を挟む。
「ペル、親しき仲にも礼儀有り。久々に会って挨拶も早々いきなりねだる奴がどこに居るってんですか。こういうのは段階踏んでゆっくりと作らせるのが手口でしょうが」
「ポンキチ、お前には絶対作らないからな」
エルツの言葉に笑みを漏らす一同。
「なんだ一応皆の分作ってきたんだけどこれいらないか。じゃオークションに出そう」
「STOP!ごめんなさい。お兄様、足の裏でも何でも舐めますから」
「プライドないのかお前は」
そうして、カードを取り出して見せるエルツ。
「ただ、タダってわけにはいかないんだ。実際この二人にも買ってもらってるし、同じ値段で提供させてもらうよ」
「いくらです?」
息を呑む一同。
「5000 ELK」
「うぉ……」
必至にPBの所持金と格闘を始める一同。
そんな四人の姿をふと自分と重ね笑みを漏らすユミルとケヴィン。
「所持金が足りない……」
そうして項垂れる四人。確かに、5000ELKというのはこの世界では大金である。ユミルやケヴィンがそんなお金を出せたのも、オルガさんが残してくれたお金があったからだ。
「うう、お金が無いです……」
そう呟きながらペルシアがエルツに視線を投げ掛ける。
「買ってくれた人が居る以上、5000ELKっていうラインは崩せないんだ。ごめん。残念だけど、お金が無いなら渡せないよ」
エルツの言葉にがっくり肩を落とす四人。
「ただ……」
そう切り出したエルツの言葉に再び四人が視線を上げた。
「レンタルっていう形でカード渡すなら構わないよ。そうだな、一日50ELKで貸し出して売値である5000ELK、つまり100日に到達した場合はその所有権を譲るって形でどうかな」
その言葉に顔を輝かせる四人。
「流石、お兄様!」
ポンキチの隣でアリエスは喜ぶ反面、少し心配そうな表情をしていた。
「ただ、その場合ってログアウト期間中の日数も換算されます?」
アリエスの言葉にエルツは首を振る。
「いや、勿論。含めないよ。レンタル期間はあくまでログイン日数で算出させてもらうよ。レンタル希望者は後で、プレイ時間を確認させてもらおうかな。貸し出し終了時のプレイ日数から貸し出した時点のプレイ日数を引いて計算させてもらうよ」
「なるほど、返したい時はどうすればいいです?いつでもどこでもお兄様が現れるってわけにはいきませんよね?」
ポンキチの問いに頷くエルツ。
「その時は、返却希望の時にメールで一報貰えれば、その時点でのプレイ日数をメールに記入してね」
「なるほど、自己申告ってわけですね。ニヤリ。僕らがズルしたらどうするつもりです?」
その言葉にエルツはふっと微笑をポンキチに返した。
「信じるよ」
エルツの言葉にまた微笑み合う一同。
「そんな言葉を受けたら、誰もズルなんて出来ないじゃないか。エルツくんも人が悪いな」
微笑みながらそう語るトマ。
そうして、四人はエルツからそれぞれコカトリスHQ装備を受け取ると、それぞれその場で装備を着替え始める。
「おい、見ろよ。あいつら。全員コカトリスHQだぞ」
「なんだよ、あいつら。あの中に生産者が居るのか」
そんな周囲のざわめきの中、一同は意気揚々と西門の外の風景を眺め始める。
「久し振りだな。皆で狩りだなんて」
「いざ、ワイルドファング狩りに行きますか!」
そうして、七人の冒険者達は広がる草原に向かって今旅立つのだった。
またかつてのように仲間達とのLv上げの日々。そうした一つ一つの過程が何より大切な思い出だった。
一頻りこの世界を楽しんだ冒険者達は、いずれ現実へ戻る時が来る。現実での生活を終えてから、再び彼らがここへ戻ってきた頃には、もう彼らは先駆者としての称号を失っているかもしれない。それだけに今この時を目一杯楽しむ事が出来る、それが彼らの純粋な想いであり、願いであった。
願わくば、こんな純粋な想いがいつまでも続く事を祈って、七人の先駆者達の想いは爽やかな草原の風に乗って今どこまでも運ばれて行く。