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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第四章 『アンディファインド』
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 S19 廃人再起

 エルツはコミュニティルームに顔を出すと、そこに揃った面々に顔を綻ばせた。

 ソファーで寛ぐ一同。今日はいつものメンバーが勢揃いといった感じだった。


「こんばんは、今日は多いな」


 エルツがそんな事を呟きながら入ってくるのを確認したスニーピィは笑顔で手を振ってエルツを招き入れる。


「エルツ、例のモノ持って来たよ」


 その言葉に笑みを零すエルツ。


「例のモノ?」


 隣でウィスキーを片手に問い掛けるドナテロ。


「秘密、というわけでもないんだけど、エルツ言っていい?」

「え? ああ、別にいいですよ」


 そうして、ソファーで寛ぐ一同の前で、スニーピィはエルツと提携している詳細についてを楽しげに語り始める。

 その話を聞いて、ドナテロは頷きながら声を上げた。


「なるほど……考えたな。それぞれ一つの生産に特化して生産アイテムを共同収集するのか」

「俺達も魔工と製縫だし協力した方がいいのかな」


 フランクが続けてリーベルトにそう語り掛ける。


「よくそういうこすい真似思いついたな」とケヴィン。


 そんな中、エルツとスニーピィはそれぞれPBを開き、それぞれの成果を交換し始める。


「じゃ、自分から。結構、集めたんだけどさ」


 そう言ってPBをエルツに見せるスニーピィ。


「うちは108枚かな」

「108枚ってすごいですね」とフランク。


 フランクに笑みを返すスニーピィ。


「でしょ。結構頑張ったんだよ。エルツはどんくらい? もしこっちより多かったら買い取るから」


 そうして、エルツのPBを覗き込んだスニーピィの動きが止まる。

 硬直したスニーピィの様子と表情に皆が首を傾げ始める。


「どうしたんですか?」


 皆の問いも聞こえない様子でエルツのPBを食い入るように見つめるスニーピィ。


「ちょっと待って……」


 エルツのPBの表示に沿わせ顔を振り、その数を確認し始めるスニーピィ。


「258枚……」


 スニーピィのその言葉に皆が笑いを漏らす。


「ウーピィの綿毛ですか。単純にこいつログアウトしないで素材狩りしてるから、その分スニーピィさんより多いんですよ」


 ケヴィンの言葉にスニーピィが首をゆっくりと横に振る。


「違うんだ……兎石が258枚あるんだ」

「は……?」


 全員は頭上にはてなマークを浮かべたその瞬間。

 その言葉に一斉に皆が動き、エルツのPBの周りに集まり始める。


「うぉ。え……これ、ほんとに全部兎石か」

「え、ちょっと純粋に疑問なんですけど」


 一同が当惑する中、リーベルトが声を上げた。


「兎石って5%ドロップですよね?」


 リーベルトの言葉に顔を見合わせる一同。


「それじゃ、単純に考えると……5000匹以上のウーピィ倒した事に」


 リーベルトの疑問に一同の視線がエルツに向く。


「細かい事は覚えてないですけど、スニーピィさん。何枚入りますか?これ全部だとスキル上げ的には多分ちょっと多いですよね」

「お前、見事なスルー技術だな」


 ケヴィンの突っ込みに笑みを漏らしながらも驚きを隠せない一同。

 エルツの言葉にスニーピィはふと我に返り、自らの魔工スキルを確認する。


「え、うん。今S.Lv0.84だから、あとS.Lv2まで120枚もあれば充分だと思うけど……」


 PBからカードを取り出しスニーピィに渡そうとするエルツ。

 だが、スニーピィはそれを受け取る事を躊躇っていた。前約束で交わしたレートはウーピィの綿毛五枚につき兎石一枚、現在の状況を照らし合わせると、兎石のカード百枚分の差額が発生するのだ。オークション価格で兎石一枚現在500〜600ELKで取引されている事を考えるとその金額も50000〜60000ELK。とても、今すぐにこの場で簡単に出せる額では無かった。

 そんなスニーピィの心境を察したエルツはこんな一言を告げた。


「差分については、そうですね。一枚150ELKでどうですか?」


 エルツの言葉に顔を輝かせるスニーピィ。

 差分については気にしなくてもいいですよ、とそう言葉を掛ける事も考えた。だが、それは逆にスニーピィに対して今後気持ち的に重荷を背負わせてしまう事になるかもしれない。そう考えたエルツは、ここではオークション価格よりも安価な価格を提示する事で、二人の気持ちに折り合いをつけようと図ったのだった。


「こんなに安い価格でこんなに大量のカード入手できるなんて夢にも思わなかった。本当にありがとう、エルツ」


 泣き真似をする程、感動した気持ちを表すスニーピィはエルツに何度もお礼を言いながら、15000ELKの代金と引き換えにカードを受け取った。エルツもまた受け取ったカードをPBにしまいながら、ふと残った130枚余りの兎石を見つめる。


――残ったカードどうしようかな――


 使い道は無いわけではない。余りのカードで魔工の生産に手をつけてみてもいいし、オークションに出品すれば、今ならかなりの利益を得る事が出来るだろう。ただし、オークションに出す場合は、現状のシステムでは収納限度枚数である十枚ずつしかカードを出品する事は出来ない。そう考えると、その行程は少し面倒なように思える。そうエルツが考えていたその時だった。


「エルツさん、良かったら自分にも兎石のカード売ってもらえませんか。レートはスニーピィさんの倍でも構わないんで」


 そう声を掛けてきたのはリーベルトだった。

 当然、断るつもりは無いエルツは快く返答を返す。


「うん、勿論。レートも一枚150ELKでいいよ」


 そうして、エルツは残りの138枚の全てのカードをリーベルトに売り渡した。

 二人に売って得た金額は35700ELKにも及んだ。然るべき形で売れば、100000ELKを超える利益を生み出す事も可能だったが、エルツは後悔はしていなかった。

 結果的にはエルツがスニーピィと結んだ協定も然程意味を持つものでは無かった。然るべき形で行えば、お互いに利益は得られただろうが、第一にここまで自分が生産に嵌るとは思わなかったのだ。

 そんな一同のやりとりを見ていたケヴィンは、にやにやとしながら口を開く。


「でも、これではっきりしたな」

「何が?」


 問い返すエルツにケヴィンはにやけた顔を崩さず一言告げた。


「お前やっぱ廃人だわ」


 その言葉に黙って頷く一同。

 エルツは皆のその反応に黙って下を向くのだった。


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