S15 マイルーム
広場の白ベンチへと戻ったエルツは、先ほど掲示板を見た時に頭の中に引っ掛かったある単語を検索し始めていた。
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City BBS
▼攻略掲示板
キーワード検索:マイルーム
検索結果:653件がHitしました
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大量ヒットした検索結果を見流しながら、その中の一つをクリックするエルツ。
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City BBS
▼攻略掲示板
ALL ●マイルームについて/Flee(00/洸玉/水/1 1:23)
→Re:マイルームについて/Rock(00/洸玉/水/1 1:53)
→ありがとうございます/Flee(00/洸玉/水/1 2:25)
□投稿者 Flee マイルームについて
本日より導入されたマイルームですけど、既に御購入された方居ましたら質問させて下さい。マイルームに備え付けられている具体的な機能について詳しくお聞きしたいです。
□投稿者 Rock Re:マイルームについて
購入しましたが、具体的な機能についてはバージョンアップ情報に記されていた内容と変わりありませんよ。一応、その内容については下記の通りです。
▼アイテムBOX
→アイテムをパーソナルブックとは別に100種類まで収納する事が出来る
▼家具の設置
→部屋に自分で購入した家具を設置する事が出来る。自分好みのカスタマイズが可能
▼ゲスト招待
→B&Bの宿泊室と異なり、部屋にゲストとして他のプレーヤーを招待する事が出来る
価格は5000ELKとやや高めですが、シングルで言えば100回泊まるのと同じ値段ですしね。先を見越せば、早いうちに購入しておいて損は無いと思いますよ。一度買えば永久的に使える仕様みたいですしね。
□投稿者 Flee ありがとうございます
そうですか、ありがとうございます。確かに値段は5000ELKというのは少し大金ですけど、早いうちに購入した方が後々の事を考えれば損は無さそうですね。何より収納の100枠も魅力ですし、この際思い切って購入してみようと思います。情報ありがとうございました。
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そんなものがあったとは全く知る由も無かったエルツ。PBの所持金16254ELKという表示を見つめながらエルツはふと頭を悩ませる。
「5000ELKか……購入出来なくはないけど」
これから生産で色々と出費が嵩みそうな事を考えれば、少し様子を見た方がいいだろうか。だが、アイテムボックスの収納100枠というのは実に魅力だ。悩みながら、顔を上げて眼前の木造の建物を見つめるエルツ。
「この際、思い切って買っちゃうか」
そうして、それから五分後。
B&Bの店内では、宿主のミカエルと話し込むエルツの姿があった。
綺麗に清掃の行き届いたその木造のロビー、天井ではプロペラ式の空調が静かに回っていた。
「すいません、あのマイルームを購入したいんですが」
「マイルームのご購入ですね。かしこまりました。それでは今ご購入に関する同意書を送らせて頂きますので少々お待ちを。どうぞ、あちらのソファーに腰掛けてお待ち下さい」
ミカエルの言葉を受けてソファーに座って待つエルツ。ミカエルが受付のカウンターで何やらキーボードを叩く音が聞こえ始めると、その一分後、エルツのPBにアイコンがポップアップした。
「そちらのご購入フォームへサインをお願い致します。サインはクリックマーカーをご使用下さい」
ミカエルの言葉に購入同意書に目を通し始めるエルツ。
内容は簡易なものだった。
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【マイルーム購入同意書】
マイルーム購入料金 5000 ELK
PLAYER NAME ______〆
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「これにサインをすればいいんですね」
エルツはクリックマーカーを出すと、購入同意書に自らの名前をサインする。
サインをすると同時にエルツは自らの所持金から5000ELKが減少するのを確認した。
「ご購入ありがとうございます。それではお部屋へどうぞ。マイルームへは三階通路つきあたりをさらに奥の扉へと向かって下さい。部屋へ着いたらまずパーソナルブックを開く事をお忘れずに」
「わかりました、ミカエルさんありがとうございます」
エルツの言葉にミカエルは爽やかな微笑を浮かべる。
「これが私の仕事ですから。それではごゆっくり」
エルツもまたミカエルに微笑を返すと三階奥の扉を目指す。階段を二つ上がった階の通路をそのままつきあたりに向って歩くと、そこには色鮮やかな蒼海と港が広がる景色を映し出した窓枠の掛かった通路が延びていた。そこから見える港の景色を見下ろしながら、通路の奥へと足を進めるエルツ。奥の扉は宿泊室と比べると、やや扉の形状が大きく形作られているように思えた。
「あそこがマイルームか」
その扉のノブへと手を伸ばし、ゆっくりと扉を引くエルツ。
部屋の中へ入り、エルツは言葉も無く室内をじっと眺め回す。部屋にはシングルベッドが一台、その傍らの台には木造のBOX。そして海が映し出された窓際には、ワンセットの丸椅子とテーブルが置かれていた。
「随分、質素だな。でもシングルの宿泊室に比べるとちょっと広いか」
エルツはそんな素直な感想を漏らしながらふとミカエルの言葉を思い返す。
「そういえば、部屋に着いたらまずPB開けって言ってたな」
そうしてエルツがPBを開くと、そこには再びアイコンがポップアップしていた。
――マイルームをご購入された冒険者の皆様へ――
そう書かれたアイコンに手を伸ばすエルツ。
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§マイルームをご購入された冒険者の皆様へ§
この度はマイルームをご購入頂きまして誠にありがとうございます。
マイルームではプレーヤーの皆様により快適な空間を提供するために以下の機能を設けさせて頂いております。
▼アイテムBOX
マイルームにはアイテムBOXと呼ばれる、パーソナルブックとはまた別にアイテムを収納するためのBOXを予め用意させて頂いております。このアイテムBOXでは100種類までのアイテムを保管する事が可能となっております。パーソナルブックでは持ちきれなくなった貴重なアイテムの保管や整理に是非ともお役立て下さい。
▼部屋のカスタマイズ
マイルームでは冒険者の皆様がより快適な空間をお過ごし頂けるように、部屋のカスタマイズが可能となっております。壁紙の張替えから、家具の設置まで。初期配置として、シングルベッドと、ワンセットの椅子とテーブルをご用意させて頂いておりますが、取り外しは可能となっておりますので、ご自由に空間を演出なさって下さい。家具についてはスティアルーフのショッピングストリートにあります家具店「Spleel Mock」にてご購入をお勧めさせて頂きます。
▼ゲストの招待
マイルームにはご購入されたお客様以外の冒険者の皆様をゲストとして招待する事が可能です。ゲストとして招待する場合は招待主の方がパーティを主催した状態で、さらにPB上でメンバーの方にマイルームへの入室許可を行って下さい。マイルームへお入りになる際は三階通路奥のマイルーム専用扉からご入室下さい。
以上の点につきまして、何かご質問やご不明な点がありましたら、気兼ねなく1F受付までお越し下さい。
それでは、ごゆっくりと。
By B&B Master Michael
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そうして、文面に目を通したエルツはまずベッドへと倒れ込む。
「寝心地は良さそうだな。自分の部屋が持てるなんて夢にも思わなかったな」
異世界で得た自室。段々とこの世界での自分の生活が具現化されて行く事に、エルツは少し当惑しながらも、その純粋な感動を一人ベッドの上で噛みしめるのだった。