S12 優しき心遣い
翌朝、B&B宿泊室の朝日差し込む窓際のテーブル前の椅子に腰掛けてエルツはメッセンジャーを開いていた。メッセンジャーの相手はスウィフトとリンス。話の内容は今日の素材狩りについてだった。和やかな陽光を身に浴びながら申し訳無さそうに唇を噛むエルツ。話の内容はこういうものだった。
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参加者:Elz Lins Swift
Elz:今日の予定決めなかったよね。どうしようか?自分はもういつでも出れるよ
Swift:それなんだけどさエルツ、実は昨日リンスと話したんだけど
Elz:え、どうしたの……何か問題?
Swift:いや、全然問題ってわけじゃないんだ
Swift:たださ、うちらが一緒に素材狩り行くとエルツの邪魔になっちゃうんじゃないかと思ってさ
Elz:そんなことないよ
Swift:正直、もう少し生産の熱が皆冷めてから手出したいって気持ちもあったし
Swift:それにちょっとうちら遅れてるからLv上げもしたいしね
Elz:ごめん、なんか気遣わせたみたいで……
Swift:あ、誤解しないで欲しいのは
Swift:Lv上げしたいっていうのはこっちの都合だから
Swift:その事を自分のせいだとか思って気にしないで欲しいんだ
Swift:あくまでこれってうちらの我侭だから
Lins:ごめんね
Elz:いや、謝らないでよ。なんかやっぱりこっちが申し訳無くて
Swift:エルツ、本当に気にしないでくれよー。あ、そうだレポートとバロック装備サンキュ!
Elz:え?ああ、あんなんで良ければいくらでも
Swift:装備代も兼ねて今度お礼は絶対するから
Swift:うちらエルツには本当に感謝してるんだよ
Lins:うん
Swift:それじゃあまり時間とっても悪いから、うちら行くよ
Swift:マンドラゴラの森でコカ狩りに向けて最後の底上げしないとね
Elz:分かったよ、頑張って。できる事があったら何でも協力するから気兼ねなく言ってよ
Swift:それじゃ製縫スキル上げたら、まず一番最初に何か作ってもらおうかな(笑)
Elz:了解
Swift:じゃ、また。今日夜コミュニティルーム行くでしょ?
Elz:うん、行くよ
Swift:じゃ、またその時に。それじゃ
Lins:またね、エルツくん
Elz:また夜に
Swiftが退出しました
参加者:Elz Lins
Linsが退出しました
参加者:Elz
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PBを閉じ、ふと窓の外を見つめるエルツ。昨日の灰色に染まった空は見事に晴れていた。
ぼんやりとそんな青空を見つめながらエルツはメッセンジャーでの内容を思い返す。彼らはああは言ったものの、やはり気を遣わせてしまったというのが本当のところだろう。欲求に身を任せて、二人の目の前であんな取引を見せてしまった事が悔やまれる。それによって、結果彼らの優しい心遣いから身を引く形を取らせてしまった。
自分の想いを押し出す事で、想いがけない形で他人に干渉を及ぼしていることもある。先行心は他人に迷惑をかけない感情だと自認していたが、それはやはり時と場合による。先行く心を否定する事は、それは世の多くのプレーヤーがゲームをする動機を否定する事になる。何より自分自身が生産システムの導入によって、また以前のように歯止めの効かない欲求が生まれた今、ここでそういった精神を否定する事は自己矛盾になる。だが、現に今その想いが、三人で楽しく素材狩りをする時間を失わせてしまったのも事実。
「難しいな、対人関係って」
そう呟き、ベッドに仰向けになるエルツ。
今回に関して言えば、そこまで深く捉えるべき事態ではないだろうが、実際問題、今後こうした感情を抑えるべき場面は必ず出てくるだろう。
でも、今はただ二人の優しき心遣いに感謝しよう。
そうして、エルツは風がそよぐ柔らかな陽光に包まれたその部屋を後にした。