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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第一章 『旅立ち』
12/242

 S10 経験値考察

 道具屋を後にしたエルツ一行は再びシャメロットが群がる岩場へとやってきていた。とにもかくにもまずは生活のためにお金を稼がないと始まらない。少なくとも今日の食い扶持だけでも確保しようと三人はやってきたのだった。

 岩場には一人先約の姿が見受けられた。背丈の小さいその少年は懸命に岩蟹と格闘していた。一瞬、狩場を変えようかと一行の脳裏にそんな考えが過ぎったが、獲物はエルツ達も狩る充分な程溢れている。麻布を纏ったおそらく初心者であるその小さな冒険者に、エルツ達はちょっとした親近感を覚えながら彼と少し離れたところに陣取った。

 狩場に着くや否やパーソナルブックを開く一同。今エルツの開いているパーソナルブックにはモンスターを示す赤い点が幾つも映し出されていた。


「Lv1の奴狙っていこう」


 ついさっき習ったMapScan[マップスキャン]でモンスターLvを確認しながらそうして、一行は再び狩りを開始する。 

 既に午前中一匹狩ったせいか、その作業は手馴れたものだった。群れから離れた一匹をエルツは石で釣り、二人の元へ釣ってくると、一同は対象を囲むように手にしたナイフをその硬い甲殻に突きつける。そこで一同はある事実に気づいた。


「あれ、なんかひっくり返さなくても、結構ダメージ通ってない?」とスウィフト。

「ほんとだ、っと危ね」


 エルツがシャメロットの振り回したハサミをかわし、一撃を加えると、少なからずのライフエナジーの光が空気中に立ち昇った。

 隙を見て蹴飛ばし転がそうとしていたエルツが足を引いたその時、リンスのつきたてたナイフによって、シャメロットが粒子化を始める。


「え、倒した? 随分もろいな」


 スウィフトは立ち昇っていく粒子を手できながら、エルツに視線を振る。

 エルツは返答に一瞬の間を置いて一つの推論を口にした。


「たぶん、初めに戦った奴はLvが高かったんだ」

「なるほど、そういう事か」


 スウィフトは空中に消えていく粒子を見上げながらふと呟いた。


「あれ、今回ドロップ無し?」

「毎回ドロップするわけじゃないんだよ。きっと」


 エルツの言葉に納得したようにスウィフトは頷きそしてパーソナルブックを開いた。


「やっぱり今回も経験値入ってない」


 その言葉にエルツも自らの経験値を確認する。スウィフトの言う通り、経験値欄には全く変化が見られなかった。


「パーティだと経験値入らないのかな?」


 その問いにエルツは首を傾げた。


「そんな馬鹿げた話はないよ。もしそうならこのゲームがMMORPGである意味が無い。多人数で参加できるからこそ、このゲームには意味があるんだ。もしソロで戦わないと経験値が入らない仕組みならオフラインと変わらないよ」


 エルツの意見はもっともだった。ならば何故経験値は入らないのか。


「ちょっと実験してみよう。試しにソロで狩ってみていい?」

「オーケー。じゃ僕もそうしよう」とスウィフト。

「いったんパーティ解散するね」


 そうしてエルツはいったんパーティを解散した。そうして、それぞれが一匹ずつのターゲットと対峙する。

 一人で迎え撃つはLv1のシャメロット。一人で戦う以上、釣る行為に意味は無い。ひたすら力任せに切りつけ、エルツは強引に一体に押し勝った。

 戦闘後、ステータス画面を開く。すると、そこにはちゃんと経験値が入っていた。


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〆エルツ ステータス


レベル 1

経験値 ------------ 1/100

ヒットポイント ---- 81/100

スキルポイント ---- 10/10


物理攻撃力 -------- 10(+4)

物理防御力 -------- 10(+6)

魔法攻撃力 -------- 10

魔法防御力 -------- 10

敏捷力 ------------ 10


〆装備 


武器 -------- 銅の短剣


頭 ---------- 無し

体 ---------- 旅人の服

脚 ---------- 旅人のズボン

足 ---------- 旅人の靴

アクセサリ --- 初心者講習卒業の証


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「経験値が1増えた」

「やっぱりソロだと入るんだ」


 与えられた事象からエルツは最大限の情報を読み取ろうと必至に頭を稼動させる。


「もう一度パーティ組もう。今度はもう一回レベルの高いのと戦ってみよう」


 エルツの言葉にスウィフトとリンスは不思議そうに顔を見合わせた。

 岩場の中からエルツは敢えて高いLv3のシャメロットに狙いを絞る。


「釣るよ」

「オーケー!」


 エルツは獲物を釣り、二人の元へ駆け込む。そして三人は再び刃先を突きたてた否や。


「硬ぇ!」


 スウィフトが叫んだ。硬い甲殻に覆われて三人の攻撃は、思うようにダメージには変換されない。


「どうする、これ!? 初めのと同じくらい強いよ」


 シャメロットがハサミをスウィフト目掛けて振り上げたその瞬間、後方からの強い衝撃によって地面に転がる。エルツは蹴った足を押さえながら叫んだ。


「今のうちに!」


 エルツの掛け声に慌てて、ターゲットに飛び掛る一同。戦いは完全な泥仕合となり、一同は激しい消耗戦の果てにシャメロットを沈めた。


「倒した……」


 エルツは額の汗を拭いながらパーソナルブックを開きステータスを確認する。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


〆エルツ ステータス


レベル 1

経験値 ------------ 2/100

ヒットポイント ---- 49/100

スキルポイント ---- 10/10


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「思った通りだ、経験値入ってるね。でもたった1か」


 エルツの言葉に二人も自らのステータスを確認する。


「ほんとだ。何で?」


 つまりはこういう事だ。

 一戦目、初めての戦闘の時はおそらく今回の戦闘と比較してLv3のシャメロットと三人は戦闘をしたと考えられる。本来ならば、条件的には同じであるが経験値が入った今回と比較して一点大きな違いがある。それは何か? パーティを組んでいなかったのである。パーティを組んでいない状態で複数人が同一対象を攻撃した場合、そのモンスターから得られる経験値は『0(ゼロ)』になる。

 では二戦目はどうか、二戦目の時は一同はパーティを組んだ状態でちゃんとLv1のモンスターを撃破したにも関わらず経験値が入らなかった。その後に各個、それぞれがソロで討伐した際には経験値は入った。これらの事象が何を示すのか。エルツはある一つの計算式を組み立てていた。ソロで討伐した際のLv1モンスターからの入手経験値は『1』。パーティではその経験値が入手出来なかった。それはおそらく経験値の『分配』にある。『1』の経験値がパーティ人数で割られていたとするなら納得がいくのだ、そして小数点は『切り上げ』か『切り捨て』か。この場合は切り捨てられたと考えるのが正解だろう。

 つまりはパーティで経験値を得ようとするならば、少なくとも自分より強いLvのモンスターと戦う必要がある。ソロで撃破していないから確認できないものの、おそらくLv1ソロでLv3のモンスターを倒せば少なくとも『3』以上の経験値を入手できるだろうとエルツは推測していた。事実、その推測はこの世界の仕組みを正確に分析していた。


「なるほど、それなら納得がいく」


 たったこれだけの戦闘から正確な考察を生む、そのエルツの洞察力。コーザとの闘いの時にも見せたエルツのその鋭い分析は、スウィフトとリンスの信頼を集めるには充分なものだった。そして、エルツもまたこの世界で初めて出会ったそんな仲間達に、信頼を寄せ始めていた。

 付き合いは短いものの、今三人の間には今確かな信頼関係が生まれようとしていた。


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