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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第四章 『アンディファインド』
115/242

 S7 琥珀園

 白亜の西門を出た街外れの草地にて、エルツ達は視界内に散開する冒険者を見つめていた。ざっと見た感じ三百名といったところだろうか。ポップを示す光が舞い降りた瞬間に、そこへ群がる冒険者達。見た限り、状況的にはFoopy追加時より悪化しているように思える。低Lv者達のウーピィ狩りにおいて、明らかに今回のバージョンアップは下方修正以外の何モノでもない。


「いや、想像以上に悲惨な状況だな」


 エルツの呟きに無言で頷く二人。

 視界の隅ではちょうど一体のウーピィを巡って冒険者達が醜い言い争いを始めていた。この状況なら、拾得物の横取りが発生しても不思議じゃない。それだけに、今ウーピィの綿毛の需要は高まっているのだ。

 予想通りとはいえ眼前に広がる光景に肩を落とさざるを得ない。


「街前での狩りは諦めた方が良さそうだね」

「もっと平原の奥まで進んでみようか。少しでも人が少ないポイントで狩った方がいいし」


 そんな呟きを漏らしながら、ウーピィに群がる冒険者達を横目に一同は西エイビスを北上する方針に決めたのだった。

 雲掛かった空。少し風の強く出ていた先刻から随分と気温も落ち着き過ごしやすくなったように感じられる。遠方の空では黒雲が渦巻いて見えたが、風向きからしてこちらへ流れてくる事はないだろう。

 街外れの草地から歩く事、三十分。背丈ほどもある多年草の雑草地帯を掻き分けエルツ達は再び草原へと躍り出る。


「くそ、変なルート通っちゃったな」


 普段歩き慣れていないルートを敢えて通ったせいか、なかなかの悪路に愚痴を零すエルツ。

 やはり、街から離れた事もあり、冒険者達の姿は次第に少なくなっていた。それと比例するかのようにウーピィの姿もまた見られなくなっていた。

 

「ここら辺がウーピィの生息地の限界範囲か。ここから先はコカトリスポイントだもんな」


 そんなエルツの呟きに、辺りを見渡す一同。

 

「戻った方がいいのかな」


 スウィフトの促しにエルツはふとPBで時刻を確認した。

 時刻は13:15。一度この辺りで休憩するべきだろう。


「あっちに見える林で休もうか。多分、この辺ならアクティブなモンスターいないでしょ」


 エルツの指し示す先に密集する黄葉をつけた木々。

 そこは、小さな林だった。スティアルーフの西門からセントクリス側に沿って北上した山麓に位置するこの林。休憩するポイントを探しながら奥へ奥へと歩み進む。直径十五メートル程の林を抜けると、そこは山脈地帯へと繋がる断崖に囲まれた半円状の小さな窪みが存在した。


「こんなところがあったんだ……」


 聳えたつ断崖のその麓には美しき白の花々が咲き埋め尽くしていた。

 小さな茎に小豆色の斑紋を付けた白色の花弁をもたげたその美しい花の名は琥珀蘭という。断崖周りを真白に染め上げるその美しい花々を前にエルツ達は言葉を失っていた。


「綺麗だな……」


 この光景を映像に残せない事を残念に思う。こんなに美しい光景があるならば、ただこの目に宿すだけでは勿体無い。

 その花々の中でぴょんぴょんと飛び跳ねる小さな影が幾つか。


「ウーピィ……? こんなところにも居るのか?」


 スティアルーフから一時間以上も離れた小さな林の向こうに存在するこのスポット。コカトリスのルートから大きく外れたこの地点には通常ならば、誰も用が無いポイントだろう。今までのシステムではこんなに街から離れたこのポイントまでわざわざウーピィを狩りに来る理由がないからだ。

 そんな小さな綿兎を見つめながらスウィフトがふと呟いた。


「もしかしてさ、ここ……穴場なんじゃない?」


 隠れた美景に加えてウーピィが点在するこのスポット。断崖に視界を囲まれたこの白染めの花園には、数えてみたところ、計五匹のウーピィがポップするようだった。この狭い空間に五匹、そしてどうやらここのウーピィは約十分間隔で再出現リポップをするらしい。

 大体一時間に三十匹狩れる計算だ。となれば夕方まで狩り続ければ裕に百匹は超えるだろう。解き放たれたかのように、ウーピィ狩りを始めるエルツとスウィフト。


「リンス、もし嫌だったら休んでなよ。ここはエルツと僕だけで充分だから」

「え、そんなの……私もやるよ」


 そう言ってウーピィ狩りに参加するリンス。

 狩りは実に緩やかに、そして穏やかに行われた。大体ウーピィ一匹を狩る時間は僅か十数秒の作業だった。狩っては休み、狩っては休み。ポップを待つ間は他愛もない談笑を楽しむ。

 そうして、狩りは日が暮れるまで行われた。

 この日、夕方までに三人で入手したウーピィの綿毛のカードは四十三枚。倒した総数は百二十六匹にも及んだ。

 琥珀色の花畑に座り込み、入手した十数枚のカードを確認しながら微笑み合う三人。そんな三人の様子をリポップしたウーピィは不思議そうに寄り添い見つめる。


「ごめんな、お前達には何の罪も無いのに。恨むなら運営者達を恨んでくれよ」


 そう言いながら、エルツがウーピィの頭を撫でようとすると、彼らはピョンピョンと飛び跳ね三人から離れて行った。

 そんなウーピィ達を見つめながら休憩がてらPBを開くエルツ。


「さて、街に戻る前にちょっと生産でも試してみようかな」

「あ、僕もそうしようかな。もしわかんなかったらエルツに今ここで聞けるし」


 エルツの言葉にスウィフトとリンスもまたPBを開き、そうして三人は生産画面を開いた。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ▼生産メニュー


  ○鍛冶 S.Lv0.00

  ○製縫 S.Lv0.00

  ○魔工 S.Lv0.00


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「皆レシピ覚えてる?」

「うん、製縫の生産区分が製糸で素材はウーピィの綿毛だよね」


 そうして、三人はそれぞれ生産区分を選択し進めて行く。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ▼生産メニュー


  ○鍛冶 S.Lv0.00

  ○製縫 S.Lv0.00

   ・裁縫

   ・製革

   →製糸 >>>>> 【生産素材選択】

  ○魔工 S.Lv0.00


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 生産区分:製糸

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ▼生産素材を選択して下さい

 

 【生産素材の追加】


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 現れた画面を見つめてリンスがスウィフトのPBを覗き込む。


「生産素材を選択して下さいって」

「そしたら、ほら。その下の生産素材の追加ってとこクリックして」


 仲睦まじいそんな二人のやりとりに微笑むエルツ。昨日のスウィフトの告白には吃驚したが、そうして見ると前からスウィフトはリンスとよく話していたし、違和感はない光景だった。

 生産素材の選択画面が出たら、アイテムリストの中からウーピィの綿毛を選択し、個数を決定する。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 生産区分:製糸

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ▼生産素材1 ウーピィの綿毛×1

 

 【生産素材の追加】


 ●生産する(生産確率:100% 生産時間:1分)

 ●キャンセル


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「生産確率100%だってさ。確実に生産できるって事か」


 そう呟きながら生産するボタンをクリックするエルツ。すると画面に生産中という文字が表示され作業段階を示すバーが現れた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 現在生産中です

 生産状況 13%

 ■□□□□□□□□□


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 このゲージが黒で染まった時に生産が完了するという事なのだろう。

 エルツは花畑に寝転んでPBを投げ出すのを見て、スウィフトが声を上げる。


「これ生産するって押して大丈夫だよね?」


 リンスのPBを覗き込みながら、そうエルツに確認するスウィフト。


「ちゃんと、レシピ選んだ?」

「うん、ウーピィの綿毛で一つでしょ。選んだよ」


 エルツの言葉に頷くスウィフトとリンス。


「それで、生産するのとこに生産確率と時間が表示されてればオーケーだと思う」

「サンキュ!あ、ほんとだ。生産確率と時間ここに表示されてたんだ」


 そうして二人が生産を開始するのを見つめながら、エルツはふと自分のPBを手に取る。

 どうやら生産は無事に終わったようだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 【生産に成功しました】


 ★生産アイテム:ウーピィの綿糸


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お、ウーピィの綿糸ゲットー!」


 そう言って両手を振り上げて喜ぶエルツ。初生産は無事に成功したようだ。

 生産は成功した時のこの喜びがあるからたまらない。簡易なレシピとは言え、やはり嬉しいものだった。そんな喜びに身を打ち震わせるエルツに続いて、二人も歓喜の声を上げた。


「あ、出来た!やった!」


 笑顔で微笑み合うスウィフトとリンス。

 エルツはそんな喜びに身を任せるのも束の間、すぐに次の生産へと取り掛かり始める。そして、生産画面の途中でエルツはその変化に気づいた。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ▼生産メニュー


  ○鍛冶 S.Lv0.00

  ○製縫 S.Lv0.01

  ○魔工 S.Lv0.00


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「あ、S.Lvが上がった」


 エルツの言葉に二人も自らのPBを確認する。


「本当だ。0.01上がってる」


 その嬉しい事実に喜び合う三人。だが同時にエルツは小難しい顔も見せていた。


「エルツ、どうした。なんか糞でも詰まったみたいな顔して」

「スウィフトくん、表現が汚いよ」


 リンスからそんなたしなめを受けるスウィフト。


「いや、これで0.01上がったって事はさ。つまりこれ後99回同じ事やらないと次のLvに上がらないわけでしょ?」

「う、言われてみれば。それちょっときついね」


 だが、掲示板の情報を見た限り上位生産を行えば生産確率は下がるものの、より多くの生産経験値を得られるようだった。どちらの方が効率が良いのかは今の段階ではまだわからないが、後々上位レシピも試してみた方が良いだろう。


「残りは街へ戻ってゆっくりやりますか」


 エルツの言葉に笑顔で頷くスウィフトとリンス。


「エルツ、明日もここ来ない?」

「うん、言われなくてもそうするつもりだった」


 スウィフトの言葉に笑いながらそう言葉を返すエルツ。


「ここはさ、三人だけの秘密にしようよ」


 スウィフトの言葉に笑顔で契りを交わす一同。

 そうして、その日確かな成果を上げたエルツ達はほくほくの笑顔でスティアルーフへと帰還するのだった。

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