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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第三章 『変わり行く世界』
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 S34 牽制心

 西エイビス平原を移動中、先導するケヴィンの後ろでエルツはユミルと共にタップ達と会話を交わしていた。


「へぇ、皆さん同じコミュニティに所属してるんだ。こんな可愛らしい女の子が居るなんて羨ましい」

「そんな事ないですよ」


 照れ笑いを以って、タップに返答するユミル。いきなり見ず知らずの男に可愛いと言われて、女性はどんな感情を持つのか。人によっては、全くの他人にいきなりそんな事を言われたら戸惑いを覚えるかもしれない。だが、大抵の女性は素直に可愛いだとか綺麗だという言葉をさりげなく受けたら悪い気はしないのだろう。笑顔を返すユミルにエルツは複雑な心境だった。厄介な事に、ユミルはタップ達の人となりを知らない。あの会話を聞いていたら、それこそユミルの態度も変わっていただろうが、あの時とは一転、紳士的な態度を見せるタップに対してユミルは微笑みを向けていた。


「タップさんのコミュニティに女の子は居ないんですか?タップさん美形ですからきっとモテルでしょ」


 そう冗談交じりに返すユミル。


「俺らはコミュニティに所属してないんですよ。どうもタイミングを逃してしまったみたいで。ここまではシティBBSを活用したり、フレンドと上手く連携してやってきたんですが」

「そうなんですか、それはちょっと大変ですね」


 コミュニティに所属していない、その言葉を聞かされた時、ユミルが二つ返事でうちのコミュニティに入りませんか、と言葉を返すのではないだろうかとちょっとした心配をしたが、流石にそこのところは彼女も弁えているようだった。

 まさか、初対面で素性も知れない相手に対して、コミュニティへの勧誘をする事はないだろう。だが、よくよく考えてみれば自分達がコミュニティへ誘われた時のきっかけは何だっただろうか。


「いやぁ、でもパーティに女性が居て安心しましたよ。男だけのパーティって今まで幾度と無く経験してきましたけど、際限ないというか限度を知らない方達が多かったもんで、女性が居るとパーティの雰囲気も柔らかくなるし、行過ぎた場合上手くストッパーになってくれるので本当に助かります」


 エルツの前でも堂々と、ユミルを持ち上げに掛かるその図々しさは実際大したものだった。どうやら、ここまでの流れからしてあのタップという男はユミルをターゲットして見定めたのだろうか。人の恋愛事情に首を突っ込む気はさらさらないが、西門でのあの話を聞いてしまった以上、みすみす連中に勝手な行動をさせるつもりもない。余計なお節介と思われるかもしれないが、もしも万が一の事があった場合、チョッパーに合わせる顔が無い。

 そんな心境が表情に出てしまっていたのだろうか。ふと、タップはエルツに視線を流すと言葉を掛けてきた。


「時に隣のあなたは。もしかしてユミルさんの彼氏ですか」


 タップの言葉にユミルが驚いた表情でエルツに視線を向ける。

 唐突なタップの切り口。その言葉にエルツは一瞬沈黙した。関係ないと言えばそれまでだが、ここでは慎重に答えるべきだろう。そう思ったのだ。


「ただのコミュニティメンバーですよ」


 エルツのその返答を聞き、タップは笑みを浮かべる。


「そうですか。それは良かった。それなら俺にも可能性が」


 そう言い掛けたタップの言葉を遮るようにエルツは口を開いた。


「ただ、このコミュニティに入ってから彼女には本当に色々お世話になっててね。これは勝手な僭越ですけど。兄にも似たような感情は持ってます。彼女は純粋だから悪い虫がつかないようにと。なので、もしもの時はマネージャーである僕を通して下さいね」


 冗談めいたエルツの口調にユミルが笑いを零す。


「やだエルツさん、いつから私のマネージャーになってたんですか」


 そんなエルツの態度に、タップは仲間と共に笑みを浮かべていたが、一瞬だけ笑みを消すぎこちない瞬間を見せた。


――牽制は成功か――


 少なくとも自分の事を、ここで彼らの目的上の障害として認識させねばなるまい。

 あの一瞬の表情から察するに牽制は成功だろう。


「素敵なお兄さんだ」


 タップは一言そう呟き、それからは少しおとなしくなった。

 だが、十七歳にもなる女の子に対して、本当にこれは余計なお節介だったと、エルツは一人反省していた。何より彼女の意向を完全に無視している。

 十七歳と言えば、もう立派な女性だ。こんな事をしなくてもユミル自身、自分の目で相手の人となりを判断する事だってできるだろう。ならば、今自分がやった事は本当にただのお節介ならぬ自己満足に過ぎない。

 そして、もし仮にエルツの不安が的中し彼女が傷つくような事があっても、可哀想だが、それもまた彼女の責任なのだろう。そうした経験がまた彼女の今後の判断の糧となり、そうして人は成長していくのかもしれない。だが……


――やっぱり見える範囲では守ってあげたいよな――


 自分はユミルの何なのか。親でも無ければ兄でも無い。

 だけれども、やはり親心にも似たこの言葉に表せないこの感情。

 もしかしたら、これも一種の下心なのだろうか。

 今一、不明瞭な自分の気持ちを抱えながら道中エルツは自責の念と共に歩むのだった。


 ■休載のお知らせ


 いつもARCADIAを読んで下さりありがとうございます。この度突然の報告申し訳ありません。現在、仕事の異動につきましてちょっとリアルがごとごととしております。つきまして、毎日一話という執筆ペースを維持する事が現状難しくなって参りましたので、執筆ペースを見直すためにもまだ章末ではありませんが、この度少し休載期間を頂く事にしました。

 休載期間については約一週間〜二週間を予定しております。なるべく早い段階で復帰を予定しておりますので、何卒ご理解の程宜しくお願い致します。

 拙作ではありますが、今後もARCADIAを宜しくお願い致します。一日も早い復帰を目指して頑張ります!

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