S32 狩約束 with Kevin & Yumiru
PM8:15。日もすっかり落ち、辺りが暗闇に染まった頃、エルツはもはや常連となった屋台市の一角、揚湯で一人食事を取ると、コミュニティルームへと向かった。ここ最近自分が遠征していた事もあって、あまりコミュニティメンバーの姿を見ていない。誰か居るだろうか、とそんな事を考えながらエルツは扉を開いたのだった。
コミュニティルームにはソファーで寛ぐユミルとケヴィン、それからスウィフトとリンスの姿があった。うるさい子供達の姿は今日は見られない。また無茶な遠征にでも行ってるのだろうか。
「こんばんは〜」
エルツの姿に気づき、皆が笑顔を向ける。
「あ、エルツさんこんばんはー!」
「よう、久々!」
微笑みかけるユミルと、飲んでいたブランデーの入ったグラスを上げるケヴィン。
エルツは、そんな二人に笑顔を返しながら、向かいのスウィフトとリンスの間に挟まれた空いたソファーに腰掛ける。
「ああ、疲れた」
「おつかれ。どこ行ってきたの。あ、なんか飲む?」
そう言葉を掛けるのはスウィフトだった。
「ああ、ありがと。うん、トロイの森までパーティ行ってきたんだ。キャンプ場に一日泊り込みで」
「へぇ、キャンプ場なんてあるんだ」
差し出されたグラスを手に取り、ただの酒を割る蒸留水を注ぐエルツ。
「レベルダウンしたんだってなエルツ」
ケヴィンの言葉に一瞬ユミルが視線を背けた。
「話は聞いたぜ。トロイを前に皆の盾になるなんてやるじゃん」
どうやらユミルがあの一連の出来事を皆に話したようだった。
「エルツさん、ごめんなさい。皆に話しちゃいました」
「いや、別にいいよ」
別に話されても別段問題がある話ではない。まぁ、少しこっ恥ずかしいというのは正直なところではあるが。
「まあ、今まで順調過ぎたからな。いい気味だ」
「ちょっと、そんな言い方ないですよ。そういうケヴィンさんだって、今日レベルダウンしたって言ってたじゃないですか」
ユミルの言葉にエルツがケヴィンに視線を向ける。
「キャタピラー狩りの帰りにな、西エイビスで野生狼の群れに出くわしたんだ。最悪な事に、そん中に銀狼が居てさ。あっという間にパーティ全滅した。ついてねぇよ」
シルバーファング、その名は攻略掲示板で見かけた事がある。何でもワイルドファングは基本、数匹の群れで行動しており。その中に、時折シルバーファングというRMが抽選ポップする事があるらしい。
これから狩りの対象がワイルドファングになる事を考えると、充分にその存在には注意しなければならないだろう。
「というわけで、Lv8に逆戻りさ。暫くはまたワイルドファング狩りだな」
ブランデーを口にしながらそう呟くケヴィン。
その時、ふとパーソナルブックを開いていたスウィフトがある事実を口にした。
「Lv8? あれ、じゃあエルツとケヴィン同じLvなんだ?」
その言葉にケヴィンがふとソファーに寄り掛かっていた身体を起こす。
「いや、違うだろ。だって、こいつレベルダウンしたんだし、あれじゃ今Lv7に戻ったのか?」
それを聞いてパーソナルブックでデータを確認するユミル。
「あれ。え、ちょっと待って。エルツさん本当にLv8だよ?数日前までLv6だったのに、え……なんで?」
パーソナルブックのコミュニティのデータを見て混乱する一同。
「いや、実は昨日から組んでたパーティが凄くてさ……二日で1Lv上がったんだ」
「は?」
声を揃えて呆然とする一同。
「二日で1Lv?ちょっと待て。言ってる意味がわかんね」
「え。キノコ狩りですよね?」
動揺するケヴィンとユミル。
「え、ちょっと待てよ。どんなペースで狩った?」
「二日で十時間くらいだったから、時給10EXPかな。だから六分で一匹のペースか」
エルツの言葉に頭を掻くケヴィン。
「六分に一匹って有り得なくないか?だって木に登って準備するだけで、そんくらい時間かかるぜ。それから所定位置まで釣って、攻撃してまた木から降りるって物理的に不可能だろ?」
確かにケヴィンの言う事は尤もだった。だが、実際は通常パーティで行う動作の多くを昨日のパーティでは省いていた。
「実は木登って無いんだ」
それからエルツは皆に昨日経験した狩りの一部始終を話した。
ケヴィンとユミルはただただその内容に驚愕するばかりだった。
「そんなの有りかよ。でも七、八メートル離れた位置からMush Hopperの頭部狙うって、それ外したら終わりじゃねぇか」
「うん、何回か、外したけどその時は木に登ればいいしね。意外と言葉にすると難しそうだけど慣れれば出来るよ」
エルツの言葉に首を傾げるケヴィン。
「お前やっぱおかしい」
「なんだか話はよくわからないけどエルツが廃人だという事は分かる、可哀想に」とスウィフト。
慌てて突っ込むエルツ。
「いや、可哀想にって言うな」
それから、話の流れはひょんな方向へと向い始める。
「エルツ明日暇? 暇だろ。いっぺんお前とパーティ組んでみたい。俺と組め」
「うん……? まあ別に予定はないからいいけど。自分も明日からワイルドファング狩りに行こうと思ってたし」
強引なケヴィンの言葉にエルツが苦笑いしながらそう答えると、隣でユミルが声を上げた。
「え、いいな。私も一緒に行っていいですか?」
「ん、ああ。じゃあお前も来いよ。ただ足引っ張るなよ」
ケヴィンの言葉に笑顔で頷くユミル。
「それじゃ、決まりだな。明日から西エイビスでワイルドファング狩りだ」
「残りのメンバーどうします?」とユミル。
残りのメンバー?ああ、そうか。自分達だけじゃ三人だしあと一人必要か。
「最低あと三人か」
あと三人?どういう事だろう。あと一人じゃないのだろうか?
「あと一人じゃないの?」
「ん、あ、そうか、エルツはワイルドファング狩り初めてだもんな。ワイルドファングは最低ニ匹以上の群れで行動してるから、狩る時は二パーティ以上要るんだよ。一パーティ最低人数三人だとして、だから二パーティだと六人だろ。本当は三パーティだと安心出来るんだけどな。流石に今日から募集かけて明日じゃそんなに人集まらんだろうし」
なるほど、という事はセパレイトパーティとはまた別のパーティ同士が分かれて同盟を組むような形になるわけか。MQでいうアライアンスのようなものだろう。
「いいな、楽しそうだな」
そう呟くスウィフト。
「スウィフトも、今度またコミュニティ企画があった時に組もうぜ。明日行く狩場はLv4だとちょっと危険だからな」
「うん、コミュニティ企画楽しみにしてるよ。じゃあエルツ頑張れ!」
そうして、スウィフトにも背中を押され、突発的に決まったワイルドファング狩り。
「詳細は後でメールするわ」
そう意気込むケヴィン。
明日は一体どんな狩模様になるのだろうか。