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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫  作者: Wiz Craft
〆 第一章 『旅立ち』
10/242

 S8 VS Shamelot<シャメロット>

■双華の月 炎刻 11■

>> Real Time 4/21 10:25


 頬を撫でる柔らかな風。温かな陽射しを瞼の裏に感じエルツはその身を起こした。周囲を見渡すと、そこは素朴な木造の一室だった。麻の服を纏った自分の姿にエルツは安堵し、そして大きく伸びをする。


「起きたら自室じゃなくって良かった。これで寝オチだったら最悪だもんな」


 洗面所へ向い、冷たい水で顔を洗う。


「折角だからシャワーも浴びるか」


 全身の衣服を外す方法は昨日クリケットから教わっていた。ただ、アイテムリストから装備を外すだけでは、下着を装着した状態になる。下着まで外す方法はただ一つ。本人がコマンドキーワードを言うしかない。


「ネイクド・オン」


 エルツの体が光に包まれる。しかし、コマンドの内容だけにすぐに装備が変更されるわけでは無い。もし、間違って発言してしまった時の防止用にこのコマンドにはもう一段階作業がある。光輝く時間は約十秒間、その時間内にパーソナルブックにポップアップした『装備解除(naked on)』のアイコンをクリックする事で、初めてコマンドが成立する。光のエフェクト[演出効果]が消えるまでに、アイコンを押さなかった場合は自動でキャンセルされる。

 そうして、一連の作業を済ませ服を脱ぎ捨てたエルツはシャワールームへと消えて行った。



 朝の身支度を終えた一同は宿屋のロビーに集まっていた。


「今日はどうする?」

「ちょっと村の外に出て色々探索しない?」


 エルツの返答にスウィフトは頷いた。


 宿屋を出た一同は、この村へやってきた時に通過したあのトンネルを潜り抜け、外界へ。

 穴道を抜けるとそこには澄み渡った青空と広大な蒼海が広がっていた。


「なんか、昨日来たって感じがしないな。ずっと昔に来たみたいだ」

「それだけ、昨日一日が濃密だったって事だよ」


 三人はそんな会話をしながら、海岸へと向かって歩いていく。真っ直ぐに伸びた海岸線を引き返せば、旅立ちの浜辺に着く事になる。


「今更、旅立ちの浜辺行ったってあそこモンスターいないしな。まずはこの島の海岸線に沿って外周一回りしてみようか」


 エルツの提案に二人は賛同した。

 まずは切り立った崖を横目に、海岸の砂岩を踏みしめて行く。

 すると、エルムの村の入り口からそう遠くない位置に、何やら鋭い岩が突起した岩場を三人は発見した。岩場には体長五十センチメートル程の大きなヤドカリのような生物が、無数に岩場の周りをゴソゴソと這い回っていた。


「なんだろ、あれ」

「ヤドカリ? 硬そうだな〜」


 三人が近づいていってもそのモンスターは逃げようとしなかった。


「近づいても逃げないよコイツ」


 スウィフトがその甲殻をツンツンとつつきながら言った。


「いわゆる、ノンアクティブ[非自発的行動型]なモンスターなんだきっと」

「ノンアクか、まさかこんな形でノンアクなモンスター体感できると思わなかったな」


 スウィフトはそう言いながら腰元の銅のナイフに手を掛ける。


「で、どうする。こいつ狩る?」

「そうだね、一匹くらい練習がてら狩るのもいいかも。一応リンクする可能性も考えて、一匹誘き寄せてから攻撃してみよう」


 二人の会話についていけないのかリンスは困ったような表情を浮かべていた。

 それを見て、いつものようにスウィフトがすかさず説明を入れる。


「RPGでは定言なんだ。ノンアクティブってのは自分からは攻撃して来ないおとなしいモンスターの事。逆にアクティブって言うのは自分から攻撃してくる獰猛なモンスターなんだ。リンクっていうのはモンスター達の習性を表す言葉で、モンスターによっては仲間が攻撃されるとそれを感知して加勢してくる事があるんだ。これを一般的にリンクするって僕らは呼んでる」


 スウィフトの言葉にリンスは感心したように頷いた。


「私達がここにいても攻撃してこないから、だからこのモンスターはノンアクティブなの?」

「そういう事」


 リンスの飲み込みに、エルツとスウィフトは微笑みを返した。


「それじゃ、戦ってみますか」

「群から離れた一匹狙おう。あいつが狙い目かな」


 そう言ってエルツは岩場から少し離れた砂岩でウロウロしている一匹のヤドカリを指差した。


「ここで、二人は待ってて。僕がここまで釣ってくるよ」


 そう言ってエルツは単身そのターゲットの元へ。


「念のため、少し離れて釣ろう」


 遠距離から釣る事で、パーティメンバーの元まで誘き寄せる間の距離を稼ぐ。こういったエルツの思考もまた今まで培ったRPGによる知識の賜物であった。

 足元の小石を手に取り、標的を見定める。


「これでも喰らえ!」


 全力で投球したエルツの投石は見事にヒットした。

 微量なライフエナジーの光が、ヤドカリの甲殻から漏れる。同時にヤドカリは急に機敏な動きでエルツへと向かって突進してきた。


「うぉぉ!?」


 スウィフトとリンスはエルツが釣っている様子を遠めに眺めていた。

 そして、今釣ったや否や二人目掛けて必死な形相で駆けて来るエルツの姿に二人に緊張が走る。このヤドカリが強いのか弱いのか、それは全くの未知数。


「皆囲んで切りつけよう!」


 エルツは二人の居る場所を若干通り越して振り向く、そうする事で、ヤドカリの位置がちょうど待っていた二人の間に来るように調整したのだった。

 ヤドカリはエルツに追いつくや否やそのハサミで、エルツを打ち付けた。

 エルツの足元から漏れる微量なライフエナジー。その量から察するに、そこまでこのモンスターの攻撃力は高くない、という事を三人は悟る。


「そんなに攻撃力は高くないぞ!」


 エルツの言葉に一同は安心してナイフを振り翳す。そして!

 ナイフが甲殻を切り付ける乾いた音が鳴り響く。その甲殻から漏れるライフエナジーは微量。つまり、それはこのモンスターの防御力の高さを意味していた。


「でもめちゃめちゃ硬くない? 全然ダメージ受けてないみたいだ」


 スウィフトが声を張り上げた。


「装甲攻撃したんじゃ倒すの無理か」


 咄嗟に三人はヤドカリから距離を取る。トライアングルに陣取った三人の中心でヤドカリをターゲットに迷い、右往左往する。


「しょうがない、ダメージ覚悟で」

「何する気?」


 エルツは咄嗟に、ヤドカリ身体を後ろから抱きかかえた。

 ヤドカリがブンブンとハサミを振り回し、エルツの身体からライフエナジーが漏れる。


「結構、重いな」

「何やってんだエルツ!?」


 エルツはこんな馬鹿げた行動もある目算の元に動いていた。


「ひっくり返す!!」

「は!?」


 エルツがそう叫び、思い切りヤドカリをひっくり返した。

 地面に転がり、殻を下にバタバタと足をもがき泳がせるヤドカリ。


 そして、エルツはそこ目掛けて思い切り切りつけた。

 切りつけた箇所から漏れる多量の光。エルツの目算はここで成功を物語った。


「やっぱり、足の裏はそこまで硬くない」

「お前、それ確認するためにあんな無茶したのか!?」


 エルツはその返答の代わりに、ヤドカリに向かって切りつけた。

 それを見て二人も慌てて、攻撃に加わる。


「また起き上がる前に仕留めないと!」


 そう言ってエルツが今再び刃を突き立てたその時だった。

 ヤドカリの全身から、大量の光が立ち昇り、ヤドカリの身体が薄くそして透明に近づいてゆく。

 空気中に光は拡散して行くにつれ、その姿は着え、そして見えなくなった。

 そして、空気中には一枚のカードが輝きながら漂い残されていた。


「倒したのか……」


 三人はほっと胸を撫で下ろす。


「このカードはなんだろう?」


 漂っていたカードをエルツは手に、その内容を見る。

 それが戦利品だと気づくまでそう時間は掛からなかった。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


〆カード名

シャメロットの甲羅


〆分類

アイテム-素材


〆説明

Shamelot[シャメロット]<ティムネイル諸島全域に分布し生息する陸蟹>の甲羅。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 戦利品だと理解してからスウィフトの心情の動きは速かった。


「エルツ、お前が取れよ」


 笑顔で、そう語るスウィフトに、リンスも頷いた。

 ここで、見え透いた遠慮をするのは、逆に二人に失礼だ。そう思ったエルツは笑顔で感謝を口にした。


 戦闘の後、三人は崖近くの影に腰を下ろし、パーソナルブックを開いて休憩していた。


「HP87か。結構ダメージくらってたんだな」とスウィフト。


 その横で、エルツは自分のステータスを見て愕然としていた。


「HP56……」

「はは、無茶すっからだよ。暫く休もう」


 そして、スウィフトはふと自分のステータスを見てある事に気づいた。


「なんかさ、あれだけの激戦だったのに経験値入ってないんだけど。皆入ってる?」

「いや、自分も入ってない」とエルツ。

「私もと」リンス。


 スウィフトは首を傾げた。


「あとさ、何か、『現在パーティに所属していません』になってるし、これってどうやってパーティ組むのかな」

「あ、ステータス画面のタブに『パーティ編成』ってある。多分、これかな」


 エルツが、タブをクリックするとそこにはパーティ編成画面が映った。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


■パーティ(現在名:1人)


☆Elz


■パーティ編成

 パーティに誘う>通信範囲から/フレンドリストから


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 画面に浮かんだ文字から情報を読み取り、パーティ編成項目から通信範囲をエルツは選んだ。すると、そこにスウィフトとリンスの名前が挙がる。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


■パーティ(現在名:1人)


☆Elz


■パーティ編成

 パーティに誘う>通信範囲から>


 Swift >>> 招待する

 Lins >>> 招待する


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 パーティ編成項目の下に表示された二人の名前の右側に記された『招待する』をクリック。すると、スウィフトとリンスから反応があった。


「あ、なんか招待が来た」

「今、『了承する』を選んだよ」


 そして、再び一同はパーソナルブックを確認する。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


■パーティ(現在名:3人)


☆Elz

 Lins

 Swift


■パーティ編成

 パーティに誘う>通信範囲から/フレンドリストから


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「あ、『パーティ所属中』になった」とスウィフト。

「こうやってパーティ組むんだ。何でクリケット教えてくれなかったんだろ」


 一同はそんな疑問を抱きつつ、パーソナルブックを閉じた。


「さて、体力も回復したし、そろそろ行きますか」

「もう、カニは勘弁だな」とスウィフト。


 その言葉にエルツも頷く。


「こっちの岩場はここから先進めないみたいだし、反対側行ってみようか」


 そうして、体力を回復した一同は次の獲物を目指して、狩場を移動する。

 次にはどんなモンスターが待ち構えているのか、その胸に期待を抱きながら。


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