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ファルと百貨店の出会い方

こんばんは。

ここからしばらくは私生活編が続きます。

短めではございますが手にとって読んでくだされば嬉しく思います。

 宗太は今、これからの大いなる楽しみと同時に少々の寂しさを感じていた。

 よくあるラノベやゲームなどでは主人公が異世界に飛ばされて魔王を倒し、旅の途中で仲良くなった女の子や助けたお姫様などと幸せに暮らすというのが王道だ。

 しかし、ファリシアルの話す内容では魔王は既に倒され、残りは魔王の側近とその配下の掃討だけだという。

 魔法の成績が紗奈と比べてすこぶる振るわない宗太ではあるがそこは厨二病を少々患っただけの一介の男子高校生、ファンタジーや魔王とかそういう単語には憧れはある。が、昨晩知った通り既に事後だ。要は残党狩りということになる。だが側近だから魔王の次くらいに強いと宗太は思っている。

 宗太が何の寂しさを感じているのかと言えば、思い描いていた内容と展開が違っていたということだ。


(ファルは凄い可愛い。幼さの残る顔立ちの中に艶と知性が漂っている絶妙なバランス。背がもう少し高いほうが好みだけどあのボリューミーな胸。いや、ここだけでも十分贅沢な気がしてきた)


 可愛い女の子とのひとつ屋根の下で暮らす(紗奈の監視付き)。取り敢えずこれだけで満足しておこう……などと考えていた次の瞬間、即頭部から相当な衝撃が来た。痛烈な痛みにリビングのソファーから転げ落ち、床でのたうち回っている宗太を汚いものを見るような眼差しで見下ろしていた。

 眼差しの主はもちろん紗奈だ。


「考えていることが顔に出ているわよ、お兄ちゃん。どうせいやらしい事考えてたんでしょ。ヘンタイ!」


 ポニーテールを揺らしながら拳を握って見下ろす紗奈。


(妹よ、直接拳で語りかけるとはもはや乙女ではなく漢女(オトメ)ではないのだろうか。お兄ちゃん悲しいよ……)


 「宗太、大丈夫かい? 紗奈、もう少し手加減してあげてくれるかい? 男の人の妄想は異世界でもきっと共通なんだよ。これはもう性なんだよ」


 そしてファリシアルが宗太の傍で屈んで頭をさすってくれているけど内容がちょっと酷かった……。フォローのつもりで言ってくれていると思うけどそれはフォローになっていないと思っていたが、痛みでそれどころでは無かった。痛みと共に朝から精神まで削られていった。

 妄想の内容がファリシアル絡みだと勝手に確信している紗奈はそのファリシアル自身がフォローに回っていることに釈然としないものの一応の納得の様子を見せた。


「その代わり今日の荷物持ちは覚悟しておきなさいよね」


 納得はしても追撃の手は緩めなかった。

 

 昨晩の件で多少遅めに起きたが、それを待っていた紗奈は宗太とファリシアルを連れて買い物に行くことになった。主な内容はファリシアルの生活用品だ。小物などは近所のドラッグストアやスーパーなどで用が足りるが、最大の目的は着替えだらしい。その為三人はは電車を乗り継いで隣の市の繁華街までやってきた。

 本来は自分らの住んでる街の百貨店で済ます事はできるが、どうせなら主要都市の一角である街並みや人を見てもらおうと思って足を運ぶことになった。

 「こっちの世界はどう?」などと聞かなくてもファリシアルの顔を見れば雄弁に物語っていた。

 ファリシアルのいた異世界で住んでいたジオール王国というところでも総人口でおよそ七百万人。そのうち二百万人が首都アルマと言うところにいるらしい。この都市に住んでいる人口だけでアルマと同じだけの人がいると知った時の反応が驚愕の色に染められていた。


「しかし、この世界には本当に人間だけしか住んでいないのだね……」


 この一言だけでファリシアルの世界には他種族が共存していることを物語っていた。移動中、高速で走る鉄の箱(電車)に驚きながらもファリシアルのいた世界のことを少しずつ話してもらったが……。


「私たちの世界もあれはあれで不便はないよ。むしろこの世界たちの人間たちが忙しいんじゃないかな?」


 確かにと宗太と紗奈は納得していた。今のビジネスマンたちは分単位で動き、学生でもきっちり時間どおりに行動している。ファリシアルにとって目まぐるしく歩く姿は忙しく見えるのかもしれない。乗ってきた電車にしてみても分単位で次の電車が来ると言うと「そんなに余裕がないのかな?」などと返した。

 そもそもファリシアルの世界は時の概念は把握してるけど、時計はないらしい。だから日が昇ったら起きて行動を開始して、日が落ちたら仕事を終えて明日に備えるのが基本だという。


 などと色々な違いに夢中になって話していたらいつの間にか目的地に到着した。この都市有数の規模を誇る百貨店である。その建物の前で「北方要塞より大きいな……」などと言う呟きをあえてスルーしておいて紗奈の要望によりさっさと中に入ろうとした。

 と言うのもファリシアルと家を出てからここまで周りの視線をずっと集めていた。ファリシアルの容姿端麗なのはわかっていたがそれに輪をかけてあの服である。紗奈の服のサイズが合わないという理由で元の服を着ているが、黒いシスター服の様なデザインなのに腰骨まであるサイドスリットをベルト2本で支えてるだけというなんともきわどい構造だ。これで見るなという方が厳しいだろう。


(こんなに視線に晒されても涼しい顔で流すファルさんマジイケメン)


 逆に宗太と紗奈が耐え切れずに両側から手を引き店へ入っていく始末である。買い物をする前から気疲れしてしまいそうになった宗太だが荷物持ちに徹すると気持ちを切り替えガラスの扉の向こうへ入っていった。そして女の世界が待っていた。


 

「まずはここで下着を揃えるわよファル!」


 ファリシアルの手を引いてランジェリーショップへ突撃した紗奈とファリシアル。そして近くの椅子に座りながらスマホを取り出した宗太は流石に一緒に入る勇気なんて到底無かった様だが、それでも遠目から紗奈たちの様子を伺うとちょうどファリシアルがスタッフに案内されて試着室へ案内されているところだった。話している内容はわからないが恐らくサイズの確認だろう。

 明らかに自分より大きいサイズに改めてショックを受けている様子だ。

 途中「はぁ!? *カップ!? でかすぎでしょ!!」と肝心なところまで聞けない宗太が悔しそうだったが、紗奈がスタッフに窘められているのだけはわかった。プライバシーも何もあったものでは無い……。

 売り場の二人の声を片隅に追いやりながらスマホで暇を潰していると不意に影が差したと感じたら目の前にファルが立っていた。


「宗太、ちょっと来てくれないか?」


 ファリシアルが宗太の手を引いてランジェリーショップへ連れて行こうとするがさすがに周りの視線が痛いのか、慌てて制止する宗太に遠慮なく爆弾を突きつけた。


「なに今回は宗太と紗奈が払ってくれるというのなら選択権は宗太にもあるだろう? 紗奈は私が選んでもいいというのだが種類が豊富でね、宗太の主観で構わないからぜひ一緒に選んでくれないかな?」


 さらっと通路のど真ん中で特大の爆弾を落として来るファリシアル。無邪気で悪意のない真っ直ぐな眼差しをどう捌けばいいのか、後ろの方にいる紗奈と店員も顔を引きつらせながらどう突っ込めばいいのか判断に困っている。さすがにこのままファリシアルと見つめ合うわけにもいかないから意を決してファリシアルの要望に応えることにした。


「あ~うん、わかったよ。そういうことならファルの相談に乗るから、往来の真ん中で言われると僕が恥ずかしいから勘弁してくれるかな……」


「そうだね、なら早速選んでもらおうかな!」


 ファリシアルのこれは確信犯かと疑うほどにきつい状況だ。

 背中越しの紗奈の見る目が少しの同情と大量の汚物を見る視線がグサグサと宗太に刺さっていた。

 そして衝撃の事実、ファリシアルは二人より年上だった。宗太が若干子供っぽいかなという感じのチェック柄をチョイスしたら。


「宗太は私を紗奈より子供に見てないか?これでも私はそこの女性より上だぞ?」


 などと20代前半くらいのスタッフを見ながら抗議した。もちろんこの場にいるファリシアル以外の全員が驚愕のあまり言葉が出なかった。

 その後、三度の選び直しをさせられた宗太は美少女二人を両脇に並べるように店を出た。店員の同情的な「ありがとうございました」と周りの男性の妬みの視線を浴びながらようやく一軒目のお店をクリアした。


「うん、このお店は中々の品揃えだったね。宗太、次に来る時もまた選んでくれないか?」


「これ以上僕の精神を削らないで!」

 

いかがでしたでしょうか?

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