ファルと宗太と紗奈の説明会
こんにちは。
すっかり不定期になってしまい申し訳ないと思います。
今回はほぼ説明回になってしまってます。
次からのお話しは私生活編ということでもう少し明るい話しでいけたらいいなと思っています。
ご意見ご感想などあれば励みになるのでよろしくお願いします。
「ありがとう、これはカレーというんだね。感動的に美味しい食べ物だったよ」
少女はファリシアル・クレストと名乗った。
夜食を食べる前にお互い自己紹介だけは済ませてほかの話しは食後にでもということで、ゆっくり食べようということになったのだが……。
食べてる最中のファリシアルの目が爛々と輝いて「なんという香ばしくもスパイシーな食べ物」などと初めて食べるかのような口ぶりで宗太や紗奈もリアクションに困るほどの感動っぷりだ。
服装は紗奈のホットパンツにTシャツだが身長差からかサイズが大きすぎた様でダボ着いている。下着については自前の換えを持っていたらしく、今度はちゃんと履いてもらった。ブラはどうも持っていなかったらしく1階に降りて来た時にも着けておらず紗奈に見るなと念押しされた。その時の紗奈も自分の予備などと言う発想すら捨てており、完全敗北の様相で灰の様に真っ白だ。
「さて……改めて自己紹介を、私の名はファリシアル・クレスト。さきにぶっちゃけて言うと、こことは違う異界の【ジオール】という国から来たのさ。大まかな目的は魔王の側近たちの掃討だね。まずはここまで付いてこれてるかな?」
まるでラノベのような展開である。異界からの少女を拾ってきて、そしてそこからいろいろな事件に巻き込まれる。普段からゲームやラノベを読んでいる宗太にとってはワクワクするような展開だ。
宗太は寧ろこう言う展開に胸を躍らせて前のめりに聞く方だが隣で座っている紗奈は眉間に人差し指を立てて何やら唸っている。
「ちょっと待って……えーっと、ファリシアルちゃんはジオなんとかって外国から来て、魔王の部下を倒しに来た……でいいのかな?」
異界とか魔王とか唐突な単語に宗太より成績の良い紗奈が理解に間に合わず言葉として出た解釈が聞いたまんまで少々残念な感じになってしまっている。
それでも一応付いて来ていると判断しつつも「ちゃん」付けされたことに苦笑いをして「呼び捨てか長ければファルでも構わないよ」と補足した。
「僕からも質問、何でファルは森で倒れていたの?」
「そっか、私は森で倒れていたのか。この世界への指定先がないまでは想定内だったけど、気を失うのは想定外でね。こっちの世界に着くと同時に活動予定だったんだけど…………まぁ宗太のおかげで助かった部分もあるから結果だけ見れば一応無事に着いたことになるね」
結果オーライだから問題ないとでも言うようにファルは随分あっさりと答えた。根が大雑把なのか、それともマイペースなのか……。
しかし、何がどう助かった部分で無事に着いたのか。宗太は一瞬考えたが答えの出ない思案を捨て、紗奈は聞きに徹することでファリシアルに向き次の言葉を待った。
「まずは私がこの世界に来る際に、何も手放しで来ることは出来ない。一応それなりの魔道具を使って来ているのさ。【メタクリスタル】っていう名前なんだけど、これは本来同じ【メタクリスタル】同士の場所を結びつけるためのいわば空間転移の魔道具なんだよ。主に二つないし三つで一つの魔道具なんだ。それを別の世界まで飛ばしてしまおうと強化したんだよ。で、片方の【メタクリスタル】だけで無理やり魔王の側近たちに使ったらこの世界に飛ばされたわけ」
「ちょっとまって。さっきから気になったんだけど、ひょっとしてその魔王の部下たちって私たちの世界にいるの? 飛ばされたって、ファルが飛ばしたの? それに助かった部分ってことはそうじゃなかった部分もあるのね?」
早くも頭の中で整理が追いついたのか、紗奈が矢継ぎ早に質問し始めた。
「そうだね……さっき襲ってきたのは側近らの配下だね。あとこちらへ飛ばした先がこの世界なのは偶然なんだ。さっきも言った様に本来【メタクリスタル】同士が起点となって移動するからそれを無視して異界へ飛ばすとなると完全に運任せになってしまうんだ…………だから偶然にしろすまないと思う」
神妙な顔つきでファルが謝罪する。恐らくファリシアルや向こうの世界の人も切羽詰ってやったことなんだろうと宗太は思案したがよりによって自分らの世界とつながったとは夢にも思っていなかっただろう。
「別にいいわ、謝罪は受け入れるよ。で、そうじゃない部分は?」
そう思っていた矢先に隣から先ほどのファリシアルと同じくらいあっさりと謝罪を受け入れた紗奈がそこにいた。宗太も被害を受けた紗奈が良ければいいと思っていたが、考える隙もなく受け入れたのは、聞きたいことが多すぎて余計なことはどうでも良くなっているのかもしれないと感じた。
「ありがとう紗奈。うん、その事なんだけどね、ここへ来るときに私はパートナーと一緒に来たはずなんだけど、どうもはぐれたみたいなんだよね。もう一つは……私を森で見つけた時に近くに青い水晶みたいなの落ちていなかった? それが【メタクリスタル】なんだよね」
宗太はもう一度当時の状況を思い返すがどうにも背中越しに感じたファリシアルの感触しか思い出せなかった……
考えが顔に出ていたのか紗奈がジト目で宗太を睨む…………のをそっと顔を逸らしもう一度考えるが回収したのはダガーとカバンだけだったはずだと思い至る。だがあの時は暗かったから見逃していただけかもしれない。そのことを伝えるとファリシアルは難しい顔して唸った。
「あぁ、ごめんね、宗太を責めているわけじゃないんだよ。むしろあれは一長一短でね、無いなら無いでスッキリするよ。あれはね転移させる能力の他に互いの位置を教えあう能力も備えているのさ、だからあのまま宗太に運ばれてなければ今頃捕まっていたかも」
「こわ!!」
「うわぁ……」
さらっと怖いこと言うファリシアルに二人して身震いしていると思わず言った宗太の言葉に紗奈も同意する。倒しにやってきた瞬間に捕まるとか「出落ちも良いところじゃない」と紗奈は喉まで出かかっていた。
「それでさっきの敵は飛ばされた時の膨大な魔力を感知してきたんだと思う。で、そこから私の僅かな魔力を追って来たんだと思うよ。いくら【メタクリスタル】が引き合う能力があったとしても、飛ばされた時なら残滓があったかもだけど、異界まで転移させるほどの魔力を消費したあとだから今は発見は難しいかもね」
宗太達がここに敵がきた矛盾を聞く前にファリシアルが察して説明をした。
だがしかし、この場所を知られたからには次は仲間と本気でくるのではないかと逡巡した。宗太達の住んでいるところは住宅街だ。先ほどの襲撃時のセリフや行動を思い出すと結構容赦なく暴れるかも知れない。そうなるとこの辺りは一面瓦礫の山となるだろう。
「任せなさいって。私もまだ体制が整ってないし、調べたいこともあるしね。だからさっきの敵にお土産のスクロールを持たせておいたよ。今頃効いてるんじゃないかな、だから当分の間は見つからないよ」
ファリシアルはいたずらっ子のような笑みで二人を見てくる。
ひとまずの危機は去ったと安堵しているが、直接の襲撃を受けた紗奈とは違い宗太は今更ながら浮き足立っていたと思い至り自身の心にずっしりと重く感じていた。
しかし宗太自身が厨二病気味だからか勢いで助けたことも後悔はしておらず、寧ろワクワクしていたのも事実だ。これから何か凄いことが起こるかもしれないと。そのせいで紗奈を危険に巻き込んでしまったことも事実。でもファリシアルを助けたことで紗奈も助かった。
目の前で食後の紅茶を煎れてもらっておいしいと満足げな感想を言い、紗奈と談笑して脱線しているファリシアルを見ていると、当事者なのにあきれるほど暢気だなと思ってしまう。宗太が考えすぎなのか、彼女が暢気なのか。
そんな彼女を見て宗太はあれこれ考えている自分がバカらしくなってきて二人の会話に混ざることにした。
「お兄ちゃん、ファルは今日から私たちの家で居候になったから。そして、変な気を起こしたら死ぬと思って頂戴」
「わかりました!」
ファリシアルを保護して事情を聞いた時点で居候的になる事はある程度予想はしていたが、後半のドスの効いた声で脅す紗奈に思わず額に冷や汗を流しながら返事をした宗太を見て一瞬キョトンとしたが、これからよろしくと無邪気な笑みを返した。
紗奈がいる限り宗太の理性は保たれるだろう。
多分…………
宗太たちの家の襲撃から一時間ほどあとの日本の南西数百キロの地点を高速で移動する白い影。金髪の天使は喜びを前面に追い出しながら飛んでいた。
襲撃には失敗したものの、ほんの挨拶代わり程度にしか思ってなく、あっさり引いたのもそのためだ。
この世界に飛ばされて百年。その際、この世界の魔法使いたちと殺りあった傷も癒えようやく世界に散った仲間との合流も果たせた。とは言え、それでも合流できたのは他の天使二人だけでまだ他の仲間達の所在がつかめていない。ひょっとしたら散って逃げたはいいがその後の追撃で死んだのかもしれないし、未だにどこかで潜伏しているのかもしれない。だが、あの場に残った大剣を持った黒い影だけは間違いなく死んだだろう。それと司令塔の黒い影も捕まった。それだけは確信している。
そんな物思いに更けながら飛んでいると前方に二人の天使が見えた来た。同じ顔や髪の色で唯一の違いは髪型だけであろうか。飛んできた天使がボブカットに対して残りの二人はセミロングとツインテールだ。
「お疲れさん。【メタクリスタル】の反応だった? 他になにか収穫は?」
「その顔からして悪くなさそうな内容よね。早く報告して頂戴」
無邪気に聞くツインテールに対して淡々と促すセミロング。どちらにしろ報告には期待しているらしく、早く教えろと催促する。
そんな二人にドヤ顔をしつつ、満を持してあったことをありのままに報告する。その内容に2人の天使は予想以上の驚きとジェスチャーで答えてくれた。
「やったよ。お手柄だよ!」とボブカットの天使の周りを上機嫌に飛ぶツインテール。ここが日本から1000キロ以上離れた南西諸島近海の海上ではなく神を崇拝する群衆の前であったら無邪気の中にある神々しさも見て取れて跪いて手を組んでいたであろう。
そんなくるくる回るツインテールがボブカットの背中に目を向け「これ何かな?」と手を伸ばす。残りの二人が今後の方針を検討している間に背中に何やら付いていたのを知らなかったボブカットが目を向ける。「スクロールだね。なんのスクロールかな?」などと広げようとするツインテールに対して慌てて止めようとする二人。私たちにそんなことをできる人物は一人しかいないし、そんな人物から贈られたスクロールに良い意味があるなんて到底思えない二人。
当然というべきか、一歩遅かった。広げられたスクロールが突如強烈な黄色い光を発した。何人の誰ともわからない声で「これ、忘却の……」と言ったが、発光が止んだあと三人はお互いの顔を見合わせたあと……
「私ら何してたんだっけ?」
「残りの私とかの捜索でしょ?」
「そうね。慌てず行きましょうか」
などとさきほどの感動はどこへやらと淡々と話す三人。とりあえずと一同は同じ方向へ飛び去っていく。そして飛び去ったあとの海上には白紙になったスクロール用紙だけが寂しく浮かんでいた。