宗太と紗奈と天使の出会い方2
お久しぶりです。
前回同様そこまで長くないですが、キリのいいところと前回遅刻した分も含め、若干早めに投稿したいと思います。
2019年12月7日三人称視点に改稿しました。
「******」
紗奈の首を掴む天使の腕に力がこもる瞬間、ベッドの方から声が聞こえた。声の方に振り向いて確認しようとした時、銀色の影が一瞬にして天使に迫り、手に持っていたダガーで天使に切りつける。
「グッ」っという声と共に紗奈を掴んでいた手が外れ天使が二、三歩歩下がると、その前にかばうように少女が立ちふさがる。宗太は崩れ落ち咳き込む紗奈の傍へ駆け寄って抱きとめるが、目の前の状況に追いつけずにいた。わかったことといえば紗奈が助かり、最悪の状況だけは脱したはずだということだ。
「****、************」
「**********、********」
天使と銀髪の少女は宗太達にはわからない言葉で会話をしていたが、天使が斬られた腕を抑えながら何かつぶやくと、淡い光が傷口に広がって瞬く間に塞がっていった。そしてさらに二言三言交わしたかと思うと天使は破った窓から出てあっという間に何処かへ飛んで行ってしまった。少女は天使が飛んでいく方角を目線だけで見送ると、「ふぅ」と一息ついて背中まである長い髪を翻しながらこちらに振り向いた。
銀色の長い髪に、切れ長の瞼の中に赤い澄んだ双眸。幼さの残る顔立ちの中に大人びた表情でこちらへ歩み寄る。仕草や立ち振る舞いに妙な艶を感じ宗太はしばらく見惚れて彼女の言葉が耳に入ってこなかった。
いや、元々どこかの外国の言葉だろうか、さっきの天使と似たような言語で話しかけてくるのだろうが内容が全く通じない。宗太たちを気にかけてくれていることだけは仕草や表情で伝わった。
少女は顎に指をかけ少し考え込んだあとおもむろに部屋を見渡すと、ベッドの脇に置いてあった自分のカバンの中に手を入れると巻いた紙を取り出した。立ったまま紙に魔力を込めると、青い光の粒子を放ちながら少女を包み込む。
「…………スクロール?」
思わずつぶやいた宗太の言葉に少女が反応し、まるで言葉が通じたかのように自身ありげな顔をして静かに頷いた。やがて光の粒子が少女を包み込み終えると、役目を終えるかのように静かに収束していく。スクロールの反応が終えるのを確認した少女が再びこちらへ向き、今度は紗奈を支えて座っている僕らと同じ目線まで腰を落とし話しかけてきた。
「さて、今度は私の言葉がわかるかな?」
唐突に言葉が通じ戸惑いつつも首肯する宗太たちに満足する少女は更にカバンから二つのスクロールのうちの一つを紗奈に渡し、「それに魔力を込めてくれるかな?」と告げ、もう一つのスクロールを自身で魔力を込めながら窓に充てがう。
いきなり渡されたスクロールに戸惑いつつ、少女とスクロールを交互に見るも意を決し紗奈がゆっくり魔力を込めた。すると、先ほどの少女の時と同じように緑の光の粒子を放ちながら体を包み込む。紗奈はその光に安堵を感じたのか、落ち着いて受け入れながら体の変化を感じ自身の首を触りながら呟く。
「喉の痛みが消えた……回復のスクロール?」
「うん、そうだね。ちゃんと効果があって良かった。そしてこっちは壊れたものを元に戻すための再生のスクロールだよ」
紗奈への回復効果を確認できて安心したのか、少し陽気に話す少女。窓に充てがわれたスクロールは青い光の粒子を放ちながら割れたガラスが逆再生のように元の箇所に収まり、まるで初めから割れてなかったかのように綺麗な状態に戻ってしまった。
「さて一つお願いがあるのだけど、聞いてもらってもいいかな?」
元に戻った窓ガラスに満足したのか、振り返りながら聞いてくる。宗太たちとしても色々聞きたいことはあるのだけど、ここまでの怒涛の展開と状況に脳の処理がついて行くのがやっとで、何かを言い出す前に出鼻をくじかれてしまった。
「少々お腹が空いてしまってね、もしよければ何か食べるものを分けてもらえたら嬉しいかな。私のことや、先ほどのことも含めて説明もしたいし。それに、二人とも聞きたいって顔しているしね……」
どうやら顔に出ていたらしい。少女は茶目っ気たっぷりにウィンクまでして見せた。宗太は若干あざとさを感じたものの、敵意の無さと友好を示すためだと思えば第一印象は悪くないと思った。
「あははは、全然構わないわ。助けてもらったし、私も少しお腹すいちゃったしね、簡単なお夜食にでもしようか。お兄ちゃんも食べるよね?」
紗奈は少女の人あたりに安心したのか、笑いながら答える。確かに宗太も少しお腹が空いてきていて、色々聞くにももう少しリラックス出来る場所で話せる方がいいだろうと思った。なら、一階のリビングで食べながらでも話しを聞こうと提案をする。
そうなればと紗奈に夜食の準備をお願いして、少女を一階に案内しようと改めて少女を見上げる。部屋の電気はついておらず、月明かりを背にしながらご飯にありつけるのが嬉しいのか、こちらを満足そうに見下ろす少女。そのシルエットは…………
(今更だけど紗奈のだろうか……随分大きめのTシャツ一枚で……透けた輪郭に何も映されていない…………よな……)
「紗奈……あ~~~、ご飯はまだ残っていたよな? 夜食はレトルトカレーで俺が準備する代わりに1つお願いがあるのだけど…………」
「ん? どうしたのよお兄ちゃん、歯切れが悪いわね。言いたいことあるならさっさとお願いしてよね」
準備をお願いしようとした紗奈を呼び止める。僕の歯切れの悪さに訝しがりながらも足を止めて聞いてくれる。これ以上待たせると本気で怒りかねないから僕も意を決して言うことにする。
「いや、あのな……あの子の格好なんだけど、さすがにあの格好で下に行くのはちょっとというか、目のやり場に困るというか何というかその……」
宗太が目を泳がせながらたどたどしく答える最中に紗奈が言わんとしていることに察したようで、言い終わる頃にはまるで自分のことのように顔を真っ赤にしながら引き返してきて「夜食はお兄ちゃんに任せた」と言いながら宗太を部屋から追い出した。
そして扉を閉める際に一言。
「ドスケベ! 変態!!!!」
などと半目にしながら言ってくる。
「今回も僕のせいじゃないよね? 不可抗力だよね!?」
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