宗太と紗奈と天使の出会い方
2019年11月24日三人称視点に書き換えました。
「どこも怪我はなさそうだったし、普通に眠っているだけね」
「そうか、ありがとう紗奈」
保護した少女を預け、買い物を纏めたあと宗太は先にお風呂に入った。本来は保護した少女を温めるために沸かしたお風呂だが、少し揺すっても起きなかったので、紗奈が念入りに拭いて着替えさせるだけに留めた。さすがに男の宗太が手伝いをできるわけでもないので、先に入らせてもらうと言う形になった。
「肌がきれいね~…………うわ! なにこれ……デカ! マジで~……てかノーブラ!?」
などと、紗奈がとても気を失っていると言うか、眠っている少女の前で出してはいけない声量で、あられもない情報を暴露していた。宗太がいる浴室まで聞こえるということは、よほど衝撃だったのか……。
思わず想像しそうになった頭から煩悩を追い出すように横に振り、先程まであったことを整理しながらお風呂から出てリビングに戻る。少女を自分の部屋で寝かせたらしく、少女の来ていた服を持っておりてきた妹にお礼を言いつつ事の顛末を説明した。
「………………ヘンタイ……」
少女を保護してここまでの説明を聞いた紗奈の感想だ。普通におんぶして帰ってきただけなのになぜ変態扱いなのか、宗太は非常に納得できないでいた。
「今の説明に変態の要素がどこにあった?」
「だって普通連れて帰ってこないでしょ? 警察とか救急車とかあったじゃない。そこのところはどうなの?」
「…………はい正論です……」
「どうせ連れ帰っていやらしいこと考えてたんでしょ?」
「いや待って! 誤解だから! それにもしそうだとしたら、堂々と玄関から入らないし、電話もしないって。ん~……直感だけど、あの子にはきっと何か事情があるんだと思う。じゃなきゃあんなところで倒れてないって」
またもや疑いと軽蔑の眼差しで宗太を見る。
一度は信じる素振りを見せたが、再び向けられた疑惑の眼差しに理不尽さも感じるも、宗太は必死に弁明をした。
紗奈も溜息を吐きつつ、自分の感じた疑問を再び語った。
「はぁ~~~……で? あの子起きてそれからどうするのよ?まぁ確かに事情は何かありそうよね。ナイフなんて物騒な物持ってるし、持ち物といえばカバンだけでしょ。それに……あの子の身体……」
「やっぱりデカかったのか?」
「そうじゃないわよ、このスケベ! そういうことじゃなくて、あの子の首から下、こう……身体中によくわからない文字がびっしりと書かれていたわね」
紗奈が自分の両手の人差し指で鎖骨のあたりから太もものあたりまで身体のラインをなぞりながら話す。
(うん、プロポーションは悪くないんだよな、少々控えめな部分を除いては)
などと余計な事を考えるから紗奈に罵倒されることを、宗太は学ぼうとしない。
「そっか、ならとりあえずはあの子が起きてからだな」
あまり変な目で見ると次は殺されかねないので、とりあえずはこの話しを終わらせることにした。
そう、必殺の問題の先送りである。件の子が起きてこない以上宗太達にやることはないので、やっとというか、当初の予定通りラノベを読みつつ、ネトゲな週末を過ごそうと自分の部屋に戻って行った。
どれだけ時間が過ぎたのだろうか、夜も夜半を大きく回っていたのだろうか。ネトゲをやり始めた宗太は、夢中になり過ぎて随分と時間が経ってしまったことに気づいた。廃人という人種になると、社会的地位や名誉、世間体さらに財産でさえ捨て去ってまでのめり込む人たちがいるが、宗太はまだそこまでの域には達していない。
と言うか達してはいけないだろう。精々自分が若干中二病を患っているかな、と言う程度のライトゲーマーだということを自覚している。
とりあえず、自分語りしながら付けていたヘッドフォンを外し、一階のトイレへ降りる。強者ともなるとボトラーなる使い手も現れるらしいのだが、先ほども言ったとおり宗太はただのライトゲーマーで、そのあたりの節度は弁えているつもりである。
宗太が自分の部屋へ持ち込むジュースを吟味していると、二階から大きな物音がする。ガシャン! と物が割れた音だ。初めは紗奈がグラスでも落としたのかと思っていたのだけど様子がおかしい。何か話している感じからしてあの子が起きたのかと思っていたら……。
「お兄ちゃん!」
普段の紗奈は、一般家庭にいるGに対しても、丸めた新聞紙やスリッパで平気で応戦し、タンスの隙間に入り込んでも掃除機で追撃をかけるほどの猛者っぷりを発揮するのだが、尋常ではない叫び声に一瞬にして緊張が走り、急いで部屋へ向かう。いつもならドアをノックして廊下から話すのだが、そうも言ってられない気がしたのでそのまま飛び込んだ。
月明かりを背にして金髪の《天使》がそこにいた。普通に見ればそれは幻想的な情景なんだろうが、全くそう思わないのは紗奈の状況だ。身長が紗奈と似たような天使の羽根を持った女の子が、軽々と紗奈の首を掴んで持ち上げているのだ。
このわけのわからない状況でパニックにならないだけでも、宗太は自分自身に賞賛を与えてもいいだろう。数時間前に死体と見間違えて動転してた時とは雲泥の差だ。
と言うのも、これだけの物音と声の中、紗奈のベッドで上で寝続けている少女が原因なんだろうと、きっとハズレではない予想を宗太は立てている。
「あれ、もう一人いたんだ。まぁいいよ、すぐに全員死んで貰うからさ」
(今なんだって……。死んで貰う? 殺すってことか?)
宗太は必死に頭を回転させている。
(人一人を軽々持ち上げるほどの力を持った相手をどうにかできるのか? どうやって? でも紗奈を見捨てるわけにはいかない……)
震える足に力を込めて踏ん張りつつ右手を突き出す。右手首に左手を添えながら狙いを定めつつ少しずつ魔力を込めながら時間を稼ぐ。宗太はただの魔法弾を撃つだけでも慎重な貯めがなぜか必要なほど魔法が不器用だ。
「そ、そいつは僕の唯一の家族だ……あんたが誰かなんて聞かない。できればこのまま帰ってくれないか?」
「……無理だね。本命はそこの寝ている子でね。君らは見られてるし、やっぱり死んで貰うよ」
やはりと言うか、目的は横の寝ている少女だった。さらうのか、殺すのかわからないが、さっき全員とか言ってたならやっぱり殺す方か。宗太は見逃していたが、その時既に少女のまぶたは少し動いていた。
「助けて……」
紗奈が苦し気に呟く……それを見て一層宗太に緊張が走る。
「その次いでとか言う割に派手にうちの窓を割って入ってくるじゃないか、ちゃんと弁償してくれるんだよな?」
「大丈夫だよ、だってもうすぐ全滅しちゃうんだから。おしゃべりはこれでおしまいにしようか」
「お兄ちゃんを助けて!」
「俺かよ……」
せっかくの緊張が台無しだと感じた宗太だった……