第5話
第5話
俺は女性を抱き抱えながら村に向かって歩いていた。
「しかし、あのゴブリン・リーダー少し強い気がしたんだが?」
ゴブリン達はまるで相手にならなかった。だがリーダーは別だった。
俺に少し本気を出させるとは、魔王の幹部と同等なレベルだ。
魔王は俺の本気の半分の力で勝てた。今まで出会った魔族の中では一番強かった。
「お! アレは冒険者様だ!」
村の目の前に差し掛かった時に、村の前で此方の様子を見ている村人が叫んでいた。
「おい、着いたぞ」
抱き抱えている女性の頬を突く。
「ふはぁぁぁぁ。あれ? ここは?」
大きくあくびをついた後に俺の腕の中で辺りを見渡して驚いていた。
「冒険者様!」
村から必死に村長のシュールドが走ってくるのが見えた。
「えっ! お父さん!?」
娘は驚いた表情をして村長の方を見つめていた。
「シィーナなのか?」
シュールドは震えて涙を流しながら、ゆっくりと娘に近づいていた。
「そうだよお父さん!」
「シィーナ! 無事なのか!」
娘の声を聞いた瞬間に村長は一目散に娘に向かって走っていた。
「ゴブリン達は皆殺しにした」
そう言って抱き抱えている娘を地面に降ろす。
「お父さん!」
「シィーナ! シィーナ!」
娘は地面に静かに足をつけて、ゆっくりと父親に向かって足を運ぶ。
シュールドはそんな娘を暖かくギュッと抱きしめ。娘の名前を呼びながら泣き叫んでいた。
俺はその光景を暖かく見守っていた。
流石は人間だ。魔族の間ではこんな事は大抵ない。生まれた時からその者人生は自分だけでどうにかしないといけない。
暗黒騎士の俺にも親はいたらしい。
生まれた時には既に暗黒騎士として戦いの特訓。殺しの技術を身につけていた。
直ぐに戦いに出たので親の名前も顔すら知らない。
魔王が死ぬ側に息子よとか言っていたが意味がわからなかった。
「冒険者様。いや、ナイト様」
娘を腕に抱きしめながらシュールドは笑顔で語りかけてくる。
「様なんて、そんな大層な事はしていない」
「いえ、貴方はゴブリンを殺しただけではなく、娘のシィーナを助けてくれた。そんな貴方には村の全員から感謝する気持ちです」
そのまま姿勢を低くして頭を地べたに下げていた。
シュールドが頭を下げるのと同時に村から様子を伺っていた村人が全員が深く頭を下げていた。
「それより、これでクエストは完了だな?」
「はい!」
大きく返事をして。涙を流してシュールドは娘の頭を撫でながらクエストの紙にサインを書いていた。
「では、俺はこれで……」
手を挙げながら帰ろうとすると、シュールドが手を引いて止めてきた。
「待ってください! 今から貴方に恩返しと言ってはなんですが、祝わせていただきたい!」
「私からも是非お願いします!」
シュールドと娘のシィーナがそう言って深く頭を下げてくる。
「いや、そんな資格は」
「何言ってるんですか! 貴方はシィーナを救った。言わばこの村の英雄みたいな者ですよ!」
興奮気味にシュールドは俺目掛けて叫んでくる。
「英雄だなんて………」
俺は気まずそうに腕を組んで唸る。
「そうです。私も貴方には感謝をしたいんです」
娘は金髪の髪を靡かせ俺の鎧に抱きついてくる。
「いや、でもな」
「ダメです! 祝いますよ!」
そう言って無理やり俺の腕を掴んで村に連れて行く。
その光景を見てシュールドは微笑みながら静かに見守っていた。
娘に手を引かれながら村に入ると村人が歓声を上げながら叫んでいた。
「あんたは最高だ!」
「黒き鎧に身を包む冒険者様!」
「まるで暗黒騎士の様なお姿の英雄!」
村人は手を挙げながらそう叫ぶ。
「お前達、今日は祝いの祭りだ!」
「「「「ウオォォォォオオ」」」」
後から来た村長が村人達にそう言うと、村人は両手を上に挙げて叫んだ。
すぐさま俺は村長の家に招きられた。
「さぁ、どうぞ」
「失礼する」
静かに扉を開ける。
「お父さん! ちょと私着替えて来ます」
娘は少し頬を赤く染めて二階の階段を駆け上がっていた。
「ふふふ、シィーナの奴め貴方に惚れ込んでいるな」
「俺にですか?」
それを聞くと何度もシュールドは頷いていた。
「それと貴方には1つ相談したい事がある」
「なんですか?」
「迷惑と思うが、この村がまた魔物に襲われた時には貴方にクエストを優先したい」
静かに手を組むながら真面目な顔で聞いてくる。
「俺でよければ」
迷いも一切なく言い切った。
この村が危ないなら助ける以外に選択肢はないだろ。
「えっ? いいんですか!?」
シュールドは驚いた表情でその場に固まっていた。
「あぁ」
「やはり貴方はこの村の英雄だ」
そう言ってシュールドの頬を涙が伝っていた。
俺は静かにシュールドの肩に手を置いた。
「ありがとうございます! 本当にありがとう」
何度も何度もテーブルに頭を付けて感謝の言葉を述べていた。
「村長! 準備できました!」
いきなり家の扉が開くと村人が大きな声で叫んでいた。
「では、行きますよナイト様」
「ナイトだけでいい」
そう言って村長と外に出た。
村長の家から外に出ると先程の村の雰囲気は変わっていた。村人の全員が歓声を上げながら楽しそうに語り合っている。
完璧にお祭りムードになってたいた。
「さぁ、ナイト様も楽しんでください!」
それからは村人達がワイワイ騒ぎ。
賑やかな声が村から響き渡っていた。
俺も村人達と会話をしながらその様子を静かに見守る。
男女関係なく楽しそうにしている。
暗闇の中で村だけが音を放っていた。
「綺麗だな」
俺は近くにある芝に腰をおろして星を眺めていた。無数の星が空いっぱいに輝きを放っている。手を伸ばせば届きそうな感じがした。
「あ! ここに居たんですか!」
声がする方を向くと。金色の髪を暗闇の中で輝かせながら村長の娘が近づいて来た。可愛らしい服を着て金色に輝く髪と合っていた。
「少し星を眺めていた」
空を向きながら答える。
「星ですか?」
「あぁ、綺麗だな星は」
「ふふ、そうですね」
女性は手を口に当てながら可愛らしく微笑んでいた。
「それより、俺になんか用か?」
「少しお礼を言いに」
そう言いながら隣に座っていた娘が俺の鎧に身体を寄せてきた。
白く透き通る肌が鎧に当たり、娘の体温がはっきりと伝わってくる。
「命を助けてくれて本当にありがとうございます」
頬を真っ赤に染めながらそう言ってきた。
「いや、感謝をされる事は何もしていない」
「普通に私の気持ちを受け取ってください」
「無理だ」
きっぱりと彼女の顔を見て言った
だいたい暗黒騎士の俺に感謝を受け取る事など到底できない。
いや、今の俺は冒険者か。
「す、少しぐらい躊躇して言っても良いじゃないですか!」
頬を赤くして涙を流しそうな顔で訴えかけてくる。
「なぜお前に?」
「な、なぜってそれは………」
彼女は俺の胸の中で下を向きながらモジモジして何か言いにくそうな表情を浮かべていた。
「そ、それより! 私の名前はお前ではありません!」
急に立ち上がり、俺の顔の前に指を向けてくる。
立ち上がった瞬間に身につけていた服が風で緩やかに揺れていた。
「あぁ、すまない。シィーナだったか?」
「そうですよ! 覚えといてください!」
そう言いながら、又しても俺の鎧に身を預けてきた。髪がサラリと揺れ、少し花の香りが漂ってくる。俺はゆっくりとシィーナの頭を撫でて星を眺めた。
少し経つとシィーナは俺の胸の中でスヤスヤと眠っていた。
「眠っているのか?」
少し赤くなっている頬を突く。
プニプニとした感触がした後にシィーナが唸りを上げて膝の上で寝返りを打っていた。
「………………ナイ…ト」
「フッ……」
シィーナは幸せそうな顔をして寝言を言っていた。
それを聞いて、俺の頬が少し緩む。
「運ばないとな」
眠っているシィーナを抱き抱えながら起き上がり村長の家まで運んで行った。
ゆっくりとシィーナを抱えながら扉を開ける。
「シィーナ!?」
家の中にいたシュールドが驚いた表情で固まっていた。
シュールドは驚きながらゆっくりと近づいてきてシィーナの寝顔を見て笑っていた。
「はっははは。シィーナめ、余程緊張して眠ってしまったのか」
シィーナの頭を優しく撫でていた。
「では、ベットに運んでから俺は帰ります」
「ん? もう帰るのですか? 朝までここに居ても良いですよ?」
「これ以上は迷惑になりますから」
そう言ってシュールドからシィーナの部屋の場所を聞いた。
部屋はこの二階の1番右端にある部屋だそうだ。
俺はシィーナを抱えて部屋に向かう。
階段を登り部屋に着くと可愛らしくシィーナの部屋と扉に立て札が掛けてあった。
静かにその扉を開き中に入った。
部屋の中は女性らしい花柄の物が沢山置いてある。本棚も有りそこには難しそうな本が綺麗に並べてあった。
「よし、帰るか」
俺はゆっくりとシィーナをベットに寝かせて上から布団をかけて静かに部屋の外に出て扉を閉めた。
「では、イニティウムに帰ります」
階段を降りた所にシュールドが待っていた。
「お気をつけてください! それとこれを」
シュールドは頭を下げてお礼を言った後に1枚の紙を渡して来た。
「これは?」
「先程言っていた件ですよ。この村のクエストを貴方が優先的に受注する事ができる契約書です」
紙をよく見ると、契約冒険者の名前に俺の名前が書いてあり。その下に証明として俺のサインを書く場所とシュールドのサインを書く場所があった。
「それをギルドに渡せば契約は完了になります」
「あぁ、分かった」
俺はその紙を受け取り、静かに家との扉を開けた。
「また来てくださいね!」
シュールドが寄って来て俺の手を強く握っていた。
「また来るよ」
そう言って家から出て村を後にした。
俺はイニティウムに向かって歩き始める。歩くにつれて、どんどん村が小さくなっていく。空を見上げると日が出始めていた。
赤い光が俺を祝福してる様に思えた。
町の付近に辿り着くと懐かしい鳥の囀りが聞こえて来る。辺りを見ると小さい切り株があった。どうやら最初に俺が通った道に出たらしい。
「懐かしいな」
口からその言葉が漏れる。
あれから日にちはそこまで経ってはいない筈なのに昔の事だったと感じる。
「誰だ!」
俺が気を抜いた主観に背後から殺気を感じた。
慌てて背後を向くが、そこには誰もいなく生い茂っている草木があるだけだった。
「何だったんだ今のは?」
俺は不思議そうに手を見ると、何故か分からないが不自然にカタカタと震えていた。
あの殺気、何処か普通ではない感じがする。魔族よりもっと邪悪な殺気だ。
俺は不思議に思いながらイニティウムに向かって行った。薄暗い林を抜けて小さな小川を渡って町に着いた。
白銀の鎧を着ている門番にお辞儀をする。門番はお辞儀を返してきたので、そのまま町の門を通りギルドに向かって歩いて行く。
「あら、冒険者さん?」
ギルドに向かう時に通る噴水の近くに立っていた女性に声を掛けられた。
「あぁ、冒険者だが?」
「貴方に聞きたいけど、このギルドにナイトって言う冒険者が居るらしんだけど、知ってる?」
首を横に倒し聞いてくる。
「ナイトは俺だ」
「ふ〜ん、貴方がね」
興味深そうに俺の身体のあちこちを見つめてきた。黒い長髪がよく似合っている。
「まぁいいわ。また近くに出会うでしょう……………」
そう言って女性は俺と反対側に向かって歩いて去っていった。
俺は気を取り直してギルドにたどりついく。重い扉を開き、ギルドの中に入って行った。
毎度お世話になります。
読んでくださりありがとうございました!