第3話
第3話
「朝ですよ冒険者様!」
ゴンゴンとノックがなり、目が覚めた。
「もう朝か?」
部屋の窓を開けると賑やかな町の声が聞こえていた。
俺は剣を腰に付けて兜を持ちながら、宿屋の下の階に行った。
「あ! おはようございます」
階段を降りると、店主の女性が何かを準備してる真っ最中だった。
「おはようございます。顔を洗いたいのですが、水場はどこでしょう?」
「それなら、右の扉の向こうに行って店を出た所にありますよ」
ガシャと物音がなり、手だけが扉の方向を指差していた。
教えてもらった場所に行くと、井戸がありそこで水を汲むらしい。
「やっぱり顔を洗うのは気持ちいな」
兜を横に置き、井戸の水を汲み顔を洗った。冷たい水が頬を伝って気持ちがいい。
俺は手の平で水を拭き取り、兜を被り直して宿屋に戻っていた。
「冒険者様。食事はどうしますか?」
女性は手に料理を持ちながら聞いて来た。
「すまないが。お金はいくらかかるんだ?」
「朝食は1つしかメニューが無いですが。お金は250バリスになります」
まだ500バリスが余っているはずだから、朝食を取って行くか。
「なら、食事を頼む」
「分かりました! では、左側の扉の先にあるテーブルにどうぞ」
左側にあった扉を開くと。そこには、あんまり人はいなく。見るからに駆け出しの冒険者しかいない。
俺は、空いているテーブルに座り、料理が来るまで待っていた。
「出来ましたよ〜」
女性が手に料理を持ちながらやって来た。
キョロキョロした後に、俺の方を向くと目を輝かせてこちらのテーブルに料理を並べていた。
「では、ごゆっくり」
「あぁ、ありがとう」
料理を見るとそれはシンプルな料理だった。野菜のスープに、豆と何かの肉の炒め物。それに黒パンだ。
兜を外して。側に置かれた鉄のスプーンでスープを啜る。ほのかに口の中に野菜の甘みが広がって美味しい。
無心になって料理に齧り付く。
「美味い!」
地上に出てからの料理には目を疑わせられる。
この世にこんなに美味い料理があるとは知らなかった。
ヘルヘイムの料理とまるで違う。話にならないくらいに違う。
「美味しかったな」
あっという間に料理は無くなり。兜を被り直す。
「すいません! 終わりました」
俺は扉に向かって叫ぶと。急いで女性がやって来た。
「終わりましたか。では、250バリスになります」
「なら、300バリスで」
余っているお金で300バリスを払うとお釣りで50バリスが帰って来た。
それをお金が入っている袋に入れる。
「ギルドに向かうか」
そう言うと、女性はこちらを見ながらペコリと頭を下げながら、
「ありがとうございました! また、よろしくお願いします!」
「ありがとう」
俺は立ち上がり。女性にお礼を言って宿屋を後にした。
宿屋から出ると。町はやはり賑わっていた。あちこちから聞こえる声が響いている。
昨日歩いた道を通り、5分でギルドの前に着いた。
ギルドの扉を静かに開けると、昨日話していた受付の女性と目があった。
「あ! 昨日の冒険者さん!」
少し頬を染めて受付がこちらに向かって来た。
「どうも」
手を上げながら挨拶をすると、少し微笑んで昨日のカウンターに勧められた。
「クエストの件ですよね」
「はい」
俺が頷くと、1つの紙を見せてきた。
その紙にはクエストの注意事項と書いてあった。
その1、クエストを受けるには証のランクが必要。ランクは銅、銀、金、白金の順番である。高いランクの人は高難易度のクエストに挑むことが出来る。
その2、ステータスは関係なく。クエストの貢献度やクエスト主からの信頼度が上がると、ランクも上がる。
「分かりましたか?」
紙を眺めてる俺の目を兜の間から受付は覗き込んで来た。
「あぁ」
「それでは、今受けられるクエストはコレです」
沢山の文字が書いてある紙を見せてくる。そこにはゴブリンの討伐や薬草集めが書いてあった。
唸って考えていると、上機嫌に受付が話しかけてくる
「それと、パーティーも組んでくださいよ? 冒険者なんですから」
「パーティーですか………」
「今、駆け出しの冒険者ですごい人がいるんですよ! 最初から魔力や筋力が中級者並みの新人が」
「あぁ」
興味無さそうにしていると。受付は不機嫌そうに頬を膨らませている。
「もう直ぐで帰ってくると思います。その人にでも頼んでみますから、必ず組んでくださいよ、パーティーを!」
兜の横で叫ぶので、耳の中で受付の声が響いて少しうるさい。
「あの、この中で一番お金が高いクエストはなんですか?」
受付はそれを聞くとはぁとため息をついてクエスト一覧を見ていた。
「コレですよ一番高いの」
指を指していたクエストはゴブリン・リーダーの討伐だった。
「ゴブリンですか………」
「そうですよ! 駆け出しの冒険者にとってはゴブリンですら危険があるのに。その倍の強さのリーダーですからね!」
少し怒り気味にそう言ってくるのを無視してクエストを受注しようとする。
「ちょ、聞いてるんですか!?」
「あ、すいません」
俺は既にゴブリンのクエストに自分の名前のナイトのサインを書いていた。
「はぁ、一度契約したクエストは破棄するのにお金がかかるんですよ?」
「いえ、破棄はしませんよ?」
「えっ?」
拍子抜けだ表情をして、口を開きながらポカンと受付はしていた。
「このクエストは破棄しませんよ?」
首を傾げながら俺はもう一度言った。
「はぁぁぁぁぁ!? え、1人なのに破棄しないの?」
受付は場違いの声でがギルドに響く。ギルドにいる他の冒険者たちが俺の方向を注目していた。
少し恥ずかしがりながら受付はこほんと咳をして俺を見た後に話しかけてくる。
「本当に1人で?」
「はい」
俺は素直に頷く。
「分かりました。…………もう契約したクエストを強制で破棄することは禁じられてますから。私にはこれしかできません。生きて帰って来てくださいよ?」
今までに見たこともない真剣な顔で俺を睨んでいた。
「死にはしませんよ」
軽く手を振って俺はギルドの外に出た。
「クエストか」
先程サインをした後に貰った紙を見ると。紙には依頼主の名前と居場所が書いてあった。
名前はシュールドと言う農民。
シュールドのいる場所まではこの町から数十キロ離れた所にある小さな村らしい。
走れば3分ぐらいで着くが、周りに物や人がいるので流石に危ない。
町の場所までは歩いて行くことに決めた。馬車を頼むと言う考えもあったが、お金が無いのでそれは無理になった。
「ふう」
日差しが鎧の中を蒸し暑くする。
兜の中を汗が流れ落ちる。
町から歩いて数十分は経ったはずだ。
「お? あの村か?」
川を渡った先に小さな村が見えて来た。
村の門をくぐるとそこには畑が沢山あり。農産が盛んそうな村だった。
「あの、シュールドと言う名前の人を知りませんか?」
近くで農作業をしていた男性に聞く。
「もしかして冒険者の方ですか?」
「はい。クエストの事で来ました」
そう言ってクエストの紙を見せる。
「村長! シュールド村長! ぼ、冒険者様が来ました!」
紙を見るなり、驚いた表情をしながら一目散に村長の名前を呼びながら大きな家に入って行った。
少し経つと。先程呼びに行っていた男性が1人の老人と一緒にこちらに向かって来た。
「クエストを受けて来ました」
「おお、やはり冒険者様でしたか。私はこの村の村長のシュールドです」
頭を下げならが丁寧にシュールドは言う。
「私はナイトと言う冒険者です」
「それではこちらにどうぞ」
大きな家を指差しながら、そこに歩いて家の中に入って行った。
俺も後をついて家の中に入る。
家の中には至る所に農作業の道具が並べてあり、椅子とテーブルがちらほらあった。
男性と老人が椅子に座るので俺も静かに椅子に腰をかける。
「それで、ゴブリンを討伐して欲しいとか?」
「それがですね。ゴブリン達に私の家畜がチラホラと盗まれてまして。それだけなら仕方ないで割り切れたんですが。あのクソども私の娘まで連れ去ったんですよ!?」
村長は、テーブルをドンッと叩きながら。目に涙を浮かべて訴えかける。
「娘さんをゴブリンに?」
「はい…………昨日のことでした。娘のシィーナはまだ若く、結婚もしてない娘です。毎日毎日、楽しそうに家畜の世話をしていました。でも、昨日の夜に叫び声が聞こえて急いで見るとシィーナの姿は無くなって、無残な家畜の死体があり。すぐさまギルドにクエストを出したんです」
テーブルにポタポタと涙が頬を流れながらシュールドは話す。
「それで、どうやってゴブリン・リーダーだと判断したんですか?」
「内の村人が見ていたんですよ………貴方の肩ぐらいまで身長があるゴブリンを」
村長は肩を落としながら。隣に座っている男性に視線を送る。
「私が見ていたんです」
男性が手を上げながらそう言う。
「貴方が娘さんを連れ去るゴブリンを見たんですか?」
「はい。身長は高く、大剣を肩から掛けていました。それで村長の娘さんを肩に乗せて連れ去っていたんですよ」
男性は震える声をしながら、少し青ざめた表情を浮かべ話して来た。
「どこに行ったかは分かりますか?」
「ここです」
男性はそう言って。懐から地図を取り出して村の南にある小さな岩場を指差していた。
「私が一度偵察しに行きましたら、ゴブリンは外に約6体ぐらい。外にはリーダーの姿は見えなかったです。ですが、その側に小さな洞窟がありました。多分娘さんもリーダーもそこにいると思います」
震える声であったが。目に無念を抱きながらシュールドの隣に座っていた男性がそう言って来た。
「頼みます! もうシィーナは助かってないと思いますが。奴らを! 娘の命を奪ったゴブリン達を殺してください」
ガタンと椅子が倒れ。シュールドは立ち上がり俺の鎧を掴みながら。涙を流し必至な思いで叫んでいた。
「俺からもお願いします!」
隣の男性が頭を地べたに付けながら言う。
「そんな顔しないでください。私が必ずゴブリンを殺して来ますから」
鎧に掴みかかっているシュールドの肩に手を置いてそう言う。
「冒険者様…………」
「では、早速行ってきます」
テーブルに置かれた地図をしまい。家の扉を開ける。足を前に突き出そうとした時に後ろから声が聞こえた。
「貴方の名前は……」
「俺か? 俺は暗黒騎士のナイトだ」
そう言い残して。足を進めて家の扉を閉めた。
「ゴブリンが人間の娘を連れ去るか………」
俺は強く拳を握りしめていた。
「魔族の恥晒しめ」
力強く地面を蹴り、地図に載っていた岩場に高速で走って向かって行った。
毎度お世話になっています。バナナアザラシです。
今月で最後かなと言ってたんですが。以外に書けたので次の4話も多分すぐ出すと思います。
それと、戦闘がなく申し訳ありませんでした!
えっ!? 今回もグダグダな話なのと思った方にはすいません。こんな感じで進みます。
絶対に戦闘は次の4話で書きます。
読んでいただきありがとうございました!