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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、覚醒する。
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10-8

暫くすると魔力切れから回復したのか、アメンが起き上がり周囲を見渡す。


「…ここは…っ。それより、奴らとの戦闘は…っ‼︎」


「終わった。無事とは言えないが俺らの勝利だ。」


「っ…ナツメ…‼︎」


一瞬魅了から解放されたナツメを見て安堵の声を漏らす。だが、その直後に自身の両親への仕打ちを思い出したのか、表情を強張らせ黙り込んだ。


「…両親の事はすまない。俺の…過失だ。」


「どんなに謝られても、どれだけナツメに非が無くても、もう帰ってこない…‼︎」


恐らく本心では誰が悪いと分かっているのだろう。それでも、原因を殺しても収まりきらない憤りはやがて大粒の涙となって彼女の目から零れ落ちる。


「初めて奴らが…っ…この地に現れた時から分かってた‼︎…っそれでも…優しいお父様は受け入れ…っ他の民と同じ様に愛した…‼︎そんなお父様をお母様は支えてた…っ‼︎」


「っ…。」


「奴らを平等に愛したからこそ、お父様は職も家も与えた…‼︎なのに、何故殺されないといけない‼︎私の両親は、何が悪かったのだ⁈教えてよ、ナツメ‼︎」


ナツメの胸ぐらを掴み叫びながら言葉を吐き出すアメンを止める言葉が思い浮かばず、静かにその怒りを受け止めるナツメ。だが、そこに冷酷な眼差しをしたウルドがそっと現界した。


『迷える悪魔の子。それは違います。愛は皆平等に与える物ではありますが、その結果にまで平等を求めるのは単なるエゴです。神ですら求めぬその傲慢を、どうして人の子が求めれるのです?』


「っ…‼︎誰だか分からないけど…それのどこが悪いの…っ‼︎」


『私を知らないと。それもまた良いでしょう。ですが、それでも貴女の提唱する愛は不可能なのです。何故ならそれを認めれば人は誰も愛せない。』


ウルドの言葉に言い淀むアメン。それもそのはず。人類皆平等に愛し、またその人から平等に愛されるとするなら人の感情は何処にあろうか。例えば憎むべき相手が居たとして、その相手に愛されればいくら親の仇であれその愛に応え同じ様に愛さなければならないのか。

否。答えは違う。人は人を自由に愛し、その愛を自由に裏切れる。だからこそ人は一度の愛を大切にし、家族を、恋人を、友人を愛せるのではないか。


『貴女がナツメに当てる憤りは尤もです。ですが、その過去に囚われ前を進む事を放棄すれば貴女の愛はその程度の偽物でしょう。真に愛するのならば前を向きなさい。それが愛した者への手向けです。』


「ぐ…っ…うっ…うわぁぁぁぁっ‼︎」


遂に泣き崩れるアメン。そんな彼女を見つつナツメに後は任せたとばかりに微笑みかけたウルドは、そっとその場から消えていった。


(結局言いたい事全て言ってもらった形になったな。)


『あら、ナツメの語彙ではこれ程上手く言えなかったでしょう。』


泣き崩れるアメンを撫でつつ、頭の中でウルドに礼を言うと、クスクスと笑いながらウルドは茶化してきた。そんな、何処かお茶目な女神に見つめられながらアメンを慰めているとやがて落ち着いてきたのか、目を赤く腫らしたアメンがしゃっくりをあげながら顔を上げた。


「落ち着いたか?」


「ひっぐ…うん…っ。ありがとう、ナツメ…。そしてごめんなさい…。」


「謝られる事も感謝される事も御門違いだ。礼ならウルドに言ってくれ。俺は何もしていない。」


『…欲の無い人ね、本当。』


「ウルド…?…さっきの人?…ありがとうございました。」


アメンの言葉を聞き機嫌を良くしたのか、鼻歌混じりにナツメにだけ返事をしたウルドは、それからは見なくても分かるほどの上機嫌のまま静観していた。

やがて、アメンとの和解が済んだナツメは本題を切り出す形で話しかける。


「ところで、アメンに聞きたい事があるのだが。アメンは魔界の情勢について何か聞いているか?」


「うん…?魔界?」


そこからかと溜め息を吐いたナツメは、アメンに先程サキュバスから言われた事、主にこの世界には人間界の他に魔界と天界が存在している事を教えた。

するとアメンは納得したかの形で頷き、口を開いた。


「成る程、アガリアレプトやマルコシアスが言っていたのはその事なのね。」


「アガ…誰?」


「全てを見通す識者アガリアレプト。そして忠義の騎士マルコシアスよ。ちょうど良い。2人とも顕現して。」


『御意』『仰せのままに』


嗄れた老人の声と威圧的かつ重低な声が重なっと響き、その場に2体の悪魔が現界した。アメンに対し跪く姿勢で現れた2体は、立ち上がるとナツメとその背後に礼をした後直立した。


「左の本を持った悪魔がアガリアレプト。そして右の剣と盾を持った悪魔がマルコシアスよ。」


「成る程。ナツメだ。宜しく頼む。」


『こちらこそ。運命神の神子よ。』


『神子と言うには私達に愛され過ぎているけれどね。御機嫌よう。魔界の賢者達。』


『これはこれは、末女スクルド殿。それに隣は次女ヴェルダンディ殿であられますか。』


『その通りよ。ユグドラシルの書庫を盗み見しに来た以来ね。アガリアレプト?』


『これは手痛いお言葉、老人の耳には呪詛より聞きますわい。』


人間2人に悪魔2体、そして神が2体といったあたかも各界の代表討論の様な形になったところでナツメは話題を切り出した。


「悪魔の方々にお聞きしたい。率直で構わない。魔界は今どうなっている?」


『…ふむ。そうじゃな。』


ナツメの言葉を聞き本をパタリと閉じたアガリアレプトは、溜め息を一つ吐いて口を開き始めた。


『一言で言えば…魔界は今、機能しとらんよ。』


アガリアレプトの口から出た言葉に2人は勿論、運命神達ですら驚愕の表情を見せた。


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