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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、覚醒する。
97/110

10-7

礼拝堂を出た時間は既に夕方となっており、中での戦闘が思いの外長かった事を示していた。

日本やイギリスに居ればその様な事はあまり気にならない事だが、エジプトの様な環境では街灯は無く、更に周囲を囲む砂漠と言う劣悪な環境が招く寒さが体に堪える為急いで戻る必要があった。


アメンを抱えたまま街中へと戻れば、周囲には既に人気が無く、皆夜の寒さに備え屋内へと戻っていた。その為、仕方が無い事ではあるが年頃の女性を大事そうに抱えるナツメへの興味の眼差しは無く、それが彼にとっては唯一の救いでもあった。


「いつもの部屋で。」


「了解しました。」


既に顔見知りとも言える程見慣れ始めた店主に、会釈と金を渡して直ぐ様部屋に入る。店主の方も大方の事情を察しているらしく、初日こそ探る様な眼差しをしてきたが直ぐに朗らかな表情を見せた辺り、パシフィスタかジェシカが口を封じたのであろう。

そういった気配りに抜かりの無い2人は、ある意味今回一番の活躍者なのでは無いかと思った。


「…まぁ、それを言えば父上とハルトもか。」


アメンをそっとベッドに降ろしながらふと呟く。サキュバスの魅了に対し必死の抵抗をしながらも、ナツメはハルトの凄まじい成長をしっかりと見ていた。

恐らく今日まで何度も死と隣り合わせになってきたのであろう。太志はその手の修行は1つの手も抜かない男である事は、息子だからこそ理解している事である。

だが、それを耐え抜き自らに対峙してジェシカ達を守り抜いたその強さは紛れも無く結果として残しており、満点に値する物だった。


「自分に無い根源的な強さは羨ましいものだ。」


『…それはあの子から見てのナツメも同じよ。』


ナツメの独り言に返事したのはウルドだった。薄っすらとその身を現界させた彼女は、ナツメの右側へ寄り添う様に座り込む。


『あの子だけではありません。少なくともナツメの周りにいる人間は皆貴方の雄姿を憧れ、羨んでます。それがどれだけ辛い道のりでも。』


「…そうだな。だからこそ学園がある。未来の俺を目指す子供達が通う学園が…。」


『そうですよ。それが例え親に勧められた道であっても。彼らの幼い心には勇者ナツメとしての姿は今尚刻まれているものです。そして彼らはこう思うでしょう。『いつか、勇者の仲間として…自身が勇者として世界を駆けたい』…と。』


「ああ。思えば幼い頃の俺もそうだ。母上や父上を目指したからな…。」


いつの間にか背中に寄りかかるヴェルダンディの言葉を聞いて頷くナツメ。更に左側には眠そうに欠伸をしているスクルドが現れていた。


『それに未来の子達もナツメの武勇伝を聞いて育つのよ。前回の討伐も。此度の討伐もね。』


「確かに。…そう考えると恥ずかしい物がある。」


『そんなもの、やっている本人はそれどころでは無いから気にするだけ無駄よ。それに言い出したら私達なんて自ら運命の女神を名乗っているわ。それこそ恥ずかしいでしょう?』


ヴェルダンディの小粋なジョークに思わず笑う。すると、3姉妹も面白かったのかクスクスと笑いだし周囲の雰囲気は明るくなった。


「気の利く女神と契約できて良かったよ。」


『あら、礼ならあの悪魔っ子に言いなさい。悪魔にしては珍しく無償で働いてくれたし。』


「あーあれはその、無償ではなかったというか…。」


『…え?何か奪われたの?』


苦笑するナツメに対し真剣な眼差しでナツメを見る3姉妹。だが、心配は無用とばかりに首を振ったナツメは溜め息を吐きながら


「サキュバスが現界する時に、彼女が一番欲しがる物を少しだけ渡してある。」


『ああ…成る程…。』


ちゃっかりしているサキュバスに呆れる様子を見せたウルドは、それでもその程度で本来なら忌避すべき天界の、それも神格を宿した存在との契約を手伝うなどあり得ない事だと話す。


「…それ程魔界としては焦っているのかもしれません。…まぁ俺としては天界も魔界も未だに半信半疑ですが…。」


『それは仕方の無い事です。人間は目にした物しか信じ得れないでしょうから。ナツメもその生命を全うしたら天界に来てそこで初めて信じれるでしょうし。』


「随分気の早いスカウトだが…まぁ一理はある。」


『ちなみに独身のまま天界に来れば私達が妻に…いえ、失言でした。

それより、魔界もについては確かに気になりますね。』


スクルドの前半は無視するとして後半の言葉には頷く。だが、生憎今は魔界とのコンタクトは取ることが出来ないためナツメが考えていると、ふとアメンを見て思い出す。


「…アメンならば魔界事情を知っているかもしれない。」


『…ええ。図らずもナツメの父の言葉は核心を追求する為には必要な事でしたね。』


アメンに許しを得る迄戻って来るな。

その言葉の意味には恐らくこれらの意を含んではいないかもしれない。それでも、物事の核心に近づく為の布石として最高の指示をだした太志に感謝しつつ、ナツメはアメンの回復を待ち続けた。

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