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ナツメの行動に驚いた3人は、それでも昨日の今日という事もありすぐ様事態を理解する。そしてすぐ様レイナを滅する為に動き始めるが、肝心のレイナはナツメを操るや否や即座にその場を離れた。
「逃げる気⁈」
「当然よ。敵前逃亡してでも勝てるなら居る意味無いじゃないの。悔しかったら着いて来てごらん?」
その言葉に逆上したジェシカはすぐ様追いかけようとする。だが、ナツメの魔法を吸収し続けているパシフィスタが、それを制止する。
「ジェシカ殿‼︎コレは罠かもしれませんぞ。」
「だとしても行くわ。私の息子を操ろうなんていい度胸よ。今度こそ締めるわ…‼︎」
ギリリと聞こえる程歯軋りをし、レイナが飛び去った方向を睨む。すると、溜め息を吐きながらパシフィスタはアメンに目を配りジェシカを頼むとばかりに頷いた。
「ジェシカさん、私も行きます。」
「足手纏いになったら貴女諸共殺すわよ。」
「ええ、では行きましょう。」
アメンの返事を聞くや否や姿を消したジェシカ。いつの間にか彼女は周囲の影を利用しつつその場から離れていた。それを追う様にアメンも魔法を唱え移動する。その場から瞬時に消えた2人を見てパシフィスタは溜め息を吐きながらナツメを見つめる。
「…ふむ。こんな所で勇者と手合わせ出来るのは不本意ながらありがたい話だ。…来い‼︎」
「…。」
だが、ナツメは急にその場で留まり3人の消えた方向を見つめる。その様子を怪訝に思ったパシフィスタは、それがどういう意味が直ぐには分からずー
「『物体転移』…。」
「…ッ‼︎しまっー」
パシフィスタがその意味を理解した時には、目の前のナツメはジェシカにもたせていた小さな悪魔人形へと変化していた。
急いでナツメを追うパシフィスタ。一番遠くに見える場所まで次元転移を行うも、その先の行き先がわからないまま走り出したー。
「やっぱり来るのね?」
一方、高速で追いかけっこを始めた3人の内、レイナは移動しながら放たれる影魔法を必死に避けながら飛行し、ジェシカは影魔法を飛ばしてはその地点から現れ再び影魔法を飛ばしを繰り返し、アメンは2人からは少し遅れながらも地を駆けていた。
「大体何故貴女が生きているのかわからない。『次元貫砲』をまともに受けたのでしょう?」
「ええ、本当に死ぬかと思ったわ。だけど私にはある回復方法があるの。」
「それで瀕死の状態から脱した訳ね。しぶといゴキブリだ事。」
「あらあら、しぶとさならいい勝負よ。」
互いを牽制しつつ相手を煽り合い、気付けば何処か儀式めいた広場に着いていた。
そこには3つのファラオ像があり、どうやらそれは棺として使われている様だった。
「そういえばアメンちゃんの両親なのだけど。このファラオの中の2つに入ってるわ。残る1つは我が君よ。」
「なんですって⁈」
後ろから到着したアメンがそれを聞き驚愕の表情を浮かべる。それを見たレイナはニタリと笑みを浮かべある提案をする。
「そうね、1つゲームをしましょう。このまま我が君が入っている棺を壊せれば我が君は死ぬわ。だけど、外せば貴女の両親が死ぬ。チャンスは2回。参加は強制よ。そして棺を破壊するのはー」
その時、『物体転移』を行ったナツメがレイナの側へと現れる。
「ナツメ先生にお願いするわ。」
「なんで卑劣な…‼︎」
レイナの言葉に愕然とするアメン。だが、同時に無抵抗で倒すチャンスと見たジェシカは、その挑戦に前向きな姿勢を見せる。
「大丈夫。3分の1なら外さないわ。それに貴女なら昨日見せた魔法を見抜く魔法があるじゃない。」
「…ダメです。あのファラオ像には強力な破魔魔法がかけられてます。私の魔法では見破れません…。」
「…私はそんな事で待たされるの嫌なのよ。早く選んで。」
苛立ちを見せるレイナ。その様子に構わず棺を破壊しそうな雰囲気を感じたアメンは、焦りつつも右端のファラオ像を選択する。
「そこで良いのね?…ナツメ先生、お願いね?」
「…『四属混槍』。」
4大属性の全てを込めた投擲槍が宙に現れ、選択したファラオ像目掛けて突き刺さる。その威力は凄まじく、突き刺さった後もその力を抑えきれずに爆発し、中身を爆散させる。
粉々になったファラオ像の欠片に交じり飛んできた肉片の中にはアメンの父が薬指につけている指輪が指ごと彼女の頬を過ぎ去った。
「あ…あぁ…お父様…っ‼︎」
「ーッ‼︎遅かったか…‼︎」
「あらあら、良いタイミングで賢王も来たわね。丁度アメンちゃんが間違ってパパを殺した所よ。」
「ぁぁ…ああああっ‼︎」
「貴様ーッ‼︎」
泣き崩れるアメンを見て珍しく激怒したパシフィスタは形振り構わずレイナに殴りかかる。しかし、それを見たレイナは直ぐ様2つのファラオ像に手を掛けー
「それ以上近づいたらアメンちゃんのママが入ってる方を破壊するわよ?」
「ー…っ…下劣な…‼︎」
拳を血が滲むほど握り締め怒りを堪えるパシフィスタ。その様子を見たレイナは高笑いをしながら次のファラオ像を選ばせる。だが、いつまで経っても泣き止まないアメンに苛立ちを見せたレイナは彼女を蹴り飛ばして踏み付ける。
「いつまで経っても泣いてるんじゃ無いわよ。ガキでも有るまいし。早く選ばないとママも飛ばすわよ?」
「ゔっ…ぐっ…⁈ごめんなさ…っ‼︎ひ、ひだ…り…‼︎」
その言葉に直ぐ様ナツメは2つ目の『四属混槍』を放つ。再び爆発したそれは先程とは違いアメンの母親らしき物は飛び散らず、代わりに彼女の目の前に一枚、血塗れの布切れが飛んでくる。
「っ⁈うぁ…ゔっ…ごほっ…お゛ぇ…っ‼︎」
「あらら、残念。こっちもハズレみたいね。ママの服が出てくるなんて。」
「ガァァァァァッ‼︎『模倣・明白放出』‼︎」
余りの悲劇に思わず嘔吐したアメンに対し、言葉とは裏腹に今にも腹を抱えて笑いそうな表情をしながらレイナは見下した。その瞬間、完全に我慢の限界を迎えたパシフィスタが、先程まで放たれたナツメの魔法を全てレイナに向け放つ。だが、その一撃は彼女に届く前に書き消えた。それを不思議とは思わない表情を見せるレイナは、ゆっくりと残りのファラオ像へと近づいて不敵に笑う。
「そんな訳で、見事不正解のアメンちゃんチームには罰ゲームとして…我が君が目覚めまーす。」
「うふふ…っふふふふ…っ‼︎ふふふふふふふふっ‼︎‼︎」
「な…何だこの魔力は…⁈」
不気味な笑い声と共にファラオ像が開き、中から男性とも女性とも取れない中性的な顔立ちをした人物がその余りある膨大な魔力を撒き散らしながら起き上がる。
「おはよう諸君。私が7神柱が1人…『色欲』のアザゼル・メイサー。宜しくね。」
「っ…宜しく出来る訳がない…っ‼︎」
語尾を強めて睨みつけるパシフィスタ。だが、何かをされている訳では無いのにその魔力に触れるだけで身体中に伝わる死の感覚が告げていた。
ーこの者と戦えば死ぬー
そしてそれは、アザゼルの微笑みと共に放たれた魔法により、現実へと変わろうとしていた。