9-9
食後。
もうそろそろ礼拝が終わる頃と見込み一同は昨日の礼拝堂へとテレポートする。
予想通り礼拝堂から人々が出始めており、それを見たアメンは住人達が出入りする場所とは違う出入り口へと誘導する。そして、パシフィスタに出してもらった次元の鎖を用いて一同の手を縛り手綱を引く様に中に入った。
中に入ると、昨日とは違う教祖が丁度教壇奥の扉をへと向かっていた。そこで、4人は昨日の様に足音と姿を消して追跡。そのまま例の部屋へと向かった。
「…失礼します。アメンです。昨日の主犯を捕まえてきました。」
迷彩と防音の風を解除し、扉をノックしてアメンを先頭に一同が入る。すると、昨日の戦闘の後が一切消えたその部屋で先程の教祖が待ち構えていた。
「これはこれはアメン王女。よくぞご無事で。連絡が取れなかったので心配しましたよ。」
「その節はすみません。彼らを追跡中でしたので極力魔力を放ちたく無かったのです。」
アメンが首でナツメ達を指すと、教祖は驚きと喜びの余り奇声を発しながら吠え、黄ばんだ歯をガッツリと見せる。
「ふふふふふ…遂に救世主を捉えるとは…よくやりました。さぞ大変だったでしょう。ささ、早く神の所へと。」
「ええ。…ですがすみません。私は1人で移動した事が無くて行き方が分からないのです。」
「それならば簡単です。こちらからお行きなさい。」
教祖が上を指差す。すると、そこには巨大な口を開いたスフィンクス像があり、その中へ入る様に促す。どうやら、あの中に通路があるらしい。
「ありがとうございます。それでは。」
「ええ、良い返事をお待ちしてます。」
すんなりと通した教祖が先に中に入り消えたのを確認すると、一同も中に飛び込む。
中は明るい空洞となっており、しばらく上昇した後直線の通路が続いていた。
「こんな道が…しかし地下でも無いのにこんなに通れる所がありましたっけ。」
「分からぬ。恐らく、スフィンクスの口に何らかの魔法が仕組まれているのだろう。」
あくまで予想だが、とパシフィスタは言う。しかし、もしそれが本当ならば相手にも次元魔法か事象魔法の使い手がいると想定出来る話だった。
その後、悠々と通るアメンに対し、あくまで偽装した敵対心を見せつつ一同は警戒する。時折、その敵対心が不安になったのかアメンがナツメの手をそっと握り締めたりしていたが、それを見つけたジェシカが別の意味での敵対心を出し始めた為アメンは焦りながらも3人を信頼した。
暫く進むと急にアメンが足を止めた為、ナツメ達もその歩を止めた。すると、彼女はこちらを振り向き2度頷く。これは、事前に決めた敵地へ到着する直前の合図だった。それを見た3人は警戒心を強めつつ中に入りー
「そんな三文芝居、中に入ればバレるに決まってるじゃ無いの。この馬鹿は気付いて無かったみたいだけどね。」
「レ…イナ…様…もう…し…」
「煩いわ。駱駝以下の塵。」
そこには昨日死んだはずのレイナが立ち塞がっており、その華奢かつ黒い腕で先程の教祖の心臓を貫いては投げ捨てながら、4人に妖艶な笑みを見せていた。
「さて、裏切り者には粛清をしないとね。」
その瞬間。昨日とは比べ物にならない程の魔力が溢れ出す。そしてその矛先はアメンへと向かい、負の感情を込め魔力を練り上げた魔法を放つ。その魔法は螺旋を描きやがてアメンの心臓を穿たんとする一筋の黒い矢となって飛んでいく。しかし、その矢がアメンへと到達する前にパシフィスタによる『暗黒吸収』が発動し、彼女の命を守った。
「バレているなら我が前に出てもおかしくなかろう。」
「イギリスの賢王…‼︎」
更にその横から影が伸びレイナの体を貫かんとする黒い刃が飛び出す。それを間一髪のところで避けたレイナは苦虫を噛み潰した表情を見せてジェシカを睨む。
「今日はもう殺していいから手加減はしないわ。」
「く…っ‼︎昨日の二の舞にしてあげるわ…⁈」
だが、その足を掬う形で地面がせり上がり、レイナを地の果てへと落とさんとするナツメの魔法が襲いかかる。それを宙に浮いて回避したレイナは、ナツメを見てニヤリと笑う。
「母親と殺し合い気分はどうだったかしら?ナツメ先生。」
「生憎会う度に死にかける程寵愛を受けてるものでな。慣れている。」
「寵愛だなんて…うふっ。」
微塵も動揺しないナツメに対し少し怪訝な表情を見せたレイナは、それでも何かを閃いたのかナツメに向かい急降下する。
「だったらもっといい思いさせてあげる。」
「ーっ‼︎来るぞ‼︎ナツメ‼︎」
パシフィスタの声にナツメは構え、近距離でも戦える様魔法体術の構えを取る。しかしそれこそレイナの思うツボとなりー
「貴方が、絶望を見せてあげなさい。」
「⁈ーこれは…‼︎」
「ナツメ‼︎」
その目を間近で見てしまったナツメ。周囲の呼びかけに対し返事をしようにもその瞼は段々と重くなりー
「ぐぅ⁈」
「キャッ…‼︎」
「うぐっ…。」
目を覚ました瞬間、ナツメはアメン、ジェシカ、パシフィスタに対し炎を纏った拳で殴りつけていた。