9-8
深夜。
妙な音を聞きつけてナツメの目は開かれる。
すると、どこか寂しそうな顔をしたアメンがナツメの真横に立ち尽くしていた。
「…ナツメさん。貴方は優しい方です。優しすぎるが故に、私を信頼できないのも分かっています。ですから、明日貴方の信頼を必ず勝ち取ります…そして我が家族を救わせてください…。」
「…眠れないのか?」
「ふぇっ⁈わっ…何で起きてるの⁈」
突然話しかけてきたナツメに驚き、机に思い切り腰をぶつけていた。
その姿に呆れたナツメは、それでも他の生徒達と同じ様に布団を捲り中にアメンを誘う。すると、顔を赤らめながらアメンは中へと入りナツメの体に身を委ねる形で寝そべった。
「結局抱くのね…。」
「阿保。どうせ夜は家族を思い出して寝れないとかだろうからしょうがなくだ。寝不足で明日しくじったとか言われたら元も子もないのでな。」
「…少しは抱くそぶり位見せても良いのだけど。」
「抱かれたいのか嫌なのかはっきりしろ。いや、抱かないがな。」
頬を膨らまし拗ねるアメンを小突きつつ、ナツメは彼女の頭を抱き締める。すると、アメンはビクッと怯えつつも害が無い事を理解し、そのままナツメの胸元に頭を預けた。
「ぎゃ、逆に恥ずかしくて寝不足になりそうですが⁈」
「大丈夫。そういう奴は大抵すぐに寝る。」
「な、ナツメさんは一度その誰彼構わず一緒に寝かす性格を直した方が良いですよ⁈」
「誰彼構わずというか勝手に入ってくるわ有無を言わさないわ何だが…自分から誘い入れるのは少ない。」
「どんな環境ですか…。」
クスクス笑うアメン。どうやら、先程までの寂しさは無くなったらしく、今ではナツメの腰に手を回し、自ら抱き着く姿勢を取っていた。
「一応確認だけど本当に抱かないのね?」
「抱いて欲しい所すまないがそういうのはしっかりとした関係を作ってからにしている。」
「だ、誰が抱いて欲しいなんて…。もう…。」
ナツメの冗談に本気で赤面しつつも、いつの間にか寝息を立てて眠り始めたアメンを見てナツメは微笑み、そのまま自分はソファで寝ようとする。だが、思いの外しっかりと抱き着いているアメンの手を外すと更に強く抱き着いて来たのを見て仕方なく一緒に寝る事にした。
翌日。
「おはよう、ナツメさん。朝ですよ。」
元気一杯とばかりに笑顔を見せるアメンに起こされ、ナツメは眠りから目覚める。
目の前にいるアメンは幸せそうな顔をしており、その笑顔を見せたまま一度ギュッと抱き着いた。
どうやら、一夜を隣で過ごした事が予想以上に嬉しかったのだろう。ナツメに頬ずりしながら抱き着く彼女を見て、ナツメも自然と微笑んだ。
「ねぇナツメさん。朝ご飯食べに行きましょう?」
「ん、構わないけど…どうした。いきなり。」
「…ちょっと位甘えてみたら信頼されるかなって。」
「ん…大丈夫。今夜殺されなかった時点で仲間としては信頼を置いているさ。」
「仲間として…かぁ。今はそれでも良いか。」
意味を含んだ言葉を言いつつ、アメンはナツメの腕を取り、そのまま部屋を出る。すると、ちょうど出てきたパシフィスタがその様子を見てニヤリと笑いー
「既に手篭め済なら問題無さそうだな。」
「あの、俺をそんなプレイボーイみたいに言わないでください。」
「おや、違ったのか。今まで生徒達を夜連れて安心させてる所を見る限りそうだと思ったのだが。」
「あれは勝手に来ただけです。今回も特に…特に…あれ。」
「私はナツメさんから誘われただけですよ。」
アメンの幸せそうな表情を見て更にニヤリとするパシフィスタ。
結局、ナツメは終始言い返すことができないままホテル内にあるレストランへと向かう形となった。