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身にまとう魔法が消えた瞬間、ナツメ達は即座に行動を開始する。
一番最初に動いたのはジェシカだった。ジェシカは、仄かに照らされた廊下にできている影から何本も腕を作り出し、アメンを捕縛せんとする。それをみたアメンは、大きく下がり扉を閉める。だが、それを予想していたナツメは、閉まる扉に向かい手を翳し
「『風龍爪痕』‼︎」
「ーッ⁈きゃ…っ‼︎」
扉ごとアメンを吹き飛ばした。それをみて一気に駆け出したパシフィスタは、中の広さを確認した後その場の教祖達を捕縛せんと魔法を唱えた。
「切り裂かれる次元、絶対の鎖。数多の敵を捕縛し、その場に永劫縛り付けん。食い込め。『次元縛鎖』‼︎」
「ほう…?これは…。」
「…つけられていたみたいですね。」
「久しぶりの面会だな。レイナ…‼︎」
「…あら、会いに来てくれたの?貴方って存外情熱的よね。」
周りの教祖が感心する中、ナツメはレイナを睨み付け、レイナはその視線を受け流すかの如く微笑む。束の間の硬直。先に破ったのはどちらでもなく、扉ごと縛り付けられたアメンだった。
「せ、せめて扉と分けてくれない…?重くて潰れそうなんだけど…っ。」
「生憎俺らはそんな甘くない。これから殺すかもしれない相手に情けなどかけるか?」
「う…っだから嫌だったのに…。」
「あらあら、そんな非道になっちゃって。相当焦ってるのね。」
「…だとしてもお前には関係ない。そうだろう?」
微笑むレイナに対し風魔法を放つ。放たれた魔法はレイナの頬を切り裂き、彼女の頬からは血が流れ出す。だが、それでもなお余裕を見せるレイナにナツメは、少し寒気を感じた。
「私ね、こうやって敵対していなければナツメ先生の事本当に好きだったのよ?可愛くてカッコよくて一所懸命な先生のコト、大好きなの。敵対してもそれは変わらない。だから殺しちゃう程愛してあげ「ぶっ殺す。」ーへ?」
突如響いた低い声に初めてレイナは戸惑う。だが、低い声の主はその些細な変化を気にせず、レイナに対し影の腕を放ち鎖の上から更に縛り付けその口までも塞いだ。
「我が子に愛を囁くのは親だけで充分です。ナツメは私の子よ?私の赦し無しで愛を囁こうなど言語道断。ナツメを愛したければまず私に勝つ事ね…‼︎」
「うわぁ…半端ない親バカ…。」
どうしようもない怒りをぶつけ始めるジェシカを見てドン引きするアメン。だが、それすらも気にせず何度も影魔法を放ってはレイナを縛り付けるジェシカに対し、鎖の捕縛を何とか振りほどいた他の教祖が動き出す。
「…流石は賢王。捕縛魔法すら凄まじい力だ。」
「ふむ…あれを抜け出すか。少し侮っていた様だ。」
「その様だな。…だがそれはこちらも同じ。まさかここまで入り込まれるとは思わなかった。」
「頭は少々切れるものでな。そうでなくては国王などやっておらんよ。」
「…ふっ。ではその力見せてもらおうか。『陽光爆熱』‼︎」
「『模倣・暗黒吸収』‼︎我にその様な猪口才魔法は効かぬ。喰らえ。『模倣・明白放出』‼︎」
教祖が放った魔法をそっくりそのまま返したパシフィスタは、更に魔法を詠唱し、その手に巨大な鎌を持つ。
「放たれる死の一撃、次元すら切り裂く一閃。死神の鎌を番えし者は、その一撃で全てを葬る。必殺の一撃、絶対なる死を。『模倣・次元切断』‼︎」
「ーッ⁈ぐぅぅぅぁ…⁈」
「⁈ 教祖様…‼︎」
詠唱と共に振り下ろされた大鎌は、宙を切り裂く動作をするとその正面に居た教祖の背中を切り裂いた。突然の被撃に思わず声をあげる教祖。その背中からは大量の血が流れていた。
その光景を見た周囲の者達ー恐らく教団内の上位カーストであろう人々ーは狼狽えつつも、すぐ様教祖の身を案じ回復魔法をかける者、パシフィスタに対し魔法を放ち牽制する者へと別れる。しかし、放たれた魔法は全てパシフィスタの『暗黒吸収』により無力化させられ、その全てを纏めて放たれた『明白放出』によって教団員達も大打撃を負った。
「あれほどまでに粋がっていた割には甲斐性のない。その程度か?」
「…っ…風船王国が調子に乗りおって…っ⁈」
「イギリスを侮辱するは我を侮辱するより重い罪と思え‼︎」
「かっ…がぁ…っ…っ‼︎…」
パシフィスタの怒りを込めた魔法が教団員含め教祖達をバラバラに切り裂く。次元の刻みにより切り裂かれたそれは血を出す事すら許されず体の機能を失うまでに切り刻まれた。やがて、ぐうの音すらもあげれなくなった頃にはその体と言うべき肉片の全ては掌大程までに切り刻まれており、その全てが出血すらできないまま生命を終えていた。
「イギリスは…偉大なる空の覇者となるのだ。」
鎌をしまい、目線を切ったパシフィスタは、ジェシカとナツメの方を見て戦況を確認するのであった。