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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、幻惑される。
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9-4

更に翌日。

昨日聞いた情報を元に、早起きした3人は住人の中に混じりつつナイル川へと向かった。


「…この服歩きにくいわ。」


「そう言わないでくださいください。敵に俺らの顔は割れてるんですから。」


世界をかけた勇者と最強の魔法使い、そしてイギリスの若き賢王こと3人はあまりにも有名な為、普通に歩いていると身元が判明してしまうとこの二日間で理解していた。その為、3人は現在簡易的な変装魔法と民族衣装を着こなした状態で歩いていた。


暫く歩くと、ナイル川の河川敷へと到着し、人々は川に向かい土下座の様な格好をし始めた為3人も続く。その姿勢から一つも動かず頭を下げ続ける行為は案外キツく、腰や足に負担がかかっていた。


それから数分。人々はぞろぞろと頭を上げ始め、ナイル川の中へと入っていく。それに続く様に3人も中に入ろうとするが、そのまま進むと衣服が濡れてしまう為、ジェシカは無詠唱で耐水魔法を唱えてから入水していた。

次々に川へと入っていく住人達は、入った後川の上流に向かい歩き始める。その流れに沿う様に3人も続き、水の流れに抵抗しながら進むと大きな礼拝堂が見えてきた。

どうやらここ最近で建てられたらしいそれは、明らかに周囲の建物よりもしっかりしており、白と金のガラスタイルで作られているしっかりとした礼拝堂だった。


住人の波に乗り礼拝堂へ入ると、その奥には演説が行えそうな壇があり、その中央には真っ白の教卓が置かれていた。

朝という事もあり、ざわつきながら何かを待つ住人達に紛れ3人はもしもの為に魔法を放てる準備をしておく。作戦としてはジェシカの影魔法での移動とパシフィスタの次元魔法の移動を使い3人で一気に教祖を叩く作戦だった。

準備が整い、暫く待つとどうやら全ての住人が礼拝堂の中へと収容されたらしく、ざわつきがピタリと止んだ。すると、奥から数人の教祖らしき人物が現れる。その中には見知った顔ぶれもあった。


「あれは…レイナ…それにアメンまでいる…っ‼︎」


「…ふむ、どうやら当たりの様だな。」


小さく呟いたナツメの声に頷くパシフィスタ。遠目からでも分かる幼い顔立ちに黒い肌を晒したレイナと、全身を金の装束で身にまとうアメンは中央にいる男に寄り添う形で立っていた。


「本日も良い朝日が拝めた。偏にこれもムーサーへの正しい信仰の賜物である。」


低く、それでもどこかカリスマ性を感じる声により挨拶と啓示が行われ始める。その声を聞くたびに心酔している住人達は感嘆の音を漏らす。


「…さて、昨日居た異教徒についてだが。今日はその姿を確認する事が出来なかった。どうやらその者はこの地から去ったか我らが教えに感銘を受けて改心したらしい。素晴らしき事だ。」


教祖の言葉に一同は手を合わせ、深々と頭を垂らす。それに合わせる形でナツメ達も行うが、内心ではいつバレるかの不安と緊張で一杯だった。


「我が教えとも言えるクルアーンによれば、この地における繁栄の時期は間も無く近い。この原点回帰したエジプトは常にクルアーンの話と同じ事が起きている。つまり、もう間も無く神の谷においてムーサーに並ぶ大預言者が現れるだろう。そしてその時こそ、我らがエジプトの…イスラムの繁栄の時期だ。」


その言葉に地に擦り付けん勢いで頭を下げる住人。歓声や拍手などは礼拝を邪魔する行為として嫌われている為だった。


「迫り来るエジプト繁栄の歴史までは短い。皆、今日という日もムーサーへの信仰を。」


約数分に渡る啓示が終わり、教祖達は立ち去ろうとする。それを見たナツメ達は、家路へと辿る住人に紛れてパシフィスタの次元魔法で教壇の隅へと移動する。よく見ると、そこには白塗りの扉があった。


「鍵は…無さそうだがどうする。行くか?」


「無論。この機を逃すわけには…‼︎」


風魔法で光学迷彩を作り出したナツメと共に、2人は扉をそっと開いて中へと入る。するとそこには蝋燭で灯された廊下が続いており、少し先には数人分の足音が聞こえた。


『ナツメ、足音まで消せるか?』


『勿論。これで周りには聞こえません…。』


光学迷彩を施した空気の層の内側に真空の層を作る。これにより足音による振動が漏れださず、無音状態で動く事が出来る。準備が整った3人はそのまま教祖達を追いかけた。


暫く早歩きで進むと、暗がりでも確認できる距離に教祖達が現れた。どうやら此方には気付いてない様子で歩いており、静かに歩くその背後に3人はついて行く。

すると、数人の内の1人が話し始める。


「今日は異教徒が居ないという事だが、あの男達が帰ったという確証は恐らくない。」


「ああ、何せ忌まわしき救世主だ。恐らくあの中に紛れていたか朝を避けたか。どちらにせよもうじき奴らを止めれる。」


「ええ。ここの住人への洗脳はもうじき完了するわ。そうすれば一気に叩く事が可能よ。」


どうやら何かしらの手段を用いて洗脳をかけているらしい。それを聞いたナツメはすぐ様魔法を唱えようとするも、パシフィスタに止められる。


『この場では我々が不利だ。この先の様子を見てから動くべきだぞ。』


『わかりました。』


パシフィスタの言葉を聞き素直に収める。確かに、道幅が狭く暗いこの地点ではまともに戦えるのはナツメしかいない為、物量に押される形になり得る。


「それでも彼らは注意すべきです。何分一度は魔王様の命を奪ってますので…。」


「確かに。我らがいかに力を溜めど奴にはそれを覆す何かがある。故にそれすらも凌駕する力が必要だ。」


口々に意見を述べる教祖達。そのまま一同は角を曲がり、その先にある部屋へと入る。それに続く様に入ろうとしてー


「不浄なる者、その姿を晒しなさい‼︎

天眼の悪魔よ、その身を隠す蓑を飛ばし、我らを欺く魔術を去なせ‼︎『天理観測アガリアレプト』‼︎」


突如響いたアメンの声により、風の光学迷彩と真空の防音壁は吹き飛ばされた。

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