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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、幻惑される。
83/110

9-3

翌日。

異変は朝から起きていた。


まず、頼んでいたモーニングコールが来ない。更に朝食も来ない。そして街一帯が午前8時を過ぎても何の喧騒もなく静まり返っていた。

この異常事態にナツメは2人を起こし周囲の確認を行う。しかし、住人の奇行以外に起きた事はなく、それさえも午前10時を過ぎた頃には元の生活感を取り戻していた。


「やはり街一帯で何かを行っているわね。」


「うむ。しかし、何をしているかの検討も付かなければ場所すらわからない。」


「…取り敢えず今日も引き続き探索ですね。」


という事で一同は昨日同様情報を集める事にした。ただ、昨日とはアプローチを変え今朝の事について聞きまわり始める。すると、昨日とは打って変わって軽快に教えてくれた。


「朝になるとこの街の者は皆礼拝に参加しているんだ。」


「礼拝…?それはどういった?」


「旧約聖書は知っているだろう。その中には私達の命の川であるナイル川が出てくる。その川を流れ渡り生き延びたモーセを崇拝しなければ、その全てが血となり私達は潰えると教えられてな。今では寝起きの洗顔よりも先に行うしきたりとなっているんだ。」


「成る程。それは知らなかった。この地に住まうには崇拝を行った方が良さそうだ。」


「そうしてくれ。幾ら迷信とは言え魔法が普及しているんだ。狂信者が本当に血に変えたりでもしたらここの住人が部外者を狙い暴れるからね。」


「そこは狂信者相手にではないんだな…。」


「まぁね。ある種この街の住人全てが狂信者に近いから。自分で言うのも変だけどね。」


一頻り情報を聞くとナツメは青年に礼を言い、その場から離れた。そして聞いた情報を纏めて2人に送ると、2人は再度ホテルに集合する様求めた。


それから数分後。再びホテルの客室へと着いた3人は手に入れた情報を元に敵の動きについて考察する。


「取り敢えず私から。街の端々を回ってみたけど何もなかったわ。左手に砂漠が見え続けるだけよ。」


「こっちは街中を探索してみたが…めぼしい物は無かったな。こちらも収穫ゼロだ。」


「俺は先程話した通りです。朝方の様子についてですね。この事から考えられる事があれば良いんですが…。」


同時に悩み始める3人。すると、パシフィスタが突然思いついたのか、机に手を置いた。


「街一帯で行っているとすれば、その際に街中に残っている人間は部外者となる。つまり、朝見なかった人間の特定が可能だ。」


「成る程…。しかしそれはどの様な意味を持ちます?」


「…情報規制と人物の分別化ね。その場に居ない人間に対しては必要外の情報は与えない。つまり、私達が昨日嵌められたのはそれが理由よ。」


ジェシカの言葉に合点がいったのか、2人は頷く。しかし、危惧すべき事はそれだけでは無かった。


「もしかしたら昨日同様俺たちを誘き出す罠かもしれない。警戒する価値はあります。」


「成る程。しかも今回の場合全市民を相手にする可能性も考慮しなければならない。前もって準備をしておくか。」


「ええ、そうしましょう。ただ、逃げるか戦うかはその場に合わせて行うわ。」


「逃げてばかりはいられませんからね…。敵の主要人物が居るならば、戦うのも辞さないでしょう。」


ある程度話が纏まり、一息をつく。時刻を見れば当に昼を過ぎており、空腹感を感じた3人は一度昼食を取ることにした。


エジプトの食文化はイスラム教の影響を受けており、ハラールに基づく食事を執り行っている。その為、ナツメ達が普段口にしている物とは違うイスラム教独自の食事が提供されていた。


「とは言えイギリスよりは食文化が発展した国なのは認めざるを得ないな…。我々も大分発展したとは言え、主食がパンになってからの歴史は浅い。海外からもっと沢山の食文化を取り入れなければならないな…。」


「まぁでも急に変えれば国民の胃袋はもたれますよ。私達みたいに和食や洋食に慣れ親しんでるなら別ですが。」


「うむ。それは一理ある。…ジェシカ殿は良い人と結婚なされたな。」


「そういえば父上は昔から料理が上手でしたね。何故でしょうか。」


「それなら、太志が言ってたわ。昔皇室でお抱えの料理人をしていたとか。うちの使用人達に家事を教えたのも太志ですし。家庭的なスキルは最高よね。」


「…つまり俺は母上に似たのですね。悲しい事に。」


ナツメの愚痴に対しジェシカは頬を膨らませて怒り、パシフィスタは豪快に笑いだす。思えば、久しぶりにこの3人で平和的な食事を摂った気がする。特にここ数日は緊迫状態が続いていた為、適度に息抜きを行える時間というのは特に必要だった。


「大体母上は魔法以外のスキルを全て捨て過ぎなのですよね。肉を消し炭にしたり野菜を粒子レベルまで刻んだり…。」


「まて、消し炭まではまだ理解できるが野菜を粒子にまで刻むってどういった神経をしているのだ。」


「…昔俺が野菜嫌いで食べれなかった時に、父上が刻めば食べやすいと言っていたのを思い出したらしく、風魔法で刻んだんですよ。そしたら刻みの加減を間違えてさらさら…と消えていったという。」


「だ、だってその方が食べやすいかなって思って…‼︎」


「そこまで刻んだら食べると言うより吸うですよ⁈」


「文字通り息を吸うが如く食べる料理…いや、満たされないだろうそれは。と言うか栄養素の結合とかも刻んでないか?」


「栄養素そのものまで刻んだわ。分子レベルでは足りないとおもったの…。」


最早言葉を失う2人に対し、ジェシカは落ち込む。もし、この場に料理上手な心菜とかが居るとあり得ないと口にしてしまっていただろう。それ程までにジェシカは料理スキルが無かった。


「まぁ我が家で母上が家事禁止になった理由は他にもあるんですがね…。洗濯物を乾かす為に太陽レベルの熱源を作り出したり、ゴミ掃除の為に室内に竜巻起こしたり、汚れ落としに大津波呼び込んだり…。」


「最早スケールが大きすぎる馬鹿としか言えない。」


「だって…その方がなんか輝けそうだったのよ?」


「本当太志が旦那でよかったな。」


「俺も父上には相当感謝してます。」


「私にはー⁈」


「「…。」」


2人の反応を見て怒ったジェシカは、食事の料金だけを払い影の中へと身を潜め、一足先にホテルへと帰る。それをみて苦笑しつつも2人は続き、料金を支払った後ホテルへと移動した。

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