1-8
翌日。
ナツメの提案を快く承諾してくれた藤堂により、系統診断士は来校した。
もっとも、普通だとやはり数日かかるものだが、藤堂の人脈とナツメからの要請という事もあり、即対応してくれたらしい。
「ご無沙汰しています、藤堂様、ナツメ様。」
長めのローブを纏った青年ー荒木竜三ーは、到着するや否や二人に敬礼する。
「おはよう、荒木君。今日は無理言ってすまないね。」
「いえ、雷神や勇者に呼ばれる事至極光栄であります。自分で宜しければいつでも参上する所存であります。」
余りの堅苦しさに藤堂は「もう少し気楽で良いからね」と笑顔で対応するも、竜三自身譲れぬ何かがあるらしく、そのままの言葉使いで話し始めた。
ちなみに、雷神とは藤堂の昔からの異名であり、風…というより大気と水をコントロールし、広範囲に落雷させる独自の上級魔法『建御雷神』を開発し、一躍有名になった事から雷神と呼ばれていた。
来賓室へと案内される竜三の姿勢からはいかにも緊張してますオーラが出ていて少し不安だったが、藤堂曰く今一番忙しい若手診断士らしく個人ですら数ヶ月待ちとの事である。
その話を聞いて安心したナツメは一度職員室に戻る。
「おはようございます。」
「あーナツメ先生おはようございます!」
相変わらず抱きついてくるレイナに困りつつ、ルイ、ミシェルとも挨拶を交わす。
「今朝はえりちゃんに止められないから好き放題ですっ‼︎」
そういえば辺りを見渡しても英里華の姿が見当たらない。
何処に行ったのか気になったナツメは、ルイに尋ねると
「ああ、御園先生なら今体術科の宗方先生と朝の鍛錬を見に回ってますよ。良ければナツメ先生もどうです?」
と、学内の武道館への行き方を教えてくれた。
言われるがままレイナを引き連れつつ武道館へ向かうと、気合の入った声が響いていた。
「おはようございます、御園先生。そして初めましてですね。宗方先生。」
「おお、これは勇者殿。お初ですな。儂は宗方一刀斎源治。魔法体術の皆伝にしてこの学園の体育を体術に変えてしまった張本人じゃ。」
いかにもその道のプロの様な風貌の老人、宗方と握手をするとお互いに一瞬動きが止まる。
その様子にレイナと英里華は目をパチクリとさせているが、二人の間では今死線を超えたもの同士の探り合いが始まっていた。
目線、姿勢、危険察知力、適応力…互いに目を逸らさず感覚のみをフルに稼動させて隙を伺いあう。
しかしそれも長くは続ける事はなく、数秒の後に二人とも笑顔になって手を離した。
「いやはや、流石彼奴を倒した強者。儂には手も足も出そうに無いわ。」
豪快に笑いながらナツメを褒め称える。しかし、ナツメ自身も同じ様に隙を見つけ出す事が出来ないほど完成された自然体の宗方に、驚きを隠せないでいた。
すると、
「近距離戦ならば儂は負ける気がしない。しかし、勇者殿はどの距離でも対応できるだけの場数を踏んでいる。並大抵の者なら近距離戦ですら勝てぬよ。」
と、笑いながらも眼光を光らせて言い放った。
その様子に英里華とレイナは顔を見合わせ、訳が分からないとばかりに苦笑いをしていた。
その後、生徒達の朝の鍛錬を見ながら宗方に魔法体術について教授してもらう事に。
魔法体術とは、いわゆる剣、槍、刀、棒、徒手等体術に分類されるものに魔法を付加する形になる。
付加する魔法は身体強化などは勿論、系統に合わせたものも可能であり、風を纏った剣だったり、炎を撒き散らしながら殴れたりする。その威力は、従来の魔法よりも一点破壊にかけてはずば抜けて高い威力を発揮する。
しかし、これらには高い魔法制御力が必要になる為、基本的には身体強化のみ行っている事が多い。
「ま、儂でこんな芸当できるんじゃ。勇者殿ならもっとできるじゃろう。」
説明をしながら、いつの間にか宗方の全身が鋼色に変わっていた。
「土系統魔法の応用じゃ。ダイヤ人間にすら軽くなれるわい。」
自慢気に笑う宗方を他所に、ダイヤと言う響きに女性陣は目を輝かせる。
いつの時代もダイヤは女性陣の心を引くものなのか、世の中にはダイヤ欲しさに土系統を極める女性もいるらしい。
そんな中、ナツメはこの魔法体術が自分にとって何かを掴むいいきっかけになる気がして
「もし宜しければ、明日から俺も参加しても?」
と、宗方にお願いする。宗方はそれを快諾し、明日の朝より師事する形となった。
「しかしナツメさ…先生本当修行大好きですねぇ。学園長からも色々聞きましたよ。」
武道館からの帰り途中、もはや子犬の如くまとわりつくレイナに呆れながら英里華はナツメに聞いた。
「えー、えりちゃんナツメ先生の昔話聞いたの?羨ましい!」
「レイナ『先生』?学内でえりちゃん禁止!
私も最初は興味本意で聞いたけど…凄いものだったみたい。なんでも血反吐を吐いたらその血を使って水系統の修行始めたり、寝る時は地面に熱を奪われない為常に風系統の魔法使って宙に浮いてたり…」
「おかしい、ストイックさのレベルがおかしい。」
「あはは…懐かしいですね。5歳位の時の話ですよ。」
「何その鍛え抜かれた幼少期⁈」
予想の斜め上をいく昔話に思わず目が点になるレイナ。
しかし、全ては魔王討伐の為に行った修行でしかない為、ナツメ自身何の不思議でもなかった。
「母の話によると、産まれてすぐ全属性の適正値を上げる為に当時のエキスパート達が四六時中その属性魔法の魔力源を与え続けてくれたとかですし。」
「れ、レイニーデイ一家恐るべし…。」
魔法使いとしての格の違いを知らしめられたレイナは思わず愕然とする。
だが、この様な荒療治をするのはその道を極めた家系位のものであり、普通は行わない。
それもこれも、当時の世界最強とその懐刀の子供だからこそイレギュラーな育成方針になった。
そんな話をしている間に3人は職員室に到着。
英里華はまた後でと中に入り、レイナとナツメは1-Dのクラスへと向かうのであった。