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午後の授業は座学の為、魔法を使うことなく進められた。
その中で、魔法の歴史について触れた内容では完璧に記憶していたルナがナツメに変わり教鞭をとったり、各家の成り立ちについて凛音やミリアムが説明したりと、誰が教師か分からない状況にもなっていた。
だが、魔王についての話になった際、ルナが説明した内容に違和感を感じたナツメは内容を否定する。
「奴が使った魔法の多くは混合魔法と言われてたがそれは間違いだ。奴はその殆どが究極魔法や禁忌魔法での戦闘を行っている。更にその魔力は膨大と言われているが実際はそうではない。奴は魔力が膨大というより、その体内で魔力を生成していた。」
「…っどういう事ですか⁈人体内で魔力を人工生成なんて…!」
「ああ。普通は不可能だ。出来たとしても、『活力増強』や活力薬を用いた戦闘だが…奴は違った。その様な魔法や薬には頼らず、まるで自らが触媒とでも言う様に魔力を生み出していた。」
「そんなの…どうやって⁈…まさか…?」
その問いにナツメは黙り込む。しかし、傲慢との戦闘を見てしまったルナには理解出来てしまった。
ナツメは魔王との戦いの最中一度死に、その身に宿す秘術によって魔王の魔力を取り込みながら戦い、最後はその手で殺めたのだ。
その偶然と言うべき相性の良さにルナは戦慄する。まるで、その様になる事を仕組まれていたかの様に定められた2人の最強は、自分達の手では到底届かない領域である事を知ってしまう。
「だが、奴には自力で復活する術はなかった。その結果が奴の敗北だ。」
「成る程。それならば魔王を倒す事は出来るのだな。大層な能力を秘めていても貴様に負けたのを考えれば納得はいく。」
凛音が言った言葉は形としては事実である為、ナツメは頷く。だが、それをなし得るのは真っ当な戦い方では不可能である。その為、ナツメは決戦時におけるキーマンとなるルナ、龍膳、凛音、時丸を順に目で追いつつ、話を続けた。
「魔王を倒す事になれば以前とは違い奴は慢心せずに現れる。奴の目的を成就させる為に必ず本気で来るだろう。」
「…世界を破壊して魔王は何を望むのですか?」
「至極当然な疑問だ。心菜。奴の狙いは破壊ではない。世界のあり方を一度無に帰した後に自らの思い通りの世の中に再生する。魔法界の革命児にして魔王は、魔王ではなく神になりたいらしい。」
この世のルーツを自分に変える。
その様な事をして何になるのかは不明だが、成就すれば世界から忌み嫌われた存在は一転。すべての人から崇められる存在となる。それこそ、この世の誰もが得る事の出来ない独占であった。
「己の知識と欲を追求し過ぎた余りの末路だ。そこに理性が無ければそれはただの暴力でしかない。」
「己が知識欲を抑制する理性…か。」
難しい顔でミリアムが呟く。強き正義と強き悪は、理性という板一枚あるかないかでそのあり方を変えてしまう。その事実を改めて知らされたかの様に。
「話を戻す。後に魔王と呼ばれた天才の出世により、これまでの魔法の形はあり方を変えた。これまでの魔法は基礎魔法と呼ばれ、4大元素、五行思想、混合、究極、独自魔法が現れた。そしてその中でも1人の力で大勢を変える魔法が現れ、それらを禁忌魔法と呼ばれ始めた。」
「それらの魔法は其々研究されては発表され、新たな魔法として世に排出されてきました。しかしその研究は大きな戦乱を産みました。」
「それが第一次魔法大戦に繋がる事になるのだが。実はそれに至るまでにも何度か紛争は起きている。」
「魔法のあり方についての魔王が提唱した論文への糾弾が酷く、それに対し激昂した魔王が彼らと何度か魔法を用いて衝突してますね。」
鈴蘭の返答に頷きながら宙に半透明の世界地図を作り出す。それにナツメは紛争が起きた地域に点を打ち、その紛争名を書き出していく。そしてナツメは、少し深呼吸して、にっこりと笑い
「ここテストにでるからな。」
「はい…。ってそれ言いたかっただけですよね。」
「ああ。言ってみたかったんだこれ。」
なんともお茶目なナツメに笑いが起きるも、その地図を見つめていた時丸は眉間に皺を寄せて考え事をしている様だった。