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「ふんっ‼︎」
明らかに不機嫌な刀奈を囲み、食事をするナツメと御堂三姉妹。そんな刀奈に謝りつつナツメは食事を済ませると、お茶を飲みながら一息ついた。
「ふぁいふぁいなふぅめはふぁらふぁふぉいふぁふぁほぉうほぉいふきふぉひはぁなぁ…。」
「わ、わかったから飲み込んでから話してくれ。」
「んぐっ…。労わる気持ちを持つのじゃっ‼︎」
「刀奈先生、口元にケチャップが…。」
「んにゃ…すまぬのぅ次女。」
ナポリタンをフォークで器用に巻き取りつつ刀奈はナツメに説教する。だが、食べる度に口元に着くケチャップを楓に拭いてもらったり、服につかない様に前掛けをしたりとその見た目は完全に幼女そのもので、ナツメは必死に笑いを堪えていた。
「うむ…美味じゃった。この食堂飯はうまいのぅ。」
「お粗末様でした。刀奈先生、前掛け外しますね。」
「む、次女何から何まで済まぬな。」
「いえいえ。」
「楓は面倒見が本当いいな。いいお嫁さんになるぞ。」
ナツメの言葉に急にボンッと赤面する楓。その動きは完全に停止し、パクパクと口を動かしていた。そこに刀奈は追撃を加える。
「うむ。妾の母上よりも暖かく優しい娘じゃ。ナツメ、お主の嫁にでもすると良い。」
「と、とうにゃしぇんしぇ⁈」
あまりの恥ずかしさで呂律が回っておらず、手だけはブンブンと振り回している楓を見てケラケラと笑う刀奈と、刀奈のいきなりの爆弾発言に慌てるナツメ。不意に2人は目が合い…
「…。」
「…。」
ボフンッ‼︎
「おい楓姉その今まで全くその気が無かった癖に周りに言われて意識してしまった女の顔について教えて下さい。」
「的確過ぎる状況説明に私ですら驚嘆だわ…桜ちゃん成長したのね…。」
「胸とたっぱは妾とか焔と同じ位だがのぅ。」
「ムキーッ‼︎」
耳まで真っ赤にした楓と涙を拭う鈴蘭。そして刀奈とじゃれ合う桜を交互に見て溜め息をつくナツメ。やはり御堂三姉妹は曲者揃いだと感じた瞬間だった。
結局、その後も楓はナツメの目を見れずに俯いたまま休憩終了10分前となり、一同は解散した。
「おいナツメ。お主は午後から何をするのじゃ。」
「ん、とりあえず午後からは魔法についての座学にする予定だが。」
唐突に話しかけられたナツメは、普通に返すと刀奈はつまらなさそうに唇を尖らせた。
「なんじゃ、実戦はしないのか?」
「残念、午前で既にしてある。」
「なっ…何故妾を呼ばぬ⁈」
「そりゃ刀奈ちゃん指導中だっただろう。」
「む〜っ理不尽じゃぁ…。」
授業中好きなだけ魔法を打てる魔法学教師に対し、通常教科の教師は部活等でなければ放てない。その為、彼女の様に血気盛んな教師は鬱憤を溜めやすいらしい。だが、それでも刀奈のそれは早すぎた。
「流石に1日でそれは…。」
「むぅ。…わかった‼︎授業全て終わったら妾も奴らを鍛える‼︎そうしよう。」
「んな無茶苦茶な…。」
機嫌を一気に直した刀奈は、足取りを軽くしつつ次の教室へと向かう。対しナツメは、溜め息を吐きつつ自分のクラスへと赴き、だらける生徒達と何気無く会話を始める。
「そういやルナとかはどこで昼食を取っているんだ?」
思えば、ルナを始めとした生徒会メンバーは食堂へと足を運んでいるのを見た事がない。それが気になったナツメはルナに聞いてみると
「私達生徒会は生徒会専用の食堂があるので、そちらを使ってます。まぁ出ている物は変わらないのですが。」
「VIP待遇の様な違う様な…よく分からん境目だな。」
「並んだり席を探す必要の無い点では優遇されてますよ。今度ナツメ先生も来られますか?」
思わぬルナの誘いに二つ返事で了承するナツメ。毎度席を探すのは大変なので有難い誘いであった。
「と言うかそれ程大変ならば弁当を作れば良いのでは?」
「…いや、俺は料理が苦手でな…。」
「なんて事⁈龍膳先輩ですら毎日弁当手作り出来るのに‼︎」
「ミリアム殿、某のそれとは関係ないとっ‼︎」
「嘘だろ…まさか龍膳が主夫系男子だったなんて…。」
「ちなみに龍膳君はこのクラスの誰よりも料理が上手です。」
聞けば龍膳の料理の腕は一流のシェフ並らしく、寝相以外完璧なルナをもってしても、龍膳には歯が立たないらしい。衝撃の事実に驚かされるナツメと、あまりの注目ぶりに慌てふためく龍膳。そして…
「ナツ龍の甘い新婚生活…朝から甘くとろける…ふぁっ…。」
「あぁ、いつもの病気が…。」
鼻から器用にBLの血文字を吹き出した心菜を、その内容を知ってしまったらしい凛音が介抱する。更に桜がいきなり立ち上がり
「龍膳先輩…いえっ龍膳師匠‼︎料理を教えて下さい‼︎いずれナツメ先生の嫁になる為に必要なのです‼︎このままではウチ性○隷にしかなれません‼︎」
「そもそもそんなものになるな‼︎」
「えっ…。」
「えっ⁈」
「じゃ、じゃあ肉べ…ふべしっ⁈」
度を過ぎた為、楓に後ろから机を投げられ、その場に倒れこむ桜。その桜を楓が足を持ち上げて引きずりつつ、席に戻した。
そんな愉快な会話をしていると、始業のチャイムが響いた為、お気楽ムードを一転。授業を始める事にした。