8-3
一方、ルナ、鈴蘭、楓、龍膳を教えるナツメと風雅、藤堂は、実戦形式を取りつつも4人に対し的確な戦術指導を行う。
「違うっ‼︎龍膳の罠を活かしてその属性に合わせた攻撃を行え‼︎」
「はいっ。」
「追撃が甘い‼︎」
「っ…‼︎承知‼︎」
1つでも甘い攻め方をすれば3人から反撃を食らい、その身を傷付けては修正する生徒達。その姿に感心しつつもナツメは手を緩めず彼女達の攻め手の1つ1つを的確に躱しつつ、戦略を体に叩き込んでいた。
暫くして凛音達の力試しが終わった事を確認したナツメは、凛音達を呼び寄せる。すると凛音は、もうヘトヘトとばかりに両手をぷらぷらさせたので、ナツメは彼女に対し水魔法を飛ばす。それに気付いた凛音は咄嗟に火魔法で防御してしまい
「うん、まだ動けるな。」
「貴様鬼だろ…。」
諦めた凛音は溜め息を吐きながらナツメの元へと行く。それにつられる様に4人も近づき
「とりあえずナツメ先生っ慰めをくれても…?」
「おし桜。お前が一番元気そうだから褒美として最初に魔力枯渇させてやろう。」
いつもの桜の病気が始まり苦笑に包まれる。それを見ていた風雅は微笑みながらこの場をナツメに任せ
「では私と雷神は倒れた生徒の介抱と授業に行ってくる。また手合わせ願う。」
「ええ、もし活力薬が足りなければ保健室にまだまだありますのでそちらを。」
「了解した。」
完全に伸びている2-Cの生徒達の元へと向かった。その後、結界を張り訓練所を分けたナツメは全員に魔力の底が尽きるまで実に2時間ぶっ続けで魔法を撃たせた。
最初に倒れたのはあまり戦闘的な魔法を使いなれていない龍膳で、無念と漏らしつつ前のめりに倒れていった為、正面に居た時丸が潰されかけた。
その後時丸、凛音、心菜、ミリアム…と倒れていき、最終的にナツメとルナだけがフラつきながら膝をついていた。
「ふぅ…ルナは魔力量も流石多いな。」
「いえ…凛音より私は少ないですよ…っ。単に燃費が良いだけです…。」
聞けばルナの光魔法は上級魔法を放っても消費する魔力量は一般的な中級魔法よりも少ないらしい。燃費が良く最速かつ無詠唱。改めて恐ろしい生徒だとナツメは実感した。
「まぁそれでも1つだけ私の魔力を全て出し切る魔法はあります。私が唯一詠唱する魔法ですね…。」
「ほう…?1度見てみたいものだな。」
ルナの言葉に興味を持ったナツメ。だが、それを聞いたルナは赤面し首を振りながら
「いえっ、あれは見せれないというか見せたく無いというかっ…とにかくダメです‼︎先生のえっち‼︎」
「⁈⁈⁈
よくわからん上に変な疑惑をかけるな‼︎」
突然怒り出したルナに困惑するも、とりあえずこれ以上は続けれない為一同を運びつつ休憩時間を取った。
休憩時間は全員が目覚めるまで取っていた為、その間ナツメは他クラスの魔法学の授業を見つめる。今は3-Aのクラスの生徒達が数ヶ月後に迫る全校模擬に向け本格的な練習を行っていた。
「そういえば特別クラスはどの様な形で全校模擬に?」
風雅はふと気になったのか、隣で座り込んで見ているナツメに尋ねる。
「他のクラスが5人1組6チームなのに対し、こちらは間に合えば4人1組3チームの予定ですよ。」
「ほう。基本的な人数は崩さずチーム数を減らすのですね。」
大体の討伐部隊の組み分けは5人か4人で組まれており、それより多くなっても少なくなっても連携は取りづらいとされている。その為、ナツメは今後を想定して全員が討伐部隊を組む事が出来る様に慣らしておきたかった。だが、現在の状態だと5人1組が1つ、4人1組が1つの2小隊しか組めない為、ハルトや孫兄妹の帰還をナツメは誰よりも望んでいた。
「その前に何事も起きなければ良いのですがね。」
「ははは…そればかりはなんとも。」
だが、それ以上に各国で未だ活動を活発化させている魔王復興軍の動きが気になり、素直に待つばかりとはいかなかった。すると、それを察したのか風雅が笑いかけ
「あれだけの生徒達だ。大丈夫だよ。」
「ええ、ありがとうございます。」
ナツメの心配を払うかの様に話しかけた。
3-Aの授業も終わり、昼食休憩を知らせるチャイムが鳴った頃。凛音が飛び起きた。
「飯だ‼︎起きろ貴様ら‼︎」
その声に跳ね起きる一同。それを見たナツメは苦笑しつつ生徒達と共に訓練所を後にした。
昼食をとる為に久々の食堂へ向かうと、生徒達もその味を求めていたのか食堂内はごった返していた。なので、とりあえず席を探して周りを探していると、聞き慣れた怒号が聞こえる。
「だから妾は教師であって誰かの子連れでも妹でも無いのじゃっ‼︎」
「はいはいお嬢ちゃん。わかったからお家の人が来てから頼んでね?」
「じゃ〜か〜ら〜っ‼︎」
どうやら学校関係者の親族と思われていた刀奈は、その目に涙を浮かべながら地団駄を踏んでいた。それを見て微笑ましい笑顔を見せている周りの生徒達は、口々に可愛いなどと言いつつも誰も助け舟を出していなかった。それを見かねたナツメが近づき
「どうしたの刀奈ちゃん。」
「おお、ナツメ‼︎良いところに来た‼︎妾が教師だと証明してくれっ‼︎」
「あらナツメ先生。この子は先生の子供か何かですか?」
食堂のおばさんの言葉に思わず吹き出すも、何やら悪戯を思いついたナツメは刀奈を見つめる。
「なっナツメ?なんじゃその不穏な笑みは…っ」
「この子はうちの姪っ子ですよ。ご迷惑おかけしましー」
「ナツメェェェ‼︎お主まで妾を愚弄するかぁぁぁぁっ‼︎」
遂に鬼の様な形相になった刀奈は、ナツメの肩へと一飛びし、頭をポカポカと殴り始める。その様子に堪えきれなくなった周りの生徒は遂には吹き出し、暖かい目で見つめつつ刀奈を宥め始める。だが、それでも治らない刀奈はガシガシと頭を踏み出し、鼻息を荒くしている。すると、その場を通りかかった楓が声をかけてきた。
「…先生。先生の事は尊敬してますし、大変素晴らしい方と存じ上げています。ですが、幼い見た目をした刀奈先生に踏まれる趣味は如何かと思います…。」
「まてっ⁈そんな変な趣好はない‼︎」
「御堂の次女‼︎お主からも妾が教師だと証明してくれっ‼︎このバカが妾を姪っ子とか抜かし始めたのじゃ‼︎これでは満足に腹が満たされぬのじゃ‼︎」
「…はぁ。ナツメ先生。悪戯ばかりしてますと桜をけしかけますよ?」
そう言うと楓は後ろにいた桜の襟首を掴み、ゴーと命じる。すると桜は犬の如く猛ダッシュでナツメに飛び付き、その背中に張り付いては頬ずりを始めた。
「わ、わかったから‼︎刀奈ちゃんは教師だから‼︎てか桜離れろ‼︎流石に2人は重いっ‼︎」
「桜、ハウスっ。」
「だが断る。」
「押入れ…。」
「わんわんっ‼︎ハウスだわん‼︎」
楓の謎の威圧に根負けと言うか即座に折れた桜は楓の元へと戻り、ナツメは刀奈を降ろして食堂のおばさんに改めて刀奈を紹介する。するとおばさんは驚きながらも刀奈に謝り事無きを得た。