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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、奪還する。
69/110

7-9

祝勝会も終わり一同が寝静まった夜。

ナツメは肉体こそは治りはしたが未だ癒えない精神的な疲労のせいもあり、深い眠りについた。

だが、暫くしてナツメはある声に起こされる。


ー弱き者よ。己の命を賭してまで忌むべき敵を倒した汝の今はどうですか。ー


正直疲れ果てて動きたくない。だが、それ以上に達成感で満たされていた。


ー強さを求める者よ。かつて魔王を倒した汝よ。世界に改革を求めた魔王と違い、貴方は過去に何を求めたのですか。ー


ただひたすら強くなりたい。そして魔王を倒したいと願いその為の力…いや仲間を求めた。


ー弱さを捨て強さを求まんとする者よ。汝の未来に求める物はなんだ。力を欲し、目的を果たした後に求める物はなんだ。ー


奴らを倒す力を得て、倒し終わった後に求める物…。さらなる高みしかない。何事にも揺るがない不動の強さ。魔法という概念の至高を求め、自身にある探究心の全てを叶えたい。その果てに望むものはない。何故ならー


『それが全てを知るという事になるからだ。』


唐突に響く明確なテレパシーに体を起こすナツメ。その発信源は分からないが、忘れもしない声だった。


「奴が…既に復活したのか…⁈いや、しかしそれならば分かるはず。奴の魔力は『死ぬ程』受けたから分かるはずだ。」


嫌な予感を振り切る様に首を振る。最悪な状態は起きていないはずと理解してはいるものの、突如よぎったテレパシーに対しての不安感は完全には拭えなかったナツメは2人を起こさない様そっと抜け出し、窓を開けて外を眺める。外は夜の帳を降ろしきり、1つも欠けることのない満月が見下ろしてきた。


「何とも綺麗な月だ。魔力が満ちる位に。」


実際は然程変わらぬ月の満ち欠けではあるが、それでも自然と魔力が高まる感覚へ陥る程に綺麗な月に微笑みつつ、頭をさっぱりとするために深呼吸する。すると不安な気持ちは綺麗に抜け落ち、安堵感がこみ上げてくる。やはり月は太陽とは違った温もりがあると感じる瞬間だった。


「さて、もう一眠りしよう。明日には戻らなければならない。」


一通り気持ちが落ち着いた所で再びベッドに横になる。先程の声は久しく命をかけて戦ったが故に聞こえた幻聴だろうと納得し、ナツメはその眼を閉じた。


翌日。

デジャヴの様な体の重みを感じて起き上がると、ナツメの肩に頭を乗せる2人の寝顔が。というかルナに関してはナツメの上にうつ伏せで寝ている。相変わらずの寝相の悪さだった。

そんな2人をずらしつつ、一足先にナツメは部屋を後にする。そのまま廊下を進み、頭を目覚めさせる為に朝日を浴びる為に外へ出ようと玄関に着くと、そこにはセラフィムが同じ様に外に出ようとしていたので声をかける。


「おはようございます。お出かけですか。」


「これはこれは。昨日はお疲れ様でした。

日本の7神柱は倒れたので、私は一度自国に戻ろうと思います。他の動きも気になりますからね。」


「成る程。短い間でしたが一緒に戦えて光栄でした。また。」


「こちらこそ。いい刺激になりましたよ。では。」


2人は握手を交わしつつ、外へ出る。その後、ナツメに見送られながらセラフィムはテレポートを行い、その姿を消した。


暫く敷地内を散歩しているとナツメは自分の影に対し若干の違和感を覚える。その感覚に気づいたナツメは、訝しい表情をしながら影を見つめると、その影は逃げる様にナツメの目線から外れた。


「…母上。その方向は太陽と同じ位置ですよ。」


影を逃せるのはこの世でも1人しか居ない。ジェシカを呼び、溜め息をつくと申し訳無さそうにするすると顔を出した。


「あのね、息子の心配しない親なんて居ないのよ?だからナツメちゃん怒らないで?」


「何も言ってないですし言い訳早すぎますよ。」


ナツメに怒られると思ったらしいジェシカは土下座をしそうな勢いで謝りながら言い訳を始める。それを見て苦笑いしか出てこなかったナツメは、ジェシカを蔑んだ目で見つめつつ無事を報告する。すると、その眼差しに頬を染めながらジェシカは安心した様子を見せ何故か帰ろうとはせずナツメを見つめる。


「…あれ?何か他に用があるのですか?」


「ええ、少し入り用なのだけど。ナツメ、少し良いかしら?」


先程とは打って変わって真面目な表情になるジェシカ。その様子にナツメも生唾を飲み込み、次の言葉を待つ。


「私の勘なのだけれども。最近ナツメは新たな力の導きを得ているのではないかしら。」


「…?と言いますと?」


「そうね…。さっき貴方の影に入ろうとすると何かの抵抗を受けたのよ。私の闇魔法…特に影を使った魔法は現段階で使役者は居ないはずだから抵抗するには余程の力が必要なのよ。尤も、ナツメが私の事を強く拒めばある程度は抵抗可能なのだけど…それをもし行っていないのであれば、無意識でも私を超える何かの存在が貴方に力添えしようとしているのよ。」


「俺がそんな力を…。確かに来るとは思っても居なかったので、何の抵抗も出来ませんでしたよ。ましてや基本入浴中とか就寝中以外で母上を拒む理由はあまり無いですし。」


「私としてはどちらも拒んでほしく無いのだけれどなー…。」


アホな事を言い出すジェシカを目で諌めつつ、ナツメは新たな力について考え始める。その際一番最初に思い浮かんだのは以前魔力を使い果たした際に聞こえた声だった。


「まぁ…新たな力かは不明ですが最近疲れ果てると声が聞こえますね。柔らかな…それでいてどこか神々しい声が。」


「成る程。流石にそれだけでは分からないわ。けれどもしそれが貴方の新たなる力ならその声を必ず逃さないことね。逃がせばそれは2度と現れないわ。」


ジェシカの提言に頷きつつどうすれば良いのかわからないナツメは、とにかく次に聞こえた時はこちらからも何か聞いてみようと考える。その間ジェシカは舐める様にナツメを見つつ、少しニヤけた後に再びナツメの影に身を隠して帰って行った。


いつの間にか帰ったジェシカに対し、呆気に取られつつもナツメは体を少し動かして解した後に再び焔の部屋へと戻る。するとそこにはルナの凶悪な寝相によって羽交い締めに合っている焔がおり、涙目でナツメに助けを求めていた。


「し…死ぬかとおもった…。」


ルナの凶悪な羽交い締めから解放された焔は、ナツメに抱きつく様にしがみつきつつルナを睨みつける。だが、当のルナは御構い無しにベッドを占領しまるで勝ちほこるかの様な寝顔で寝続けていた。


「すまん、教えるのを忘れていた。」


「忘れていたって…一緒に寝た事あるみたいな言い方だな。」


焔の質問にあっさりと頷いて返すと、ショックを受けたのか焔はよろよろと立ち上がり壁にもたれかかって俯いていた。それを気にせずナツメはとりあえずルナを起こし、朝食後出発の意志を告げようとする。だが、最凶の寝相をもつルナはナツメが手をかけた瞬間その腕を掴み


「私に触ろうとは…良い度胸だ…。」


「いでででっ⁈お、おいルナ‼︎起きろバカ‼︎」


その手首を捻り、ナツメの背中で関節を決め始める。そして余りにも大きなナツメの悲鳴に目を覚ましたルナは


「………ぁ…。」


「…ルナ、言い残した言葉はあるか?」


手を離し、青い顔をしながら引きつり笑顔を見せるルナに対し、青筋を立てながら満面の笑みでルナを見つめるナツメ。次第にルナは涙目になり、後退りするも、壁際まで追いやられて逃げ場を無くす。


「ひっ…⁈」


「優等生のルナよ。この後に起こる出来事を答えなさい。」


「…っ鉄拳制裁…?」


ゴチーンッ‼︎


ルナが答えた瞬間、ナツメの拳がルナの頭を捉え、その美しい髪の中でも分かるくらいにたんこぶを作る。

その痛みに声すらあげる事も出来ずうずくまるルナに満足したのか、ナツメは手を払った後に扉の前へと行き、朝食の誘いを2人にする。

別々の理由で涙目の2人は静かに頷き、ナツメの後へと続いた。

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