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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、奪還する。
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7-7

立ち上がった藤堂に反応するかの様にナツメはゆらり…ゆらり…と塀から這い出ては揺れながらこちらへ歩き出す。その動きに生気は感じられず、彼を暴走させている大幅な魔力がまるで意志を持っているかの様に動いていた。


「学園長、来ます‼︎」


「ーっ‼︎」


「グァァァァァッ‼︎」


そして2人をその虚ろな双眸で捉えた瞬間。大嵐の如く吹き出した魔力の奔流に思わずたじろぐ藤堂。だが、ただの一歩下がる事すら妥協出来ないこの状況故、自身の太ももに自らの雷魔法を流し込み喝を入れて耐える。直後。ナツメは以前凛音とミリアムが協力して作り出した炎の龍をその身1つで作り出し、ルナと藤堂に振りかざす。その大きさは凛音達のそれ以上に大きく、力強くうねり、その巨大な顎で2人を喰らわんと襲いかかる。


「ルナ君、合わせなさい‼︎『雷神槌打トールハンマー』‼︎」


「はいっ‼︎『串刺光帯レイニードル』‼︎」


対して藤堂が放った魔法は龍の上顎を地面に縫い付ける勢いで打ち下ろされた一筋の巨大な雷で、それにより体勢を崩した龍はその体をルナの魔法により全身を貫かれ消失する。だが、それを予見していたのかナツメは更に炎の龍を生み出し、その隣に対となる様に水の龍を生み出した。その水の龍に対し、藤堂は再び『雷神槌打』を放つ。だが、放たれた雷は水龍を沿う様に流され、その姿を消してしまった。


「っ…‼︎どうやら水の龍は純水でできているみたいです‼︎私の魔法ではいささか無理がありそうです…っ‼︎」


「って言われても私の魔法も屈折させられます‼︎」


「く…っ万事休すか…‼︎」


純水は絶縁体であり、水は光を曲げて通す。その点を考えると、2人にとって最大の天敵であり、これには流石に苦笑いをするしかなかった。2人は炎龍の方を処理しつつ、水龍の動きに気を配りながら動く。しかし、それをナツメは許す訳がなく


「ガァァァァァッ‼︎」


「ッ‼︎水龍がこっちに来てます‼︎」


「く…っ‼︎ルナ君、防御魔法をー」


「『鳳凰昇華フェニックスロード』‼︎」


「風祭首相‼︎」


「全く。光も雷も効かないなら蒸発させればいい。手助けは今回だけだぞ。」


水龍が藤堂達を水没させんと巻きついた瞬間、一羽の鳳凰が水龍の体を貫き、その身に宿す高温で水龍の体全てを蒸発させた。それにより事無きを得た2人は焔に感謝しつつ、ナツメ本体に向けて魔法を放つ。


「お返しです坊ちゃん‼︎遍く雷雲、怒濤の轟音。かの雷光は絶え間なく、天をも裂いて落下する。食らいなさい‼︎『雷撃連打ライトニングバレッジ』‼︎」


「こちらも‼︎『光弾連射ガトリングレイ』」


ナツメに向かい連続で飛来する雷と光弾。正しく嵐の様な魔法の応酬にナツメは回避すら許されずにその身に何度も受け、その度に仰け反り吹き飛び、地に伏す。だが、それでも終わらない魔法の嵐は彼の生命力をことごとく削り取り、その度に魔力が代用されていく。

やがて、土煙を巻き上げながら放たれていた魔法が止み、辺りは静けさを取り戻す。その中央では未だ地に伏したまま起き上がらないナツメが。


「…やりましたかね?」


「『殺りました』じゃない事を祈るけど…。」


確かな手応えに2人は肩で息をしながらも冗談を交えて次の動きを待つ。だが、一向に起き上がる気配がないナツメに最悪の想定をしてしまったルナはその足を彼の元へと運び始める。そしてその生死を確認しようと背中越しに耳を当てた瞬間ー


「…っ⁈」


「ルナ君‼︎」


体を起こし、首元に手を当て、ルナに魔法を打たせない様に両手を掴んで立ち上がるナツメ。その様子に慌てた藤堂は魔法を打とうとする。しかしそれをルナは首を軽く振って抑える。


「…敵の生死の確認は…近づいて確認ではなく、高威力な中級魔法を放ちその反応を見て確認する事。…っでなければこの様に束縛され逆に命を奪われるぞ…ルナ。」


「っ…先生…っ先生っ‼︎ナツメ先生…っ‼︎」


「坊ちゃん…っ‼︎」


「ナツメ…っ‼︎」


息を切らしながらルナに指導するナツメ。それを聞き、掴まれた両手をすぐ様解除し抱きつくルナ。その表情は完全に涙で崩しており、ナツメの胸で泣きじゃくる彼女の頭を軽く撫でつつ、藤堂や焔達に目を送る。


「あれだけの攻撃を食らいやっと正気に戻ったか…。益々凄まじいタフネスだ。勇者ナツメ。」


覚醒状態のナツメの耐久力に賞賛を送りつつ、ナツメの無事を喜ぶセラフィム。それに苦笑しつつもナツメはルナを抱えたまま頭を下げ


「心配おかけしました…。助けて頂きありがとうございます。」


「いえ…いえ…っ‼︎坊ちゃんは私を助けに来てくれたので…っおあいこですよ…っ。」


「私は何もしてないがな。…とはいえ雷神の目に涙か。年老いたな。」


焔の照れ隠しに苦笑する一同。そしてナツメの無事を完全に確認した一同は


「改めて俺らの勝利だ。…辛勝ではあったが大いに喜ぼう。帰るぞ‼︎」


『おおーっ‼︎』


傷だらけでボロボロな状態ながら、拳を天に掲げ記念すべき勝利を祝った。

だが、何か忘れている気がするナツメが頭を捻る。すると焔は思い出したのか慌てだし


「ああっ‼︎炎堂の娘達‼︎」


「あっ…。」


急いで凛音達のいる門付近へと足を運んだ。するとそこには門の付近で座り込み、心配そうな顔をしながら待つ凛音達の姿があり…


「すまない、待たせたな。」


「ナツ…貴様なぜ生徒会長を抱きしめているんだ?」


泣き止んだ後もナツメから離れようとしないルナを見て即座に不機嫌になる凛音。それを見たナツメは苦笑しつつ、事の顛末を話す。すると呆れた表情をした鈴蘭が口を開き


「…それならば私達も呼べば良かったのに…。ルナ?何故1人でやろうとしたの?私はMK5ですよ?」


「う…っだって…っ。ところでMK5って?」


「マジで切れる5秒前です。」


「…。」


「御堂の次期当主よ。お前の家は古き良きを貫いているが何でそんな死語を…。」


決して今年18の少女が知るわけもない言葉を使う鈴蘭に焔は呆れ、その間にもナツメからルナを引き剥がそうと凛音と心菜が争い始める。それを見て笑うセラフィムと藤堂。そしてその全体に苦笑するナツメと時丸。


「なんだか…死闘の後とは思えない程いつも通りですね。」


「ああ。…だが、それがお前ららしくて好きだぞ。」


ナツメの言葉に少し照れる時丸。それを見た心菜が鼻から愛の赤い薔薇を、咲かせつつ卒倒する。本当にいつも通りで愉快な生徒だ…と思いつつナツメは傷だらけの顔で頬を緩ませ


「そんなわけで、改めて勝利おめでとう。お前らのお陰だ。よくやった。」


『はいっ‼︎』


「焔首相もセラフィム大統領も藤堂先生もお疲れ様でした。」


「…うん。」


「ええ、ですがお互い様です。」


「こちらこそ、ですよ。」


そしてナツメは大きく口を開き


「では改めて。傲慢討伐並びに雷神確保計画。大成功だ‼︎」


『はいっ‼︎』


一同は誇らしげに傷だらけの体を引きずり、笑顔で円覚寺を後にした。

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