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周囲に魔法を撒き散らすナツメをルナは防御魔法で弾きつつ、ナツメに近づく。そしてその体を抱きしめて動きを止めようとするも
「っ…熱っ‼︎」
その体はまるで炎そのものの如く熱されており、ルナは反射的に手を放してナツメから距離を取る。
物理的に止める事はどうやら難しいと判断した彼女は、ナツメの体を光の帯で束縛し始めた。だが、それで繫ぎ止めれたのも数秒程で、すぐさまその束縛を解除されてしまう。
「ァァァァァァァァァアッ‼︎」
ナツメの叫びが木霊する。そしてそれは新たな魔力を呼び、その在り方は魔法へと変わる。その魔法は暴力となりルナへと襲いかかった。だが、ルナはうめき声1つあげること無くその魔法を受け切る。いや、そんな魔法を守る必要すらないとでも言いたげなルナは、その体がスス焦げ傷つき凍傷を起こし泥塗れになっても真っ直ぐナツメを見つめる。
「そんな魔力を制御出来ていない魔法なんて痛くも痒くもありません‼︎ただの一生徒を倒せない魔法なんて、先生の魔法じゃないです‼︎」
ナツメの体を貫く幾数の光。ナツメにダメージを与え、生命力を削る事によって有り余る魔力を生命力に変換させる目的で放たれたそれは、暴走したナツメの判断力では防御する事すらままならずその体を吹き飛ばし地に伏せさせた。
「弱い‼︎今の先生はただただ弱いです‼︎こんな先生なんて嫌いです‼︎」
「グゥォォッ‼︎」
ルナの言葉に反応するかの様に隕石の如く巨大な氷塊を幾つも降らせるナツメ。だが、その1つ1つを全て光魔法で撃ち落とし、熱で溶かし切ったルナは更にナツメを撃ち抜き、その体を何度も貫く。
その度に吹き飛び遂には敷地の奥にある塀へと体をめり込ませた。
一方、ナツメの解放をルナに任せた焔とセラフィムは、暴走中のナツメを圧倒するルナに驚きつつも縛られた藤堂を助け出し、彼の口に活力薬を与えつつその様子を見守った。
暫くして噎せながら意識を取り戻した藤堂は、辺りを見回して仰天する。
「か、風祭首相とセラフィム大統領⁈わざわざお二人が出るなんて…‼︎」
「私達だけではない。魔法先進国のうちロシアを除いた全てが動いている。まぁ中国は自衛状態だがな。」
その状態に更に驚き、事の詳細を2人から聞く。その後、深い溜め息と共に考えを巡らせるも、周囲の音に気付き更に驚く。
「なっ…坊ちゃんがなぜルナ君と⁈」
「あー…あれだ。ちょっと暴走中と言うかだな…。」
焔が言いづらそうにしているのを見て、セラフィムが口を開く。傲慢戦で起きた事の詳細を1つ1つ聞く藤堂は内容が進む度に暗い顔になったり、喜んだりと転々とするも、ナツメが一度死んだ後の事を話し始めると彼の顔は険しさと悲しさを帯び、その目はまるで自身の孫が傷付きながらも戦い抜いた姿を目の当たりにし、感極まったかの様に涙を溜めていた。
「坊ちゃん…っ‼︎私の為に…っ‼︎そこまでして…そこまでしてまで私を助けて頂けるとは…っ‼︎」
その言葉に焔は首を振る。
「ナツメにとってそれは当たり前なんだと思うぞ。雷神、貴方は彼の師であり、先生だ。教師を助けれるのは、その教師か生徒しか居ない。まぁ、半分はオークスの娘の受け売りだがな。」
「…っ‼︎」
「お、おい‼︎」
その言葉を聞き、意識を取り戻したばかりだと言うのに藤堂は走り出す。自分が今出来ることは何か。出来の良過ぎる弟子を持った彼ができる事。それは考えず答えは出ていた。今自分が出来るのは、彼の師として止める事であるとー。
「ルナ君、私も手伝いますよ。」
「がっ学園長⁈しかし…っ‼︎」
「坊ちゃんが私の為に命を賭けたのならば、その恩返しに命を賭けなければ教師とは言えませんからね…‼︎」
「…っはい‼︎」
「いい返事です。では行きますよーっ‼︎」
ルナの隣に立つ藤堂。その眼差しはかつて雷神と恐れられ、風祭風雅と肩を並べて戦い抜いたあの日よりも鋭く、しかし何処か優しく温かいものだった。