7-4
ナツメを貫いた光と闇の魔法は、彼の心臓を貫いた後消えていく。貫かれたナツメは、その場で硬直したまま地に伏した。
「ナツメェェェェ‼︎」
セラフィムは傲慢の前である事を気にせずに駆け寄る。だが、貫かれたナツメは返事をせず体を動かす事なく倒れこんでいる。
「しっかりしろナツメ‼︎こんな所で死ぬ訳にはいかねぇだろ‼︎」
「無駄だ。我の『暗黒光槍』の一撃は確実に入った。心臓を穿たれた者が動くわけがない。」
ルシフェルが余裕を見せその両手に光と闇の魔法を再び作り上げる。それを見たセラフィムはルシフェルを睨みつける。だが、次に口を開いたのは2人ではなく、心臓を穿たれた筈のナツメだった。
「全く…。俺も鈍っているな。こんな所で殺られるなんて。」
「ナツメ⁈お前生きてるのか…⁈」
「いや、今は『死んでる』。だが、丁度いい。セラフィムさん。これが俺の『切り札』だ。」
瞬間。ナツメの体が眩く光り、その全てが穿たれた心臓に集まる。そして穴の空いた左胸を癒し、その体に尋常ではない魔力を集める。
「何…?何だその魔力は‼︎」
「俺には1つ、両親の様な独自魔法を何でも生み出せる力ではなく生まれながらして持っている禁忌魔法がある。俺の母上が胎内で宿してくれた魔法であり、世界最高峰の蘇生魔法だ。」
「何だと…っ⁈しかし、どんな文献にもその様な魔法は…‼︎」
「当たり前だ。これは俺の母上が『俺の為だけに』作り出した魔法。名前すらつけずに使った偶然の産物。子を守りたいと思う親の気持ちが放つ独自魔法…『魔生還元』だ。因みに命名はこないだ母上がした。」
ナツメの帰省時。ジェシカに教えられた真実は驚きのものだった。彼女自身何らかの魔法を与えてしまい悩んでいたらしいが、魔王を討伐した時に起きた現象を話すとその様に言われた。ナツメ自身半信半疑ではあったが、再び現れた現象を見て、確信した。
「俺は、この能力がある限り魔力と生命力。共に無くならない限り死なない。更に、この状態の俺はー」
刹那。ナツメの魔法がルシフェルの腕を刈り取る。知覚すら出来ない早さだった。そしてナツメはその腕から魔力を吸い取り
「『相手の魔力を還元する事ができる』。故に負ける事は無い。」
「グォォッ…⁈な…何をした…っ‼︎」
明らかに焦りを見せるルシフェル。だが、先程以上に魔力が上がったナツメは止まらず
「この状態は他にも身体能力と基礎魔力も上昇している。うちの最速生徒にも引けを取らない早さを出す事が出来る。」
話しながらルシフェルを巨大な炎の竜巻で覆う。その姿にセラフィムは言葉を失い、ルシフェルはただただ唸るばかりだった。しかし、やられてばかりではいないルシフェルも魔力を組み上げ応戦する。
「我が…‼︎貴様に負けるなど無い‼︎」
「ありきたりな負け台詞を有難うよ‼︎」
無詠唱で放たれる魔法の応酬。炎が凍り、大地が巻き上がり、風が燃え、水が土に飲み込まれる。互いに出せる必殺の魔法を打ち合い相殺し合う壮絶な状態。その姿にセラフィムは息を飲む。だが、その中でもルシフェルは別方面からアプローチをかけてきた。
「貴様など…貴様など我が人形の糧にしてくれる‼︎動け‼︎『死霊兵団』‼︎」
ルシフェルが叫ぶと彼が食し積んだ死体の山が動き始める。その一人一人はよく見ると今凛音達が戦っているであろう巫女達と同じ格好をしており、それぞれ立ち上がると太陽の煌めきに似た矢を放ち始める。しかし、そこはセラフィムが立ちはだかり
「雑魚の相手は俺がする‼︎ナツメ、親玉を任せたぞ‼︎」
「助かる‼︎潰えろ‼︎傲慢ー‼︎」
ナツメは叫びながら自身の限界量をはるかに超えた多重詠唱…六重詠唱を行い、同時に放つ。その1つ1つが上級混合魔法であり、対人としてはオーバーキルに近い魔法だった。
「死ぬのは貴様だ‼︎勇者ナツメェェェ‼︎」
それに対しルシフェルも気合いで魔力を練り上げ、六重詠唱を行い魔法を放つ。再び衝突し合う魔法と魔法。それぞれがせめぎ合い、爆発を起こし双方にダメージを与える。だが、ナツメはその足を止めず走り抜け
「その身に刻め‼︎禁忌魔法‼︎『大地鳴動』‼︎」
「く…っ‼︎死に晒せ‼︎『失楽堕天』‼︎」
2人の最高峰魔法がぶつかる。轟音を轟かせ、周囲を弾き飛ばしながら魔法は互いの魔力を喰らい合う。眩い光を放ちながらせめぎ合う2つの魔法は、均衡を崩さんと術者の魔力を搾り取りながら互いに押し合う。
「ウォォォォォォッ‼︎」
「オノレェェェェェェェッ‼︎」
2人の叫びが響き、その均衡が破れた瞬間、辺りは真っ白に包まれた。
その中で1人だけ拳を掲げ立っていたのは
「勇者は負ける訳にはいかないんだ。守る者があるからな。」
紛れもなく勇者ナツメだったー。
一方、少し時は遡り、ナツメ達に任された凛音達は巫女達に対して防御魔法を展開しつつも攻めあぐねる状況だった。
「くそ、あの首相何をもって炎が苦手だと言ったんだ‼︎ひとつも効かないではないか‼︎」
先程から凛音が浴びせる魔法は全て風で弾かれ、他の魔法を鈴蘭が放っても避ける事すらせずに無効化していた。
だが、その違いに違和感を覚えた心菜が凛音の肩を叩く。
「あの羽生えている人。さっきから炎魔法だけを魔法で弾いてるの。つまり、炎魔法に対しては無効化できないのでは?」
心菜の発言に納得した凛音。だが、それでもダメージを与える事は出来ておらず防戦一方だった。
「せめて周りの巫女を何とか出来れば良いんだけど…。」
鈴蘭も周りの巫女さえ何とか出来れば、彼女の起こす風から炎を生成する事くらいは出来る。しかし、今の状態でそれを行うと、魔法を放つ前に身体中が風穴だらけになってしまう恐れがあった。
「…それならば僕と夢見さんで何とか出来るかも知れません。鈴蘭先輩、時間を少しかけても大丈夫でしょうか?」
すると、時丸が珍しく自ら意見を言いだす。余程自信が有るらしく、その目には気合いが宿っていた為鈴蘭はその提案を呑むことにした。そして時丸は心菜に耳打ちし…
「それ良いですね‼︎思い切りやりますよ‼︎」
目が輝いた心菜を見て、凛音も即座に魔法を打てるように準備を始める。そして、2人の時間を取る為に凛音は再度炎魔法を放つと、呆れた様に風で弾いた女性は
「いつまで遊んでるのかしら…?そろそろ死に絶えなさい。」
苛立ちを重ねつつ、鈴蘭が張る水のベールに矢を打ち続けさせた。しかし、次の瞬間
「こちらから反撃です‼︎『超速遅延』‼︎」
4人が早くなる…否、自分達が凄まじく遅くなっている事に気づく。だが、当然対応出来るわけが無く
「秘めし鎮魂、生まれし幻夢。魂の流れに背く夢魔よ、その一時の安らぎを死に替えん。三途の川辺に巣食う鬼よ、かの魂を迎え、その魂を喰らわん。敵対し生きる者を死に絶やせ…‼︎『夢喰・永年鎮魂』‼︎」
迫り来る心菜の上級事象魔法に巫女達は全員襲われ、夢の中で死に絶えた。