6-10
一同が放った魔法に対応出来ずに偵察部隊は逃げる間も無く死に絶える。無論何人かは生き延び、報告する為にその場から離れようとするも
「逃がすかっ‼︎『時間停止』‼︎」
テレポートする直前に止められる。その結果、上半身のみテレポートし、下半身はその場に残る。すると、『時間停止』が切れた瞬間にさの切断部からは血が噴き出し、ぽとりと音を立てて落ちていった。
7神柱との前哨戦に近い形での勝負は一切の妥協を許さずナツメ達の圧勝で終わる。しかし、勿論その結果に満足しない一同は喜びを抑え足早に目的地である円覚寺へと向かった。
食事を取ってから30分。
一同は道中に仕掛けられた古典的な罠を避けつつも進行していると、赤塗りされた門を見つける。目的の円覚寺だった。
「…この先は完全な敵地だ。襲撃は回避できない。良いな?」
門の手前10m程で一同は再度集結し、精製した活力薬を口にしつつ万全の体制で足を踏み入れる。すると
「ーッ⁈な、なんだこれは…っ‼︎」
明らかに空気が変わる。敷地内に入った瞬間襲いかかる紛れも無い死の臭い。
刀奈が放つ悪意なぞ子供が睨んだかの様な程小さく感じる程の濃密な殺意。
対峙する前から分かってしまう程の圧倒的な死の圧力に次の一歩を戸惑ってしまう位にそれは重くのしかかり、生徒達はおろかナツメ達ですらもその場に縫い付けられる。だが、足をいつまでも止めていられる程事態は和やかでは無い。気圧される心に鞭を打ち、一歩、また一歩と歩き出す。すると
「招かれざる者。立ち去りなさい。ここは選ばれた者しか立ち入る事が許されない土地だ。」
10人程の巫女を連れた1人の女性が現れる。しかしその姿は異形とまでに人間離れしており、見た目こそ美しいものの背中には烏のそれを巨大化させた様な漆黒の羽が1対付いていた。
「其方らは主に呼ばれてはおりません。この場を離れなさい。さもなくば其方らの命奪います。」
静かに、しかし激情の籠った殺意を飛ばす。だが、形こそ異形だがただの1人が放つ殺意など恐れもしない一同は下がるどころか前へ踏み入る。それを返事と見た女性は
「『八咫烏』の命により戦闘を許可します。日女達よ。穿ちなさい。」
後ろに控える日女と呼ばれた巫女達に命令をする。すると彼女達は一斉に弓を構え
『天より穿て、太陽の光。月弓より跳ね、その輝きを示せ。『日輪天矢』‼︎』
一斉に光の矢を放って来た。いや、光というよりは太陽の様な熱を帯びた矢だ。触れた地面は沸騰し、壁や門に当たれば一瞬で燃え尽きる。自身に当たれば命など即時消えるだろう。それをルナと鈴蘭は前に出て
「その速さで光を語るなんて…甘いわ‼︎」
「火生水『表水・水幕御殿』‼︎」
巫女達が無尽蔵に放つ矢をルナが光速の矢で撃ち墜とし、魔力の無い足元のマグマから鈴蘭は味方全体を守る水のベールを作り出した。更に
「奴らが自ら破壊しているなら気にしなくて良い。凛音‼︎」
「当たり前だ‼︎『炎王蓮舞』‼︎」
凛音の得意魔法であり、全てを飲み込まんとする炎の蓮が巫女達を巻き込む。すると巫女達は矢を止め消火に当たろうとする。だが、それを羽の生えた女性が制止し、背中のそれで羽ばたき火を飛ばした。
「愚かな。『八咫烏』に火など通用しない。日女、続けよ‼︎」
「ーッ‼︎」
再び矢を穿つ巫女達。流石に何度も受ければ水は蒸発し、その面積をどんどん減らし始めていく。それを見たセラフィムが溜め息がてら立ち上がろうとー「熾天使、落ち着け。」
焔はセラフィムを制止すると、凛音、心菜、時丸、鈴蘭の方を向く。
「こいつらの狙いは恐らく足止めだ。理由は分からないが今即座に倒せる戦力が無い。出なければ早々にあの女が出てきて相討ち覚悟の勝負を挑むであろう。」
「確かに。ではどうする。」
「予定通りだ。私、ナツメ、熾天使、ルナで本殿へ向かう。その間ここで残りは戦闘だ。」
焔の提案にナツメが驚き、止めようとする。しかし
「奴らを止めねば挟撃に合う。それは避けねばなるまい。大丈夫。奴らを止めるのにこの子達程相性の良い者は居ない。」
絶対の自信を持って焔は言う。その自信はどこから来るのか分からないナツメは不安そうに焔を見つめる。すると彼女は苦笑しつつ作戦を話し始める。
「いいか、まずナツメ。残りの水と空気中に蒸発した水を使い高濃度な水蒸気の煙幕を作れ。その間に時丸、私とナツメ、セラフィムとルナに加速魔法をかけるんだ。その後、即座に私達は離脱。本殿へ向かう。これで行く。良いか?」
極めて合理的かつ現状打破に最適な采配だった。これならば敵を欺きつつ即座に本陣へと斬り込める。だが、生徒達だけに任せると言う点、そしてその中でも火力を出せるのが凛音しか居ない点で不安を感じたナツメは焔に意見しようと口を開く。だが
「そんな可愛い顔をするな。ナツメ、お前が各地で暴れていた間日本を守ったのは私だ。『姫将軍』と呼ばれた私の采配を舐めるなよ?勝算はある。何故ならー」
そこで焔は言葉を切り、羽の生えた女性を睨む。
「あの女は炎に余程弱いらしい。凛音、最高級の魔法でー必ず殺せ。」
焔の絶対的な自信には疑いなど一つもなく、その力強さは凛音にも伝わり釣り上げた口元で返事を返した。
「いいな。では行くぞ‼︎」
焔の気合の後、ナツメが放った水魔法により周囲は白い煙…否、水蒸気に覆われ、視覚を完全に遮断した。
「ー人知を超えた最速の彼方へ…‼︎『超過速度』‼︎」
時丸が魔法を唱えた瞬間、ナツメ達の視界は全てスローモーションとなり、その中で走る突撃組は風を超えた。