1-6
職員室に戻ると、そこには先に戻っていたらしいルイと科学担当のミシェル・ハーミットが何やら揉めていた。
「どうしたのですか?」
堪らず首を突っ込むレイナ。
どうやらトラブルに対して何かと行動しないと済まない性格らしい。
「どうしたもこうしたも無いですよ。マイケル先生が自分の紅茶を勝手に使って飲んでるんですよ。」
「そんなのここに置いておく方が悪いじゃ無いの。ここは共用のスペースです。」
どうやらルイの私物の紅茶をミシェルが飲んだ事に対して怒っているらしい。
しかし、ミシェルの言い分はもっともであり、ルイの紅茶が置かれている所には『共用スペースです♡』とレイナの字で書かれた紙が立てかけてあった。
「だからと言って自分の名前が書いてある紅茶をわざわざ飲む必要はないかと。」
確かに紅茶は幾つか種類があり、その中に分かりやすく『ルイ』と書かれた紅茶がある。
「私はイギリス人程紅茶にうるさくないからその紅茶の銘柄かと思ったわ。」
ミシェルがやれやれと肩を落とすと、その様子を見たルイがいきなり
「ミシェル先生。良いですか?イギリス人は別に紅茶にうるさいわけでも無いですし、そもそも紅茶の銘柄にルイなんてない事位常識です。そもそも紅茶と言うのは…」
と、何かスイッチが入ったかの様に紅茶について語り始めた。
「あー…こうなるともうルイ先生止まらないので私はこれで…。」
「レイナ先生、まだ話は終わってないですよ⁈」
すかさず逃げようとしたレイナですら捕まり、逃げる事も出来ずルイの紅茶講座を聞いている一方、1-Dでは。
「あの先生チートすぎてヤバい。馬鹿二人の魔法ですら止めるなんて…。」
先程雷の魔法を打った女子生徒…御堂桜は落ち込んでいた。
彼女はクラスでは基礎科目トップであり、魔法学もそれなりの成績を残しているものの、4大元素に対しての理解が乏しい為このクラスにいる。
と言うものの、彼女の一族は4大元素を元にした魔法ではなく、陰陽道に通ずる五行思想からなる魔法をくみ上げている為、実力こそはあれど世界が違うのだ。
そんな御堂の溜め息に対して反応したのは、馬鹿二人事ミリアムと凛音で
「「誰が馬鹿よ‼︎」」
と、息ぴったりに怒り始める。
この二人は実力こそ学年内トップであるが、各々の課題点が致命的過ぎるのと、基礎科目が一切ダメなタイプであった。
詰まる所魔法馬鹿。
とは言え、二人とも家柄上魔法に対して適性があるのは当たり前であり、更に自身の力を伸ばせていれば基礎科目がダメでも上級クラスに入っているはずであった。
「あんた達よ…。魔力が強すぎて制御できないバーサーカーと、「うっ…。」魔力を完璧に制御し過ぎて逆に威力が落ちてる精密機械よ。「うぐ…。」」
実際、桜の指摘はもっともであり、この二人の最大の弱点だった。
勿論、二人ともその弱点を克服しようと努力はしているものの、今迄の魔法学講師全てが匙をなげる程直せないらしい。
「そんなのだから才能の無駄遣いコンビだの言われるのよ…。」
「「ぐぎぎ…!」」
悔しいが反論する事が出来ずにいる二人を見かねたのか、クラスの男子の一人が立ち上がり
「まぁまぁ、その点ある意味ナツメ先生なら何とかしてくれるんじゃない?
御堂さん含め可能性があるよね。」
「確かに。貴様の平凡な能力も改善されるかもね。」
話しかけてきた男子に辛辣な言葉を送る。
ちなみに話しかけてきたのは張漢遂と言う少年で、地属性の魔法を得意としている。
しかし、直接誰かに威力があるわけでなく、防御壁を作ったりするのがメインの魔法である。
無論、敵に対する魔法も覚えてはいるが、基本使おうとせずそのせいでDクラス行きとなっていた。
そもそも、このクラス分けについて説明しておく必要がある。
私立藤堂魔法学園は、魔法学7割、基礎科目3割の合計点でクラス分けを基本行っており、それぞれの合計点に応じてS〜Dクラスに振り分けられている。
SクラスとDクラスの学生が受ける授業内容は基本的には変わらないが、魔法学の実践科目においてSクラスに近い程発展的な魔法を習得する事になる。
また、入学時点で普通使えるのは初級魔法がメインであり、稀に中級魔法を扱える生徒が居れば良い方なのだが、この中級魔法自体生涯で覚えれるのは全体の6割程度だという。
そしてクラス替えに関してだが、年に二回行われる。
一回目は夏の全校模擬。二回目は学年の変わり目の成績である。
二回目に関しては特に説明する事も無いが、一回目の全校模擬に関して軽く触れておくと、1チーム5人1組で各クラス6チーム出場し、学年内で優勝を決め、その後エキシビションとして1年2年の合同勝者チームと、3年のチームで戦闘が行われるものである。
こういったシステムにより、学園卒業後どのランク以上の生徒を求めるかを示している求人によって彼らの就職先や進学先が変わってくる。
その点今年の1-D…いや、1年生自体が豊作なのか1-Dの全ての生徒が中級魔法を扱える。
しかしながら、制御ができなかったり、そもそも威力が出てなかったりと色んな問題が見られた為Dクラスとなっていた。
話を戻そう。
こういったどこか問題がある生徒の溜まり場となった結果、才能だけはあるクラスとして有名になった。
「まぁとりあえず言えるのは、今のままなら全校模擬でも良い成績を残せるんじゃ無いかな。」
と、張が嬉しそうに喜んでいた。