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それから数時間して一同は近くのパーキングに車を止めて歩き始める。
近くと言っても白神山地に着くまでには数十分かかる。その為、足早に移動しつつも隊列を崩さないように気をつけていた。
「まずは捜索員が使っていたキャンプ地へ向かう。そこで改めて分隊編成し、即座に対応かつ迅速に行動出来るようにする。」
自身に身体強化をかけつつ、地をかけながら焔が話す。それを聞き無言の返事を行いつつ、一同も身体強化をかけて焔についていった。
その後、1時間ほど走った一同は息を切らす事もなくキャンプ地へと到着し、イギリスにて待機しているパシフィスタに声をかける。するとパシフィスタはイギリスと一同が居るこの地の次元を繋ぎ、裂け目から物資を届けつつもイギリスの現況について報告を始めた。
『予想通りと言うべきか、海底の奴が動き出そうとしておる。こちらもすぐには駆けつける事は出来まい。互いに連携を取れるように最大限は行うつもりだ。』
「分かった。次元王、こちらが早く済むか何かしらがあった場合そちらに人員を割く。嫌な予感がするからな…。」
『了解した。各員命を落とさぬ様にな。』
テレパシーはそこで途絶え、イギリス側も準備に勤しむ様子が見えた。どうやらあちらも臨戦態勢を取っているらしい。
配給された物資を一同に分けつつ、来る前から準備していたものに加え、各員に発煙筒やパシフィスタと龍膳のコンビネーションで作り上げた簡易罠『次元吸収』等を持たせつつ、万全の態勢を整えた。
「全員、準備はいいな?」
焔の声に頷き、ナツメはキャンプ地に魔法の杭を打つ。それにより鈴蘭達の探知魔法を行いやすくして帰り道に迷わない様にしていた。
「俺の杭は知覚したな?鈴蘭。」
「はい、大丈夫です。」
「全員万が一の為知覚しておけ。俺や鈴蘭が死んでも帰れる様にな。」
ナツメの言葉を聞いて生唾を飲み込みつつ頷く一同。しかし、それに怖気つく程彼らの心は弱くなく、刀奈によって強化されている為ちょっとやそっとの殺気では動じない。むしろ冷静さと緊張感を合わせた程よいコンディションになる様だった。
それを確認したナツメは軽く微笑み焔に任せる。
「それでは分隊するぞ。ナツメ、私、時丸、凛音と熾天使、ルナ、鈴蘭、心奈。戦闘はナツメ、私、熾天使、ルナがメインだ。他4名は後方支援と必要ならば戦闘介入。その時は私達ごと殺す気で放て。」
焔の言葉に一瞬表情が強張るも、ルナとナツメが同時に振り向き任せたとばかりに苦笑したので、了承せざるを得なかった。
「…まぁ、一番危険なのは熾天使だが。『堕天』する前に必ず教えろよな。」
「勿論。だが、相手によっては間に合わない可能性もある。いつでも俺が堕ちる前提で居てくれ。」
スイッチが入ると止まらないらしいセラフィムは、堕天具合によっては味方諸共一掃する可能性がある。その為、それ程の相手だった場合は即座に生徒達を逃がす算段である。
「分かった…。では話は終わりだ。そろそろ出るぞ。」
動きを決め一同は深呼吸をした後、互いに10m程離れて縦列して進行する。急な襲撃にも対応出来る様にする為である。そのまま進行し、獣道をかき分けて行く事2時間。丁度昼過ぎになった為見晴らしの良い場所で円になって食事を始める。
「…以前の授業で分かっては居たけど食事中も臨戦態勢って辛いわね。」
手軽なサンドイッチ等で食事を済ませつつ、ルナは冷や汗を流す。
いつ襲ってくるか分からない状況下では食事中はおろか、休息時ですら気は抜けなかった。
「以前の訓練は交代制で取っていたのだろう。正しい判断だ。しかし、この様に移動しながら、攻め手として動く場合はそうはいかない。守り手側の奇襲、防衛線との兼ね合い、味方の疲弊全てを考慮して動かなければならない。」
「こんなところでも授業か…貴様最近本当に教師になってきたな。」
戦略について講義を始めるナツメに呆れつつ凛音は、最後の一口を頬張る。そして周囲を見渡しすぐに全員を見て
「…見られているぞ。かなりの数だ。」
「ああ。見晴らしが良いところを選んで正解だった様だ。」
凛音の報告に焔が頷く。宗方達と行った訓練により大まかな探知をできる様になった凛音に感心しつつ、ナツメは
「一気に潰すぞ。時間はかけず、『自分の正面に向けて』一撃をかます。時丸は斥候の足止め、鈴蘭は誰でも良い。誰かの魔法を使いそこから大規模に魔法を生み出せ。心菜、殺して良い。凛音、ルナ。2人は遠慮するな。良いな?」
ナツメの言葉に目だけで返事をし、ナツメは口元を拭いたナプキンをゆっくり折ることによって魔法を打つカウントダウンを行う。
そして三つ折りにされた瞬間一同は立ち上がり
「放て‼︎」
ナツメの号令と共に彼らから50m先、敵の偵察部隊が周り囲んだ円を様々な魔法が通り抜けた。