6-7
一同は食事を終えた後、屋内にある大浴場で男女交代しつつ風呂に入り部屋へと解散した。
その後、ナツメは焔、セラフィムと共に応接室へと集まり明日の作戦について話し合う。
「風祭首相、捜索員の様子だと戦闘は行われていなかったのでしょうか。」
「ああ。彼らには魔法を使った痕跡は探知魔法のみで他はなかった。」
「…となると、道中は安全なのであろう。だが、ティアナの行動を見て攻勢に出る可能性もあり得るな。」
セラフィムの意見に頷く2人。道中の戦闘を考えつつ戦うとなれば、暫くの間凛音や焔など炎を使う魔法使いは戦わせれない。
白神山地は自然が多く、一度彼女らの火力で燃やせば大規模な山火事となる。そうなると人的被害以上に国の被害が大きくなる。あまりその様な事を言っていられる状態では無いのだが…。
「いざという時以外は使わない様に。私も風魔法のみ使う。」
「それでいこう。もし何かしら使う場合は俺も規模を抑える為の結界を張る。」
ナツメの心遣いに感謝する焔。次に3人は潜伏位置について考え始めた。
「潜伏位置については…おそらくだが人目につく場所では無い。多分だがその場所の奥深くに…」
「いや、白神山地は広大な自然が広がってはいるものの人が住み込んで隠れれる場所は限られている。その事を考え誰にも見つからない場所となると…。」
焔は考えつつ地形を思い出す。それから数秒後、思いついたかの様に顔を上げ
「円覚寺‼︎あそこしか無い‼︎」
焔は円覚寺の場所とその大体の見取り図を宙に書き始めた。
「この本堂内にならば隠れる場所を作れてもおかしくは無い。なんとも罰当たりな事だが奴らに罰など気にする通りなど無い。ここならば…あり得るぞ。」
「分かった。風祭首相を信じよう。セラフィム大統領もそれで?」
ナツメの言葉に二つ返事で返すセラフィム。行き先が決まり、戦闘になった場合有無を言わさず闘う趣旨であると伝えたナツメに、一瞬躊躇うも了承した焔はいよいよくる魔王復興軍との衝突に武者震いをした。
「ナツメ、戦乙女殿から一言預かっている。仲間を守り過ぎて貴方が死傷を受ける事が無い様に気をつけなさい。との事だ。」
セラフィムが鋭い目でナツメを睨む。その目に気圧されたナツメは頷くも
「それが生徒だった場合、俺は了承する事は出来ません…。今の俺は勇者である前に教師ですから。」
あまり教えては居ませんがねと苦笑しつつセラフィムに強い意志を見せる。それを聞いて溜め息を吐いたセラフィムは
「伝えるだけは伝えた。あとはお前次第だ勇者ナツメ。だが、命は大事にするんだ。」
嬉しさ半分、虚しさ半分と言った眼差しでナツメを見つつ応接室を後にした。
その後、焔とナツメも部屋に戻ろうとし
「…ナツメ、入る前に少し待て。」
「ん?構わんがどうした?」
扉の前でナツメを止め、自分だけ先に中に入る。それを不思議そうに見たナツメに対し焔は
「寝巻きに着替えるんだから待てと言ったのだ…。察しろ…‼︎」
ムッとした顔で扉を閉め着替えに行った。それを見て苦笑しつつ、扉の前で待っていると中からもういいとの声がしたので入ると
「…寝巻きも可愛らしいな。」
「しっ仕方無いであろう‼︎こんなのしか無いんだ‼︎」
ピンクの下地にポップなクマが描かれた寝巻き姿になった焔がベッドに腰掛けていた。その姿に吹き出すのを堪え、中に入る。すると焔は顔を赤くしつつベッドを指差し
「…先に入れ。後からはなんか恥ずかしい。」
「後も先も変わらんだろ…。まぁ焔が言うなら。失礼。」
言われるがままピンク色のベッドに横になると、すぐさま焔も横になりナツメにくっついて来た。
「1人用だからこうするだけだぞ‼︎」
「うん、まぁ見りゃ分かる。」
「…お前結構馬鹿だな。」
少し膨れた焔はナツメに抱きつきつつ、ナツメの胸元に顔を埋める。完全に逃げる事が出来なくなったナツメは困り果てたまま焔の匂いでいっぱいのベッドで寝ようと目を閉じる。だが
「…寝にくい。ナツメ?起きてるか?」
「…ん?どうした。」
「腕枕。」
「…。」
有無も言わさず睨みながら甘えてくる焔。その視線に脅迫的な何かを感じ取ったナツメは腕枕をしてあげると満足した表情で焔は抱きつく。
「よろしい。やはりナツメは良い子だ。」
「…はぁ。そういや昔もそんな事言ってたっけ。」
「そうだな。確かあれは私が16でナツメが12の時か。」
2人は初めてあった10年前の思い出を語り始める。丁度ナツメが修行の為に山に篭り、その様子を見るために来た風祭夫婦に連れられて来た焔と出会ったのが最初だった。
「ああ。あの時は確か…スカートが捲れるのも気にせず自ら風魔法を打って覗くなと殴られたんだっけ。」
「…すまない。」
「あと、夕食の時に食べた肉じゃがの人参が私より多いとか言い始めて殴られたな。」
「…うっ…。」
「それになんだっけ。焔よりも先に中級魔法を使ったとか言われて腹を立てた焔に殴られたぞ。あれ、お前…殴ってばっかだな。」
「うぅぅ…すまない…あの頃はなんかナツメに負けたくなかったんだ…。」
昔話に花を咲かせつつ、ナツメが訝しい目で焔を見たり、2人で笑いあったりと久しぶりの再会を楽しむ。すると、焔はナツメを抱き締める力をキュッと強め
「本当に色々あったな。良く生きて帰ってきてくれたよ…。」
「はは…っこれから死地に向かうってのに帰ってきた事を褒められてもな。」
それもそうかと笑う焔。そしてそのままナツメの肩辺りに顔を近づけ
「ナツメ…。明日は頑張ろうな。私とお前で雷神を救うぞ。」
「ああ。任せろ。奴らは必ず止める。そして、雷神を…藤堂先生を助け出す。」
ナツメは自然と焔の頭を撫で、強い眼差しで返事した。それを嬉しそうに受け止めた焔は、これ以上は明日に差し支えると言い2人は目を閉じて睡眠に体を預けた。
そして翌日。
「あの…。」
「〜〜〜〜〜ッあ、ああっ…なちゅめ…しゅ、しゅまな…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
寝ぼけてナツメの口に口付けをしてきた焔によって起こされ、完全に目を覚ました焔は朝から大声をあげて取り乱していた。