6-2
ジェシカ宅への移動は前回と違いパシフィスタの作る次元道によって行動を行う。移動中の襲撃等に考慮しての行動だった。そのまま家に着くとクリミナが既に待機しており、全員の数日分にあたる着替え一式と部屋の確保は既に行っているとの事である。流石は使用人の中の使用人だった。また、部屋割りは前回の事を考えた上で隣が時丸となり(よからぬ想像を始めた心菜の鼻から愛の鮮血が出たのは言うまでもない)ナツメは本気で安心していた。
その後、一息をつきナツメは刀奈に言われた時空魔法について考え始める。一つ考えられる手立てとするなら、超越魔法同士である時間魔法と次元魔法の混合魔法化、あるいは二重詠唱による同時発動である。
このどちらかの手段ならば求めている結果に似たものを起こせるであろう。だが
「(適正ではない超越魔法の混合、二重詠唱は不可能だ。)」
そもそも、両方の適正すらないナツメにとってそれはどの様な修練を行いどの様な犠牲を払っても不可能な事であった。つまり、それ以外の可能性…独自魔法としての時空魔法の完成しか手段はないのである。
深いため息の後途方に暮れるナツメ。すると、ナツメの影が揺らいで中からジェシカが顔を出した。
「ナツメちゃんどうしたのそんな難しい顔をして。まさか母との一線を越える為に…。」
「断じてないので悪しからずです。」
ジェシカの妄言を即答で切り捨てたナツメ。だが、独自魔法を次々と生み出すこの母や父ならばヒント位は掴めるかもしれない。
「実は時空魔法を編み出そうと思うのですが。」
「時空魔法ねぇ…。何でまたそんな魔法界における難題を。」
真面目なナツメの表情を汲み取ったのか、ジェシカも真剣な表情を取る。ナツメは、刀奈に言われた事をジェシカに対して言った。
「なるほどねぇ。確かに、ナツメは教科書通りの魔法を教科書通りに放つから分かる人には避けやすいわ。その点理解不能なまでに魔法を強める凛音ちゃんや文字通り光速で魔法を放つルナちゃんの方が戦いにくいわ。」
もっともナツメレベルの使い手ならば。と付け加える。だが、同時にジェシカは2人に勝てるのは2人がまだ未熟だからだとも言った。
「今のナツメはようやく限界に気付けたのよ。人より限界が遅いという事はそれだけ伸び代があるという事。まずは下手に考えるなら体を動かしなさい?本気で息を切らすまで打つの。それが出来てからやっと頭は動くわ。」
それだけ言うと少し名残惜しそうに影へと帰るジェシカ。それを見送りつつ感謝したナツメは、久しぶりに倒れるまで魔法を打つ為に訓練所へ足を運んだ。
訓練所に到着するや否やナツメは体に負荷をかける為にロクな準備運動もせずがむしゃらに魔法を放つ。ありったけの魔力を込め後先考えずに魔法を放ったナツメは、10分も経たないうちに床に倒れこんだ。だが、まだしっかりと保てている意識があるだけ余力は残っており、それすらも吐き出す為にナツメは無理矢理体を起こし、本来の威力の半分すらも出てない魔法を放ち続けた。
そうして何度も倒れる事約1時間。
完全に魔力を尽くしたナツメは息すらまともに出来ないほどに疲弊していた。
結果、ナツメはそのまま眠りについてしまい完全に意識が途絶えた。
ー力を持つ者よ。何故汝は高みを目指す。ー
気がつくとナツメは黒で埋め尽くされた空間にいた。
ー何故汝は届かぬ領域に手を伸ばし、神に至る頂へ登らんとする。ー
姿無き声が響く。聞き覚えのない、それでいてどこか懐かしい様な矛盾した声だ。
ー汝が手を伸ばす頂は触れてはならぬ領域。その世界にはあり得ぬものだ…それでも汝は求めるか。ー
戒めに違い言葉を放つ謎の声に返事すら出来ずにただただ聞き入るナツメ。それを気にとめる事なく声は続ける。
ー汝にその力を扱えるのならば、一部を分け与えよう。受け止める覚悟とそれに見合う器量はあるか。ー
覚悟はある。器量はわからない。現状で手に入れられる程自分が強いとは言えなかった。
ー相応の覚悟を示す者よ。足りぬ器量を手に入れた後にその片鱗を手渡そう。今はまだ時に非ず。再びこの境界に足を踏み入れた時汝が届く事を…。ー
声が遠のき、再び意識が遠のく。
暫くすると、再び訓練所の床で目を覚ましたナツメは、今のやり取りが分からず首をかしげるのであった。