勇者、会談する。
時は少し遡り、ナツメ達がイギリスから帰って来た頃。魔王復興軍として明かした御園瑛里華改め御祓瑛里華は彼女の上司にあたる男ー傲慢の神柱として君臨する男が住む社に到着していた。
「御祓瑛里華が到着した様です。」
社に仕える巫女が傲慢に伝える。それを聞いた男は中に通す様伝えた。
「ご無沙汰してます。傲慢の君。」
「…。」
「はい。ただ色欲の君に属するレイナを象った人形は壊されました。」
「…‼︎」
声も無く怒りを見せた傲慢はその厳つい目を血走らせ、周囲に強い殺意を撒き散らせた。
その強い殺意に押し潰されそうになり玉汗をかいた瑛里華は、改めて自身の上司の全体を見る。
3mはあろう巨体に鋭い眼光。そして、彼の足元に転がる『女性の死体』の山々が彼の異常性を表していた。
傲慢は溜め息をついて頭を抱え、近くに手頃な巫女を呼び寄せる。すると、まだ幼さの残る巫女がそれに応じ近づいてきた。
それをみた瑛里華は顔を顰め、顔を伏せて何も見ない様にする。直後、巫女の断末魔と共にぼとぼとッと水分を含んだ何かが落ちる音がした。顔を伏せたまま上目でそれをちらりと見れば、今まさに降りかかったばかりの鮮血と、まだ弱々しく動く心臓、そしてズタズタに引き裂かれた巫女の臓器が彼の足元に散らばっていた。
「ーッ‼︎」
直後、強烈に広がり始める血と死の臭いに瑛里華は吐き気を抑えつつも、傲慢の楽しみを邪魔しない様必死に耐える。やがて、事を終え足元に捨てられた死体が増えた事を確認すると瑛里華は顔を上げてあるものを差し出す。それは、彼女によって連れられた藤堂だった。その姿を見た傲慢はにんまりと口を広げ
「…、……‼︎」
文字通り声にならない喜びを上げていた。それにより自らにも先程の巫女と同じ運命が来ないと理解した瑛里華は胸を撫で下ろしつつ立ち上がり、傲慢の前から姿を消した。
「お疲れ様でした、御祓様。傲慢の君はどの様な様子でした?」
社から出ようとした瑛里華に1人の巫女が話しかけてくる。それをみた瑛里華は
「そうですね。今は比較的機嫌が良いですよ。ただ、1人補充しないといけませんが。」
「左様ですか…。かしこまりました。私も気をつけますね。」
「ええ、お互い気をつけましょう。じゃあね。」
巫女に手を振りその場を離れる。それを見た巫女は瑛里華に会釈し、中に戻る。そして彼の為に新たな巫女を探す為、彼女は翼を広げて飛翔した。
その夜、旧イギリス領土があった場所の海底500m程の地点では、何もない中1人ひっそりと佇む何かが蠢きだす。
同刻。ロシアに置いて何者も観測出来ない地点が発見されたり、各国の上空を物凄い速さで飛び回る謎の人物や突如として男性が居なくなる国まで出始めた。
世界の7箇所で、同時に何らかの力が放たれたのだ。
その報告が入ったのは、ナツメ達が施設から帰って来てナツメ宅で疲れを癒し自由時間を取っている最中にパシフィスタからの緊急伝令によるものだった。
施設内部は外部からの魔法を阻害していた為、連絡がつかず困っていたらしい。その事を謝りつつナツメ達は空港へ赴き緊急テレポートを行ってイギリス空都へと向かった。
イギリス空都に着くや否や、パシフィスタとジェシカが迎え入れイギリス政府官邸へと招かれる。
官邸には既にセルベリアともう1人、笑顔を絶やさずにいる男が待っていた。
「待たせたな。フランス女帝、アメリカ大統領。勇者とその生徒達だ。勇者、フランス女帝は説明不要だろう。こちらはアメリカ大統領、『熾天使』の異名を持つセラフィム・オーガスタだ。」
セラフィムは一例をするとナツメの手を取り喜びを露わにしつつ笑顔を見せた。対するナツメも笑顔で応じつつ、セラフィムの登場に驚いていた。
「状況はパシフィスタから説明頂いた通りです。ナツメ、7神柱と思しき魔力が各地で確認されました。早急に動く必要も考えられます。」
セルベリアは落ち着いた表情で、けれども険しい声色でナツメに話しかける。それを聞きつつも、状況を再度整理する為に一同は席に着いた。
「確認できた魔力の位置は日本、ロシア、旧イギリス領土海底、アメリカ南部、エジプト、南極、そして空です。これらの魔力は常人では考えられないほど強いもので、むしろ今まで確認出来なかった事に疑念を感じるほどです。恐らく彼等の中で魔力の撹乱を行える者が居るかと思います。」
セラフィムが額に汗をかきつつ説明を行う。そして捕捉するかの様にパシフィスタは立ち上がり
「そのうち、ロシアとエジプトは既に相手の手に渡っている可能性もある。何分首脳との連絡が一切つかないのだ。」
それを聞いたナツメは冷や汗を流しつつ、最悪の状態を想像する。いや、それ以上にもしかすると首脳会議にて対峙する可能性もある…。それを考えたナツメは振り向いて生徒達には待機を命じようと
「いくら先生の言葉でもイエスとは言えないですね。」
ナツメの表情から理解したのか、ルナが先に意見した。だが、危険過ぎる事なのでナツメは止めようとする。だが
「何の為に修行したのか。わからんぞ。」
次いで口を開いた凛音に咎められ、説得を諦めた。
その後、首脳会議の日程が変わった事、場所がイギリスの議事堂になった事を聞いたナツメは頷き、了解する。
丁度2日後に会議は行われるらしい為、一同は最終確認がてらジェシカ宅へと再度移動するのであった。