1-5
ホームルームも終わり、休み時間のチャイムが鳴ると
「それでは次は魔法学なのでこのまま着替えて訓練所へ移動してくださいね。」
と、レイナが言い、教室を去った。
慌てて、ナツメも教室を出るとそこには他のクラスから来た生徒がびっしりと廊下から教室を眺めていたらしく、ナツメが出たと同時にサインやら握手やらを求められる事態に。
それを想定していたのか、英里華が登場し、生徒を引き剥がしてはナツメを救出すると言う珍事件が発生していた。
「御園先生、ありがとうございます。あのままでは埋もれてました。」
改めて礼を言うと英里華は顔を一気に赤らめ
「ととと、とうじぇんの事ですよ⁈せ、先生がここ困ってたら対応するのががが」
と、相変わらずの神噛みを見せたので苦笑しつつも自分も訓練所へと向かった。
生徒より一足先に訓練所へ着くと、中を確認して思わず感嘆の音を洩らす。
常時張りつめられた制御結界に、自動修復の魔法がかけられた壁面。更に、上空での戦闘を想定した擬似的な空があり、この空間だけでも国家魔法師クラスが何人も手を尽くしたと分かる出来だった。
「(そういえばここ最近詠唱魔法は使ってなかったよな…少し試してみるか。)」
思いの外良い空間に、高ぶったナツメの心はすぐに臨戦態勢となる。
「(まずは得意な魔法から…。)織りなせ剣聖、遥か高みを望みし剣よ、闇夜を切り裂く光の剣とあれ。繰り出すは剣舞、舞い踊るは血肉、我が身に集え、数多の神技‼︎『剣聖憑依』‼︎」
ナツメが叫ぶと、一筋の光彼を包み、強烈な爆発音と共に彼の周囲には半透明な西洋甲冑を着た剣士や武者が現れ、彼自身も一振りの剣を手にしていた。
剣聖憑依は伝記に記された剣聖や剣客の剣術や体捌きを憑依する元によって変える近接系上級魔法で、ナツメの父が編み出し、ナツメ自身最も使った魔法でもあった。
「(うん、手応えは昔のままだ。そのまま…)燃え盛れ赤熱、降り積もれ蒼雹、一陣の緑風は千里を越え、豊かな黄土すら凌駕する。命の憤怒を意のままに‼︎『大地鳴動』‼︎」
更にナツメは、自身の母が開発し、世界最強にして最初の禁忌となった魔法、大地鳴動を発動する。
この技は四大元素全てを極め、その制御を完全に行う事で相殺させずに一箇所に留めた上で、一気に爆発させる究極魔法であった。
無論この魔法もナツメが愛用した魔法の1つで、魔王を追い詰めた技でもあった。
「(よし、魔法制御も変わらず好調だな。これなら「やべぇ、今の‼︎教科書でしか見た事ない『大地鳴動』だよ‼︎」
いつの間にか生徒が来ていたらしい。
と言うか、自身のクラスの生徒だけでなく全校生徒と職員全員いる気がする。
「いやー、マスコミ部に今日の魔法学の最初のクラスばれてまして…。つい私達も来ちゃいました。」
と、少し悪気があるのか、可愛らしい仕草で謝るレイナを他所に、あまりのギャラリーに苛立ったのか、凛音が
「貴様ら私のクラスの授業なんだから帰れー‼︎」
と、得意の炎王蓮舞を制御無しに発動させた所でチャイムが鳴り、慌てて1-D…とレイナ、藤堂を除く全員が訓練所を後にした。
「しかし凄いね、炎堂さん。炎爺並の炎の強さだよ。」
周囲にばら撒いた炎を鎮火しつつ、ナツメは凛音に声をかける。すると
「そりゃお爺様に認められた私だからね。貴様がお爺様と討伐に行ってた間も私は修行していた。この力はお爺様の教えであり、唯一の贈り物なんだ。」
と、照れた様子で返してきた。
その様子に炎爺以外は貴様呼ばわりなんだと苦笑いしつつも、どこか頑固でありながら人を寄せ付ける彼の姿と被り、少しナツメを微笑ませていた。
やがて、炎を全て鎮火し終わった所で改めて生徒を並べ、授業を始める。
というものの、特に誰かの指導をした事がある訳でもないので、とりあえず全員の能力を測るために
「おし、じゃあ今から全力の一撃を俺に当てるんだ。二人ずつ邪魔し合わない様に殺す気で打ってごらん。」
と防衛魔法を展開しながら距離を取った。
「轟け雷鳴、暗黒に染まりし雷よ‼︎『暗雲雷鳴』‼︎」
「大いなる海よ、海王の名の元にひとえに飲み込め‼︎『大津波』‼︎」
「よし、いい感じ。次おいで‼︎」
渾身の中級魔法を打ち込み、肩で息をする生徒を優しく誘導し、反魔法結界の中に連れて行った後に次の生徒を呼び出す。
その行程を繰り返す事15組目。
最後のタッグにして、ナツメが一番目を付けている二人が登場した。
「炎堂さん、ミリアムさん。炎爺やシルフィ姉さんとの関係は気にせず本気でどうぞ。」
「言われなくても貴様を殺す気だ‼︎行くぞミリアム。」
「言われなくても。先生、死なないでくださいね?」
魔力を高める二人を前に、ナツメは軽く微笑むも、二人の潜在能力の高さを改めて感じたのか、すぐさま二人の魔法に対し相殺する準備を行う。
「燃え盛れ烈火、紅蓮の鳳凰を纏いし炎王、我が身すら焼き尽くす紅炎振り撒き、全てを灰燼と返せ‼︎『炎王咆哮』‼︎」
「吹き荒べ藍風、芽吹く大地を食らいつくせ。聖なる羽ばたきは万里を越え、遥か彼方の地平を砕け‼︎『聖藍大嵐』‼︎」
「なんだと⁈」
思わぬ上級魔法に、驚いた瞬間、巨大な竜巻とその風に乗った紅炎がナツメを襲う。
「貴様でも流石に…上級魔法は耐えれまい…‼︎」
「くっ…‼︎広がる聖域、何人たりとも犯さぬ領域。数多の邪なる想いを弾き、全てを無に返せ‼︎『破邪聖域』‼︎」
次の瞬間、ナツメを中心に魔法陣が広がり、凛音とミリアムの発動した魔法を消しとばした。
「なっ…⁉︎」
「『大地鳴動』以外にも禁忌魔法を使えたのですね…。」
「ふぅ…よし、二人とも大丈夫だ。これで全員かな。」
燃え爛れ、風で切り裂かれた衣服を軽く触れて直すと共に、辺りを見渡したナツメは、魔力を使い果たし倒れこんだ生徒の下へと近づき
「母なる大地よ、不動の力をかの者に『活力増強』」
体力と魔力を回復させる魔法をかけていった。
「化け物だな貴様…流石お爺様を従えただけはある…。」
大の字になって倒れている凛音に活力増強をかけつつ、むすっと拗ねた凛音の手を取り起こす。
「母上が言ってた意味がわかりました…。ただ1つを極めただけではナツメ様には敵わないと。あの方は果てし無く貴い方でしたと。
母上を失った時は恨みもしましたが…これ程の方ですら仲間を守れなかった魔王の強さ、再度理解しました。」
同じ様に倒れこんでいるミリアムを起こし、活力増強をかける。
どうやら二人ともナツメを再度認めたらしく、改めてよろしくと微笑んでいた。
「あ、あの〜私もかけて欲しいな〜とかお願いできます?」
そんな二人が羨ましかったのか、何もしていない筈のレイナがナツメの足を掴んで倒れていた。
「いや、レイナ先生は何もしてないはずじゃ…。」
「いえ、魔力を使い果たしました。さっき。無駄に魔法で花の水やりをしてきました。学園中の!」
まるでしがみつくかの様にゆっくりとナツメの足を杖に近づき、ナツメの背におんぶされる様な体勢をしながら耳元で
「私も〜私も〜」
と、呪詛の如く唸っていた。
当然その様子に呆れた生徒に活力増強を嫌という程かけられ、完全復活をしたレイナは、悔しそうに訓練所の端で体育座りをしていた。
「では、各々の課題を見つけたから…次回からはその課題点を直していこうか。じゃあ時間も近いし今日はここまで。お疲れ様。」
そう言うと丁度チャイムが鳴り、解散となった。
ちなみに職員室への道中は勿論の如くレイナに腕を取られていた。