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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、修業する。
49/110

5-10

朝食を食べ終え、昨日の心的疲労感を取るために今日は昼過ぎまで各自自由な時間を過ごす。

そして昼下がり。


「これより技の修行を行う。体を鍛え心を不動にし、技を磨く。それこそ、心技体の境地へと至る道である。」


宗方は若かりし頃から続けている型を見せる。その動きは完璧に洗練されており、無駄の一つもなく流れる様に紡がれる拳の数々は、その一発が全て必殺の一撃な訳ではなく、相手のリズムを狂わす緩急や間髪入れない怒濤の連撃等、どの技からも派生できるものが詰まった言わば繋ぎのオンパレードだった。

だが、それらの繋ぎの合間合間にも、必ず重い一撃やカウンター技なども織り混ざっており、まさに芸術品とも言える型だった。


宗方が型を終えた後、一同の拍手を受けるも表情一つ緩まず巌の様な顔付きで正面を睨む。まさに、武人としての誉れを貫く男の威厳にナツメは感銘を受けた。


「今のが儂が若い時に築き上げ、今なお変化し続ける流派。宗方無刀流の動きじゃ。ちなみに宗方流は剣術、槍術、棒術、杖術まで派生しておる。」


得意げになる事もなく、ただ淡々と説明をする宗方。得意げにならない程自信に満ちた自身の流派を説明すると、その場にいる者を見回し龍膳、ミリアム、孫兄妹を呼び寄せる。


「お主らは武器の心得があるらしいのぅ。其々に修練した後が見えるわい。」


そう言うと、龍膳の指についた杖を握り締め続けた跡やミリアムにある剣だこ、そして春詠の手に出来た異常なまでに発達した槍だこと、妃が普段隠し持っている節棍の存在を明らかにする。それを聞いた4人は驚き、宗方の指摘が正しい事を証明するかの如く其々の武器を取り出す。


「達人は立ち方や指、そして普段からの姿勢で心得の有無を見分ける事が出来ると聞く。さすが宗方先生だな。」


一目で見抜いた宗方を褒めつつ、自身の手を見る。…お世辞にも彼らの手とは違いごく普通の成人の手をしていた。


「『剣聖憑依』では武器を実際に持つ訳ではないしな…しょうがないよな…。」


どこか4人に負けた気がしたナツメは落ち込みつつも、それ以外の生徒と共に無刀流を教わり始める。といっても、ナツメは既にこの間から学んでいる為、刀奈との稽古を始める事にした。


刀奈との稽古は、先日行った準備運動とは違い魔法体術と魔法を使った実践式の稽古だった。

ナツメは近距離までは魔法を使い、至近距離に来ると発勁を使った魔法体術を使うのに対し、刀奈は近距離以降は魔法体術に専念し、ナツメの魔法を去なしては反撃を繰り返していた。

距離を取れば互いに高火力広範囲な魔法を放ち、近くなれば高速、無詠唱の魔法を放ちあいつつ、2人は踊る様にくるくると回転しながら打ち合い続けた。

そのまま15分程経過した辺りで2人は一度休憩を挟み、並んで生徒達を見つめていた。


「技はやはりあの4人が強いのう。」


やはり武器に覚えがある分武術としての基礎は出来ているのか、いきなり宗方流の動きを模倣し始めている。だが、それぞれの元の型から流派を変えて修行を行うという事は、それまでの型を一度忘れないといけない為中々一筋縄ではいかない。

逆に型を身につけるのは本当に才能がない限り初心者の方が楽なのである。


「違う‼︎そこは85の型で繋ぐのじゃ‼︎」


いつもの優しさとは一切違う宗方の怒号が響く。型がたくさんある為連撃となると、どれが最適なのかという選択肢が多く大変になる。だが、その最適を最速かつ最善で選べればこれ以上に強い武術はなかった。

暫くすると無刀流を学んでいた生徒の中から心菜とルナが型を練習し始めた。2人はやはり頭が良い分飲み込みが早く、型を全て覚えた後に行い始めた練習もぎこちないながら最善手を選んでいる。やはり武術にも頭は必要なんだと悟った瞬間だった。


生徒達を見守っていると、横から木の矢が飛んできて、見れば刀奈が再開するとの事なので再び始める。すると、今度は先程とは違い距離を保ちながら戦い始めたので、魔法の撃ち合いが主体となった。するとこちらの方はものの3分で一旦止められる。


「疲れました?」


「戯け。妾はこの程度じゃバテぬわ。

お主の魔法の弱点がわかってのう。それを言う為に止めただけじゃ。」


そう言うと、刀奈は先程打ったナツメの魔法をそのまま同じ様に打つ。


「極めて効率よく合理的な流れじゃが、 余りにも機械的過ぎる。せいぜい5手先が限度じゃな。」


相手の詰める場所を先に打つ流れにしていたとしてもその範囲は最大限に広げれる範囲では5手分しかない。その先を読む相手が現れた場合ナツメは対応できないと刀奈は言った。実際、ナツメが最大限相手の逃げ場を詰める動きをしても、刀奈はその全てをかいくぐり回避して見せていた。つまり、彼女からしてみればまだまだ躱せる範囲までしか手を打たれてない訳であり、防御する必要すらないと言う事になる。


「だが、これはお主の限界点にもなる。限にどれだけ頑張ってもそれ以上は見えぬであろう?」


「ああ。刀奈ちゃんの言う通りこれ以上は見ようがない。それこそ、人外にならなければな。」


今以上の死線を超え、自身の限界ではなく極限を見ない限りは出来ないだろう。ナツメもそれに対しては分かっていた。だが、それを見越して刀奈口を開く。


「そこでじゃ。お主に独自魔法のヒントを与えよう。お主が5手先までしか見えないのなら、『先に布石をうちのそこから5手先を打てば良い』。時と空間を超える魔法…時空魔法の開発なんてどうじゃ。」


過去一度も開発されること無く、研究すら即時に投げ出された時空魔法。それを物にしろと刀奈は言った。その様な終生課題に近い物を出されたナツメは困り果てるが


「何を言う。次元を操る物と時を操る物が近くにおり、更に独自魔法に対して何らかの恩恵のある家系に生まれたお主ならできよう。やる前から諦めるではない。」


そう言いながら刀奈は今日は終わりとばかり部屋に向かう。それを見たナツメは溜め息を吐きつつ他の生徒の様子を見に行った。

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