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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、修業する。
48/110

5-9

夜が明け、翌日。

結局何も起きる事無く夜を越えれた事に安心したナツメは、今だ寝ている刀奈を起こさない様にそっと腕を抜き、代わりに枕を置いて体を起こす。そのまま立ち上がり着替えては大きな音を立てない様に部屋を出た。

理由は、自身の心の弱さを鍛える為に何か出来ないか模索する為だった。


だが、心の修行は1日にしてなるものでは無い。何年もの歳月をかけて耐え続けなければ出来ない。その点では昨日行った刀奈の修行は、心を鍛えるというよりは自身の心の耐久度を理解する為に必要以上の追い込みをかけたと言える。つまり、まだ修行にすらなっていない現状から、方法を模索し修行にする段階に入る。この地点に立っているのであった。


そしてその模索の為にナツメに呼び出された宗方は、朝早いにも関わらず素手で薪を割り終わり、軽く汗をかいた状態でナツメを待っていた。


「宗方先生、お早いお目覚めで。」


「これはこれは。歳をとると目覚めが早いだけですわい。」


挨拶を交わした後、宗方に心の修行についての方法を尋ねる。すると宗方は少し考え、答えとは言わないもののヒントになりそうな事を話し始める。


「勇者殿は戦闘における精神や肉体自体は優れておる。だが、日常的な面での抵抗力が低いんじゃ。しかしそれは、勇者殿が俗世を捨てて常に厳しい環境の中で生きてきた証。じゃから、『教師』と言う立場を活かして昨日の様に、仲間では無く生徒を守る事を常に考えなさい。仲間の死は何とか受け入れられても、生徒の死は中々受け入れられないからのぅ…。」


「仲間では無く、生徒として…か。了解です。これからそう心がけてみますね。」


宗方の言葉に何か胸のつっかえが取れた様な気がしたナツメは、模索するのをやめて生徒達が眠る部屋の前で彼らの事を再び思い直す。

完璧超人かと思えば寝相が悪かったりお茶目な面があるルナ。しっかり者かと思えば時々言葉が理解不能な鈴蘭。心と技を鍛える為にイギリスに残ったハルト。姉を支えるストッパーな癖に辛辣な楓。威圧感は凄いのに殺生は好まず常に優しい龍膳。天才的なコンビネーションを見せる割に語学は致命的な春詠。ひたむきな努力家なのに内気な妃。魔法も勉強も凄まじく頑張っているのにドジな心菜。世界唯一の適性を持っているのにほぼ無欲な時丸。魔力は一端なのに制御出来ない凛音。逆に制御は完璧なのに力の出し方が下手なミリアム。自身以上の適性を持っている癖にただの変態になり始めている桜。


皆が皆個性的だった。そして、一人一人ナツメに対しその個性をぶつけてきている。だかま、ナツメはどうだろうか。ひたむきに魔法と向き合ってきたのもあってか、個性らしい個性が無い気がしてきた。俺は彼らに対し同じく個性でぶつかれているのか…そう考えて悩み始めた時だった。


「それが今のお主に足りぬものよ。ナツメ。お主の個性は何じゃ。お主の魔法は母や父譲り、または教科書通りの魔法じゃ。何故奴らと違い独自魔法を生み出せないのか。簡単な話じゃ。『お主は今お主独自の個性が無いのじゃ』。」


視線を感じ、隣を見ると強い眼差しでナツメを見つめる刀奈がいた。刀奈は、ナツメの修正すべき点を言った後更に続ける。


「お主は勇者としての使命感でのみ動いている。とても立派じゃ。だが、今のお主から勇者を取ったら何が残る。いくら強くても、誰かの贋作でしか無いのじゃ。」


炎爺に躾けられ、シルフィに愛され、マリンに教わり、曹姜の背中を見てきた。そしてジェシカと太志から受け継いだ魔法。そう、ナツメを形成するものはほとんど授かり物で自らが自らを表した個性が見当たらなかった。


「お主以外のだれかが勇者をしていたら、お主はそれらすらも得ていない落ちこぼれになり得たのじゃ。どこまでも甘々なガキじゃよ。」


刀奈から放たれる言葉は厳しいものだった。しかし、それがナツメの行く道を指し示す唯一の言葉である事をナツメは知っている。だから


「「独自魔法を生み出せ。」」


2人は顔すら合わせずに声を揃える。その結果自身の全てを失ってでも生き続ける、ナツメ・レイニーデイが生涯をかけた独自魔法を産み出す。これが答えだった。


「わかっているのならば善は急げじゃ。想起し、実践し、習得せよ。」


刀奈は振り向くこと無く刀奈自身の部屋へと向かう。どうやらそれを伝える必要があるのか見に来たらしい。だが、ナツメのすっきりした顔を見てもう大丈夫と思ったのだろう。


そしてその刀奈を見て、ナツメは一言。


「刀奈ちゃん。ありがとう。だが、衣服の乱れは直そう。浴衣で後ろからぱんつ丸見えは流石に凄すぎる。」


「お、お主は真面目な事とそういう注意を同じ感じで言うなっ‼︎妾でも恥ずかしい事はあるのじゃ‼︎」


熊さんのプリントされた下着を隠しつつ、格好つけたつもりが締まらなかった刀奈は走って逃げて行った。


その後、暫くして生徒達が起きてくる。昨日は余程答えたのであろう。皆一様にげっそりした顔で出てきた。



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