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結局、勇ましく立ち上がったルナを見た他の生徒も奮起し、誰1人かける事なく時間を迎えた。
「終いじゃ‼︎むぅ…っ誰1人めげる事なく耐えるか。妾としてはちょっと不満じゃのう。」
不機嫌そうに屋根から飛び降り、ナツメの肩に収まった刀奈は、血塗れのナツメやルナ、ふくらはぎから臀部にかけて大火傷を負った龍膳の怪我を触れる事なく治す。対しナツメ達は感謝しつつも何処か消化不良な表情を見せる。が、先程まで一言も話さなかった心菜の
「ふぁ…あまりに凄い悪意だったので自らに魔法かけて寝てました…。おはようございます。」
あまりにも気の抜けた挨拶に全員吹き出し、その場の空気が和んだ。その後、一同は夕食に向かい、その卓の中で刀奈の正体について聞いた。
「約束じゃからのぅ。しょうがない。妾の真名は宗方刀奈ではなく、鬼道捨羅覇。御堂の者ならこの苗字、思い当たるものがあるじゃろう?」
「ーッ⁈」
刀奈が名乗った瞬間、鈴蘭の顔が強張る。そしてその理由を補うかの様に楓が口を開いた。
「…鬼道と言えば、既に壊滅した筈の悪霊の類いを扱う禁忌魔法しかない一族です。その余りにも危険すぎる存在は遥か昔…それこそ、魔法と言う概念がなく陰陽師と言われる存在が居た時代に退治され、一家晒し首になった筈では…‼︎」
「うむ。そして妾はその時代の頭首、お主らの祖先にあたる御堂鬼灯により一度は殺された存在じゃ。」
刀奈の言葉に絶句する一同。だが、それを無視して刀奈は続け
「しかし御堂家が知らぬ禁忌が我らにはあってのぅ。そこの霧雨坊みたいな時間魔法があの時代にもあったのじゃ。当時の名を『鬼道転生・死魂超越』、今の名だと『輪廻転生』かのぅ。」
その名を聞いた瞬間、今度は鈴蘭以外の生徒ーそれにナツメも加えーが思わず立ち上がる。それを見た刀奈はニヤリと微笑み
「お主らがじじに呼ばれた理由が分かったかのぅ?」
目の前の鮭をパクリと口に入れながら、言うのであった。
その後、一同は何とも言えない表情をしながらも刀奈と宗方に呼び出された為、先程とは別の広間へと移動する。その広間に入ると刀奈が人払い並びに盗聴不可の結界を張る。
「さて、では真面目な話じゃ。お主らが阻止しようとしている『輪廻転生』についてじゃが…幾つか条件があってのぅ。それをクリアしなければ発動しないのじゃ。」
刀奈は頬杖を付きながら言い、古い紙を広げる。するとそこには巨大な魔法陣が描かれていた。
「まずこれが『輪廻転生』を行う為の魔法陣じゃ。この逆五芒星を魔法使いの血で埋めるのが第1の条件じゃ。そして第2の条件がこの逆五芒星に重なる様に描かれている七角形じゃ。この地点に人並み外れた魔法使いを置かねばならぬ。そして第3は『生き返らせる存在と同量の魔力を集める』。これが恐らく一番難しい事なのじゃ。」
魔力と言うのは憶測でしか測れず、これといった数値は無い。その為、その相手の限界を知っていなければ分からないのだ。恐らくはその調整の為に学生を連れて行くつもりだったのであろう。
そして刀奈はさらに続ける。
「この中でお主らが最も取るべき最善手は七角形の魔法使いを殺す事じゃ。1人でもかければその瞬間失敗する。だがもし間に合わなかった場合は…ナツメよ。彼奴と再戦じゃ。」
それを聞いたナツメはゴクリと生唾を飲み込む。だが、それを断る理由が無く
「そんな迷い、先程消えましたよ。」
それを聞いた刀奈は頷き、任せたとばかりにナツメの肩を叩いた。だが、鈴蘭には一つ腑に落ちない事があったらしく
「何故鬼道の者が御堂の者もいる団体に力添えを?」
「至極簡単じゃ。彼奴等は妾の書いた書物を盗み、『輪廻転生』しようとしておる。そんな事妾は許せぬのじゃ。」
刀奈に聞いた問いは即座に答えられ、何とも自然に答えられた鈴蘭は思わず頷く。更に刀奈は続け
「それに妾は別に御堂家を恨んではおらぬ。むしろ、あの時代から抜け出す事が出来たきっかけを作って貰えたからのぅ。感謝しておるのじゃ。」
それを聞いた鈴蘭は複雑な表情をしつつも、本人が言っている以上それを否定する訳にはいかない。それで納得する事にした鈴蘭は溜め息を吐き
「現頭首には隠しておきます。でなければ再び刀奈さんを殺さなければならないので…。」
それに対し感謝の言葉を述べる刀奈。やはりもう一度殺されるのは酷らしく、それもあり宗方から名前を借りているとの事だった。
その後、7神柱の一角を倒す前提で動く予定を立てた一同は今後の行動予定を組み立てる。何より優先すべきは藤堂の奪還。そして、『輪廻転生』の阻止である。それに賛同した一同はそれ以上に情報が無い為話し合いは一旦終わりを迎えた。
その後は生徒達の体調を考えて解散する事になったのだが、全員が立ち上がった瞬間桜が
「そういや見た目うちより幼いのにそれだけ生きてるって事は…刀奈ってロリババア…。」
「よし今すぐ御堂と鬼道の戦争現代版を行うかのぅ。」
ここ最近ナツメを独占されていた鬱憤を晴らされた刀奈は喚きながら桜に掴みかかり暴れるのであった。
その騒動が収まり、一同が寝静まった頃。ナツメも就寝しようと転がった瞬間、何か違和感を感じる。と言っても何かがいる訳では無くその場に居ながら分からないと言う違和感だった。だが、その正体はすぐに気づく。
「やはり気づかれるのぅ。今日の仕返しがてらお主を夜這いしてやろうと思っておったのに。」
完全に気配を消していた刀奈だった。しかしナツメも想定して居なかった訳では無くむしろそう来るだろうと思っていた為、慌てる事無く彼女を迎え入れる。
「何、特別何かの用がある訳では無い。ただ妾にも人肌恋しくなる時はあるのじゃ。」
そう言うとナツメの布団に入り込みナツメの腕を枕にして寄り添う。それを無碍に断る事は出来ずされるがままにするも、
「何もしないなら構わん。何もするなよ?」
念を押しておく。それに対し明らかに不機嫌な顔をした刀奈を見る限り何かを行うつもりだったらしい。念を推しておいてよかった。