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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、修業する。
45/110

5-6

刀奈の一声によって開始された心の鍛錬は、ナツメや宗方ですら額に汗をかくほど凄まじく、生徒達がその場から一歩う動くのにも1時間を要した。それに対し敵意を送る刀奈はその見た目こそいつも通りであるが、彼女がその身から発している覇気は言葉にならない程強く一度ナツメの肩に乗った瞬間、ナツメが崩れ落ちる程だった。だが、それでも刀奈はずらないで彼の肩に居座り続け、ナツメが動き出すまで頭をペシペシと叩いては叱咤するばかりだった。


ようやく動き出した頃には自分が崩れ落ちた形を残したまま汗が地面に滴っており、その全てがただの敵意だというものだから改めて刀奈の覇気の強さに驚く。一体何度死線を乗り越え何度己の限界を超え生き長らえばこの境地に達するのだろうかとすら考えた。

その後も重い足取りのままとりあえず水分補給を行い、その状況下でも戦える様に自ら魔法を唱えては空に放つ。するとそれに感心した刀奈は一言


「お主だけには特別に愛を込めてもう一段階強い敵意送って良いかの?」


「な、中々歪んだ愛だ…‼︎それよりこれ以上に強くできるものなのか…っ⁈」


ナツメのやや引き気味の笑みを見て満足したのか刀奈は嬉しそうに足をパタパタと振りつつ


「後4段階位はあげれるぞぃ。規模もその気になれば街一つ位なら容易いぞよ。」


「…っつまり今のこれでまだ6割なのか…っ一体何者だ刀奈ちゃん。」


「ふむ。そうじゃな。お主らが無事耐え切れれば教えてやろうかのう。妾の正体をな。」


その言葉を言った瞬間、敵意や先程までの覇気とは違う明らかな重圧がのしかかる。もしかするとこれは藪蛇だったのかもしれない。だが、それ以上に刀奈と言う存在への好奇心が勝ったナツメは受諾し、再び魔法を打ち始めた。


一方、生徒達はそれぞれやっとの思いで動きながら、各々が気を紛らわす為に思い思いの行動を取っていた。その中でもとりわけ気の持ち様を掴んだらしい龍膳は足下に火を焚べ、その上で座禅を始めて経を読み始めた。その様子をみた刀奈はケタケタと笑い


「現代に苦を苦で乗り切る本物の僧が居たとは驚いたのぅ。その齢でここまで強い心の持ち主を見たのは始めてじゃ。」


「有り難きお言葉…‼︎某の銘に深く刻みつけて頂ける事、真に感謝致す…っ‼︎」


刀奈の言葉に深く頭を下げ、再び経を読み始める龍膳。どうやら刀奈の見立てではもう彼はこの敵意を乗り越え己の心を鋼と化す事に成功したらしい。

その後も、刀奈はひたすら魔法を打とうとしていたナツメを使い他の生徒の様子を見回し始める。すると、誰もが未だ音を上げずに耐え己の信念を曲げるまいと我慢していた。

だが、開始から4時間が経ち残り時間としては折り返しになったある時、刀奈が全員に聞こえる様に声を張る。


「お主ら、良く前半を超えた。褒めて使わすぞぃ。これより残り2辰刻…4時間は敵意の形を変えるぞぃ。これを乗り切れば、お主らは晴れて次の段階に進める。だが、妾の見立てでは半数も耐えれるかわからぬ。見事全員で耐えて見せよ‼︎」


その言葉に再度目に力を込める一同。しかし、次の瞬間放たれた敵意によって、一同は崩れ落ち、先程まで耐えていた龍膳は苦悶の表情を見せ、それ以上に耐え切って見せていたナツメや宗方ですら信じられないと言う表情で地面を見つめていた。


「この敵意。見事耐えて見せ、鋼の心を更に飛躍させ無の境地を越えるのじゃ。」


その言葉と共に、刀奈はナツメの肩の上ではなく施設の屋根瓦の上に座る。その表情は悪意そのものに満ちており、いかに相手にとって効果的かつ非情に満ちたものなのかを理解しているからこそ見せる笑みを浮かべていた。


「ま、特にナツメや。お主はこれを耐えなければならないのじゃ。気を張って挑むが良いぞぃ。」


刀奈が流した敵意は単純に段階を上げた敵意ではなくー


その者が最も愛する者から向けられる敵意だった。


刀奈が新たに発した敵意は一同の心を効果的に抉り、もはや笑う膝を必死に抑えつけるので精一杯になっていた。特に、皆から慕われ、愛されてきたルナにはこれが人一倍効いているらしく、首を必死に振りながら涙の籠った声でその敵意を否定し続ける。だが、それで収まるほど甘い鍛錬ではない事は明らかであり、普段ならば一本一本丁寧に手入れされている髪をくしゃくしゃに掻きむしりながら絶望した表情で蹲る。

それを見た刀奈は、ルナはもうダメだと思い目線を切ろうとした矢先


「刀奈っ‼︎ルナは…まだ…っ諦めてない…っ‼︎」


ナツメが刀奈に対し空気が揺れる程の大声で叫んだ。だが、それに対し刀奈は冷たく


「あのまま放っておけば完全に心が砕け再起不能じゃ。そうなればあの娘は2度と使えぬ。ならばここで棄て置いた方が良かろう?」


ナツメに切り捨てる事を選ばせる為に言い放った。だが、それでもナツメは首を横に振りルナに鍛錬を続けさせる。そして


「ルナだけじゃない‼︎お前ら、この程度で砕ける心なら…っ全員…俺の教え子を語るな‼︎‼︎」


血が流れる程強く唇を噛み締め、血が滲むほど拳を握り、吠える様な雄叫びをあげながらナツメは立ち上がる。それを見た刀奈は驚き、嬉しそうに手を叩いて


「自らだけでなく生徒に喝を入れるとは…魔法使いとしても教師としても面白い奴じゃっ‼︎」


ケラケラと笑いながら一同を見下すのであった。

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