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自身の何倍もある巨大な門を開ける所か吹き飛ばした少女は、足を運ぶ事すらままならずその場に倒れる。あまりの爆音に動く事すら忘れていたナツメは凛音が倒れた瞬間思い出したかの様に走り出し、彼女に近づく。すると、凛音は必死に顔を上げ
「来るなっ‼︎…私だって…自力でっ…超えるんだ…っ貴様にな…んか…っ頼るものかっ‼︎」
「凛音…っ‼︎」
特別扱いをされるのを嫌い、服が泥だらけになるのも御構い無しに這い蹲りながら門を越えようとする。力なく開いた目はしかしまっすぐナツメを見つめ、やっとの事で持ち上げた両腕は震えながらも動かない体を少しずつ、少しずつ前進させていた。その姿はとても弱々しいものにしか見えなかったが、ナツメには命の炎を燃やしながら誰にも劣る事を嫌い誰よりも努力を続け誰よりもナツメに背中を任せてくれた炎爺…炎堂戒次を彷彿とさせる位の力強さを見せていた。
そして凛音の腕が門が閉ざしていた入り口を超え、ナツメの足先に触れた瞬間
「貴様…見てたな?私は…あいつらに劣っていた訳では…なかっ…っ。」
今まで見てきた笑顔が燻る程美しい、泥に汚れた笑顔を見せて気を失った。
「凛音っ‼︎…良くやった…。お前は誰にも負けてない…俺が認めてやるよ。」
完全に気を失い動かない凛音を抱き抱え、皆が休んでいる部屋へと運びながらナツメは誰にも聞こえない様に呟く。人一倍負けず嫌いの獅子に優しく微笑みながら。
「…で、どうしよう。」
ナツメは一同が寝静まったであろう女子が止まっている部屋へと凛音を連れて行こうとしたが、目を覚まさせると困る上寝相が特別悪いルナが普通に寝ている気がしない為しょうがなく自分の部屋の布団に寝かす。
そして自分は過去の経験を元に凛音から離れた壁に寄りかかった後に腹が空いた事を思い出し悩んでいた。すると襖が静かに開き刀奈が現れる。
「ほれ、お主まだ食っておらんだろう。妾が作っておいたぞ。」
「ん…刀奈ちゃんか。ありがとな。」
ナツメが礼を言いつつ刀奈が作ったおにぎりを食べていると、感心したかの様に凛音を見つめながら
「この地に居を据えて以来門が壊されたのは初めてじゃ。何とも不器用で力付い娘なのじゃ。」
「凛音の力強さは炎堂の家系内でも特等凄いものだと思う。ただ惜しいのは下手くそなんだよ。」
ナツメがスヤスヤと気持ち良さそうに眠る凛音を見ながら微笑み、刀奈に皿を返す。
「そうじゃな。その不器用が治ればあの娘は歴代の炎堂の血筋を見ても比にならない程の使い手になるだろう。本当に惜しい娘じゃ。」
皿を受け取り溜め息をつく刀奈。
そして襖を開けつつ静かに溢れ出したかつてない闘気を見せつつ
「明日が楽しみじゃ。いや楽しみじゃ。」
閉まり行く襖と襖の隙間から一瞬だけ見えた表情にぞわりとする。門を開けた時から疑っていたが…刀奈が放つ覇気や闘気は紛れもなく本物だった。それを感じたナツメは熱が上がり始める体を抑えつつ
「こういった言い様のない高ぶりは母上譲りだな。」
目を閉じ体を無理矢理睡眠状態に持って行き眠りへと着いた。
翌日。
「にゃああああっ⁈」
驚いた凛音の大声でナツメは目を覚ます。
すると、凛音は制服を半脱ぎの状態で布団の中に戻っており
「きっききききさっ貴様なぜ私と同じ部屋にあるっ⁈」
よくわからない日本語を言い始めたので昨日の夜の事を話す。すると落ち着いたのか凛音は赤い顔でコクコクと頷いて聞き、その後一度深呼吸をして
「と、とりあえずそれなら風呂に入ってくる…っそ、それと布団は責任もって変えてもらうからっ‼︎」
「ん、まぁそれは好きにすればいいがどっちでも俺は構わんぞ。」
すると凛音は涙目になりながら首を振り
「でっでもに、臭いがっ汗とかの臭いがっ‼︎流石にやだっ‼︎」
年相応な恥ずかしさを見せた凛音が可愛らしく笑うと、凛音は更に目に涙を浮かべながら笑うなと枕を投げて来る。それを回避しながら枕を投げ返す。その後、一つの枕を使って枕投げをしていると騒ぎに気付いた生徒がナツメの部屋に来る。すると真っ先に顔を覗かせたミリアムの顔面に当たり
「ぷぇっ⁈」
奇妙な声を出して動きを止めた。するとそれを聞いた凛音は吹き出し
「貴様…ぷっ…ぷぇっはないだろ…あはははっぶぁっ‼︎」
青筋を立てたミリアムに仕返しをされた。それを見てナツメが笑っているとナツメに対し枕が飛んできて、そのまま騒ぎながら3人で枕投げが始まる。すると、それを見た鈴蘭は自分達の部屋から枕を全て持ってきて
「ナツメ先生くらえっ‼︎これはルナの枕‼︎」
「うぉっ⁈」
「鈴蘭⁈そんなの言わなくていいからっ‼︎」
「あ、確かにルナの匂いがする。」
「〜っ‼︎」
首まで赤くしたルナに追いかけられつつ鈴蘭は次に
「これはミリアムちゃんの枕だっ‼︎」
「先輩⁈」
「当たらんぞっ‼︎」
「何のっこれは心菜ちゃんのっ‼︎しかも涎付きっ‼︎」
「んなもん投げんな‼︎」
「何で私のなげてるんですかぁぁぁぁっ‼︎」
「そして桜本体‼︎」
「ナツメ先生〜っ抱きしめてっ‼︎」
「危ないわ‼︎楓ガード‼︎」
「ひっ⁈」
「天 誅 っ ‼︎」
そんな感じで盛り上がっていると龍膳と時丸もナツメの部屋に現れ
「な、なんて破廉恥な…っ」
凛音とナツメ以外は浴衣を着て寝ていた為乱れており、俗とは程遠い龍膳にとっては地獄絵図だったのか、鼻から一筋の血を垂らし即座に逃げていく。そして時丸は慌てふためきながら目を隠し、太ももやら胸元やらがはだけて見えている女子達を見ない様にと必死だった。