5-3
刀奈が足蹴にして入っていったもんは、轟音を響かせて閉まり、再びその口をとじた。どう考えても足で開ける重さではない。
とりあえず扉を全員で力任せに押してみる。しかし当然の如くビクともせず、一同息がきれるだけであった。
そこで、ルナが鉄を光で焼き切ろうと上級魔法を放つが
「やっぱりだめね。届きもしてないわ。」
門の手前にある結界で全てふせがれた。更に、風魔法で上昇し、上から入ろうとしたミリアムは
「ぬおっ⁈」
「きゃぁぁぁぁっ⁈ごごごごめんなさいっ‼︎」
これまた運悪くナツメの背中辺りに転送され、落ちそうになったミリアムがしがみついた事によりおんぶする形となっていた。
慌てるミリアムを降ろし、どの様に開けるか考えるナツメ。と言ってもナツメの中では一応答えらしい考えはあり、それ以外では開かない気がしていた。
「多分これが正解なのだが…。見ておけ。」
それだけ言うとナツメはおもむろに門へと近づき、門に手を当てて集中し始める。そしてその集中が高まった瞬間
「哈ッ‼︎」
掌に魔力を集め、一気に放出した。すると門は思い切り跳ね、その口を開かせた。
「ふむ。成功か。じゃ、待ってるぞ。」
それだけ言い残しナツメは中に入る。すると中では宗方と刀奈が寛いでおり
「これはこれは勇者殿。やはり門の絡繰を即座に見破られましたか。」
「ええ、刀奈ちゃんが開けたのを見て割と直ぐに分かりました。」
「妾としてもいい椅子が直ぐに来て喜ばしいぞ。」
ナツメの登場に宗方は褒め、刀奈は宗方に案内され胡座をかいて座ったナツメの膝の上にすっぽりとはまった。
「流石じじが認めた男じゃ。座り心地も良い。」
「ははは…っ気に入って貰えて光栄だよ。」
二人の様子を見て喜ばしい風に笑顔を見せる宗方とお茶を交わしつつ雑談を始める。すると、直ぐに門が開く音がした。
「我明白。功夫喜欢的感觉或。」
孫兄妹が直ぐに入ってきた。
中国武術を家の習わしで習っていた二人は、日本語でいう所の発勁が使えた為、ナツメの動きを見て直ぐに気付いたらしい。そのまま彼らも宗方に案内されて移動していると
「流石に3回もみたら楽勝ね。」
「ええ。原理さえ分かれば。」
制御力に定評のあるミリアムとルナが入ってきた。ナツメの後直ぐに4人も入ってきた事に驚いた宗方は
「これは…流石は勇者殿が選ばれた人材ですな。飲み込みが早い。」
「まぁ元々使えた孫兄妹はさておき、この二人の魔法制御力は類い稀なものがありますからね。」
ナツメに褒められ上機嫌な二人は案内されるままナツメ達の元へと行くが、彼の膝の上に居座る少女を見て一気に機嫌を悪くする。そのまま視線を交わしつつ睨み合う3人を呆れた目で見ながら談笑しつつ、2時間は経ったかと言う頃に
「これ中々キツいわ…。良く平気な顔で出来たわね。チョベリバ感あるわ…。」
「最近抑えてたのにどうして出るんですかっ…古いです‼︎」
「はぁ…ナツメ先生に膝枕して貰わないと…。」
何とか入ってきた御堂3姉妹が疲れた表情を見せながら来た。その後、更に1時間位経って心菜と龍膳が門を開け、入った瞬間へたれていたので宗方は従者を呼び寄せ、5人を案内させた。
これで9人が既に成功した形となっており残るは時丸と凛音だった。
しかし、日が傾いても二人が成功したと言う報告は入って来ないままで宗方がそろそろ夕食にする為、2人を一度中に入れようと外に出た瞬間
「貴様の手は借りん‼︎‼︎」
負けず嫌いの凛音が大声で吠え、声は出さないものの時丸も目で同じ様に訴えてきていたらしく、宗方は諦めて皆を先に広間へと案内した。だが、自分の生徒が成功するまで諦めない姿に感銘を受けたナツメは
「宗方先生、俺はあいつらを待ちます。先に皆と食事を取ってください。」
「…先生ありきの生徒でしたか。この宗方、それを止める事は出来ませぬ。」
2人を門の前で待つ事にした。
それから待つ事4時間。既に日付が変わろうとした瞬間だった。それまでピクリともしていなかった門が動き、時丸が中に入る。大粒の汗を流し、ほぼ魔力も切れかけて半ば意識すらない時丸にナツメは肩を貸し
「よくやった。偉いぞ。霧雨。あとはゆっくり休め。」
声をかけると時丸は小さく頷きらそのまま意識を失った。その時丸を従者に任せ、残った凛音を静かに待った。
そして1時間後。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
凛音の精一杯の怒号と共に、巨大な門が燃え、そのまま蝶番を壊して弾け飛んだ。