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暫く坂道を登ると、再び魔狩草が生い茂った地域に入り足が重く感じ始める。その為、生徒達の歩く速さは次第に遅くなり始めた。すると刀奈がナツメの肩の上から叱咤し、それに苛立った数名の生徒がナツメに向かい殺意を飛ばすという何の生産性の無いマッチポンプが行われていた。
「と言うかあのちびっ子いつまで先生に乗ってるのよ…っ‼︎」
足元の魔狩草に魔力を吸われ、苛立つルナは嫉妬を込めて刀奈を睨む。だが、当の刀奈は御構い無しにナツメと親しく会話していたため、尚の事苛立った。
その後も、足を掬われこけそうになった生徒には叱咤し、自分だけは楽をしている姿を見てどんどん苛立っていた生徒は、足を踏み鳴らすかの様に歩き始める。
「刀奈ちゃん、あまりからかわない方が。」
「気にするで無い。じじ様から刀奈に与えられた指令じゃ。」
敢えて煽ることで、怒りで足を止める者が居れば指揮の乱れに繋がる為、確かめたいといった目的らしい。それを聞き納得したナツメは何故か時折自分に向けられる殺意に疑問を持ちつつも内心では頑張ってくれと応援していた。
それからまた暫くすると、ナツメ達の前に明らかに待ち伏せしてますと言っているかの如く怪しい二本の木が現れる。それを見た生徒一同は
「誰がストレス発散する?」
裏にいる人間を確認すらもせず龍膳以外の全員で魔法を唱え始める。すると慌てて二人組の男が顔を出し
「こ、ここを通りたければ」
「我々が出すクイズに答えよ‼︎」
ドンと腕を組んで道を塞いだ。すると既に苛立ちが上限に違い凛音は
「その前に貴様らに問題だ。クイズの前に道を譲る。ハイかイイエで答えろ。ちなみに無言は3番の死だ。」
「それ生きる為にはハイしか無いよね。」
「いや、どれでも燃やす。」
「こわっ⁈」
それを聞いた男の内の一人が閃いた表情を見せ
「炎堂凛音とかけて、選択の余地がない問題とときます。」
「そ、その心は?」
「どちらも灰すら残らないでしょう‼︎」
「くだらんわ!死ね‼︎」
いきなり謎解きを始めた男は、満足した顔で答えた瞬間丸焦げになった。その威力をみて相方は呆気に取られ
「こ、ここ本当に魔狩草の生い茂った場所だよな…?」
周囲を見回し魔狩草の確認を行おうとする。だが…
「あの忌々しい草ならもうそろそろムカついてきたのでこの周囲一帯狩取りましたが?」
凛音同様我慢の限界を迎えていたミリアムは、青筋を立てながら指先で高圧の風を生成しては周囲に向け放ち、その度に魔狩草が魔力を吸収する前に刈り取られては微塵に切り裂かれていた。
「うわぁ、半端ない環境破壊…。」
「あ゛ぁ?」
「ひぃぃぃっ⁈」
先程まで威厳のある感じを装っていた男は、ミリアムに一睨みされた瞬間縮こまり結果、クイズを出す事なく相方を引きずってその場から逃げ去った。
それを見たナツメは内心ご愁傷様と思いつつも、二人がストレス発散がてらに開いた道を進む。すると、今度は魔狩草は生えていないものの封魔の神木がもはや嫌がらせではないかと思う程生えた森に到着する。
一同は項垂れながら神木の狭間を歩き始め、次第にその足取りが先程以上に重くなり始める。
「と言うかこれいくら何でも生え過ぎでしょう…‼︎」
流石のナツメも体に疲労感が出てき始めたのか、大粒の汗を流しながら息を切らしている。だが、休憩しようにも周囲が周囲な為、余計魔力を吸われて動けなくなってしまう。なので足を止める事が出来ず、仕方なく歩き続けていると
「も、もうダメ…動けない…っ」
慣れない山道と何時になったら着くのかわからない不安感でルナが音を上げ始めた。すると、それに続く様に殆どの生徒が足を止めてしまう。
「お主らこんな所で止まると死ぬぞっ。もう少し歩けば頂上じゃ。ほれ頑張れっ。」
刀奈が心配そうな表情を見せつつ、喝を入れる。しかしナツメの上でそれを言っている以上嫌味にしか聞こえなかった生徒達は
「…」
視線だけで刀奈を黙らせ、暫くここで休憩しようとしていた。
だが、ここで山道に慣れ親しんでいる龍膳が口を開く。
「この山道で休むと動けなくなるのは至極当然。某は僧故山道は理解しておる。何卒、その童の声を信じて下され。」
それだけ言うと龍膳はあらかじめ用意していた全員分の活力草で作った茶を手渡し、飲む様に勧める。すると、先程までの気怠さが嘘の様に消え元気が出てきた。
「龍膳、助かった。いいお茶だった。」
「お気になさられるな。これだけしか用意出来なかった某の不遜でもあります故…。」
ナツメの感謝に少し照れ臭そうにしながらも、龍膳は特に疲れているルナに自分の分であろう茶を渡し、彼自体はナツメの後に着いて歩き始めた。
「龍膳、お前は飲まなくて良かったのか?」
「構いませぬ。龍膳の僧はこれより高所で常日頃から鍛錬している故。」
その言葉にナツメは驚き、もしかすると忍耐力においては龍膳に一切届かないのではないかと思ってしまう。時間がある時に龍膳寺の修行に参加してみようか。とまで思った。
そのまま、元気を取り戻した一同は頂上の付近まで到達し、足を止める。
その理由は
「これは…っ流石に予想外すぎる…っ‼︎」
巨大な鉄で出来た門に魔法反射の結界陣。そして
「この門を開ければじじ様が待つ頂じゃ。では妾は先に行くからの。」
その扉を足で蹴り刀奈が入っていったのを見て一同は唖然とした。